第四話
サラのマンション
ピンポーン
「はい」
「サラ?私、ルカよ。挨拶に来たの」
「挨拶?ちょっと待って」
サラがドアを開けると、廊下にはルカとロフィが立っていた。
「こんばんは。下に引っ越した者です。よろしく」
と、ルカはにっこりと笑って挨拶をした。
「下に?うちの下?」
さすがに、サラも目を丸くした。
「そうよ、何か文句ある?」
「ないけど……ロフィも?」
「あ、や、オレはルカに引きずられて……別に住まないよ!」
サラの疑いのまなざしを受けて慌ててロフィは弁解した。
「そーおー?」
そこに郵便局の人がやってきた。
「失礼ですが、ルカ・ジュデェールさんと、ロフィ・シュレームさん宛に引っ越し祝いが来ていますが?」
「引っ越し祝い?変ねぇ……誰にも言ってないのに……」
ルカは受け取りで機械に手をかざしながら言った。サラはそれを聞いて急に荷物を奪い取ると外に向けて思いっきり放り投げた。
「何するのよ!」
ドッカーン
大きな爆発音がした。
息をついて見ると、ルカはあまりの急な衝撃に座り込み、ロフィも目を丸くして固まっており、郵便局員はいなくなっていた。呆然としている二人にサラは言った。
「中でお茶でもいかが?」
「……なに、あれ?」
ソファに座ってしばらくは呆然としていたが、サラがお茶を出した頃にやっとルカが言った。
「あれ……何よ。爆弾じゃない」
「そうねぇ」
「そうねぇってどうしてあんな物が届くのよ!死ぬじゃない!」
「死なないわよ。音は凄いけど殺傷能力は低いの。心臓が悪い人には凶器かもしれないけど。二つあったから凄い音だったわね。これで、また住人が減るかも」
「また?まさか前の住人も?」
と、お茶を持とうにも手が震えて持てずにいるロフィが言った。
「そう」
「そうって、どうしてそんなに落ちついていられるのよ!」
と、ルカがヒステリックに騒いだ。
「うるさいわね……ん?」
サラは慌てて、部屋の電気を消した。
「ソファの下に隠れて!」
「下?下って何?何、この洞窟?」
答える前に窓の向こうに大きな騒音を立てて、ヘリコプターがこっちに向いて攻撃しようとしているのが見えた。ロフィは反射的にルカを押し込み、自分も入り込んだ。
ダダダダダダダダ……。
すさまじい音がしばらく続いたが、音が消えるまで二人はじっとしていた。急に大きな爆発音と共に消えた。
ルカとロフィは音がしなくなってから、おそるおそる顔を出してみると窓は防弾になっているにもかかわらず、かなりボロボロだった。その窓から煙が見えている。おそるおそる下を見てみると、墜落して炎上しているヘリコプターの姿が見えた。
「サラ?」
ロフィが言った。サラの姿が見えない。
「サラ!」
「ロフィ、みて、これ」
と、ルカはかけられていた鏡を見つめていた。
「ん?」
「そのまま、ソファの下にもぐること。 サラ って、なんなの、これ?なんなの、あの子?」
「もぐること?あ、奥が階段になってる」
ロフィはソファの下に階段があるのを見つけた。ドンドンドン急にドアが叩かれ、怖くなり、二人は慌てて階段を下りていった。そると、外に出た。
「どこよ、ここ?」
と、ルカは辺りを見回した。
「外だね」
「そんなことは見ればわかるわよ!」
と、ヒステリックに怒鳴った。
「あれ?あっちで人の声が……」
そっと近づいて見ると、どうやらサラのマンションの住人たちらしい人々が騒いでいた。さっきの騒ぎから非難してきたようだ。
「爆弾クラッカーの後はヘリコプター襲来か」
「私、半年後には出て行くわ」
「オレも。安くても耐えられない」
「私も普通のヘリコプターは音が減っているにもかかわらず、怖くって、つい見ちゃうのよね」
「最近、寝られなくって、田舎に帰ろうと思うんだ」
「俺も金がたまったら早めに出て行くよ。命の方が大事だもんな……」
「そうだよねぇ」
住人達はあれこれ言いつつ、マンションに向かって歩き出した。そして、ルカとロフィはそれに続いて歩いていった。もうすぐマンションという所で二人は安心したのか、気がついていなかった。二人をつけている人物がいることに。口をふさがれるまで。
六日目……
やっとマシになってきたのか、タームはそこそこ食べられるようになっていた。バリは少ししか食べずにいた。朝からドアの前にテスト日とあった。
「二回目のテストかぁ……。だめだろうなぁ」
と、タームはあきらめムードだ。
「やる前からあきらめるなよ」
バリは少し長くなった髪をかき上げた。テストはBクラスはわからないが、Aクラスは科目で、Cクラスは体力で審査された。バリは前回と同じくらいに正解し、間違えた。夕方に出た結果によると、バリはAクラスに留まり、タームはBに移動になり、ファグルは上に行くことになった。
「おめでとう、ファグル」
「バリ……お前なら上に行くと思ったのに」
ファグルは本当に残念そうに言った。
「そのうち、そのうち行くさ」
「あーいーねー、僕なんかBになっちゃった」
と、タームは結果を見てため息をついた。
「しょうがないさ、明日からはBクラスで弁当を食おう」
「わかったよ……」
「ところで、ファグルには連絡が取れないのか?」
「ああ。電話もパソコンもないしな。ここにはある、電報さえもなくなる。いまのうちに、連絡するところがあるなら、しておかないとな」
「そうか」
「なに、誰かに連絡するの?家族が恋しくなった?」
と、タームがからかった。
「ばか!お前の親父のことを心配しているんだ、俺はどっちでいーの」
「あ、そっか、親父、入院していたんだった」
と、タームは思い出したように言った。忘れていたようだ。
「入院?平気なのか?」
と、ファグルは始めて聞いたらしく、驚いたように言った。
「大丈夫、ただの胃潰瘍だから。それにしても明日からファグルに会えないのかぁ……」
「そうだな。ファグルたちはどこに行くんだ?」
「ああ、なんでもアレだ」
ファグルは窓の外に見える塔を指した。
「あれ?あの、塔みたいなもの?」
「ああ。あそこでもっと特訓だってさ」
「げー。あれより辛い日々……僕には耐えられない!」
と、げんなりしたように言った。
「まぁ、タームはまだまだだな」
と、ファグルは笑った。
「あー……僕もそう思うよ」
「いつ移動するんだ?」
「明日の夕食後だ」
「そうか」
夕食をタールは全部食べた。バリはやっぱり少し食べた。
「バリ、いつも思うんだけど、そんなに少しで平気?」
「ん?俺は味が一番だからね」
「そっか。ああ、そういえば、そろそろファグルの移動だねぇ……」
と、タームは時間を見ていった。
「ターム、自分の移動で部屋とかは変わらないのか?」
「うん。部屋の前のプレートが変わるだけらしいよ」
「そうか……」
「ふぁぁぁー……ちょっと寝るー」
お腹がいっぱいになったら眠くなったようだ。
「わかった」
バリは廊下にでて、弁当の箱を置いて、見ると、タームのプレートはもうBクラスに変更されていた。
「バリ」
そこには大きな鞄を抱えたファグルが立っていた。他に移動する人の姿はぽつぽつとしか見えない。
「ファグル、行くのか?」
「ああ。今から移動だ」
「そうか」
「バリ」
「ん?」
「もし、オレに何かあったら、チェルトタウンのミスターって奴に会ってくれ」
と、ファグルは真剣な顔をしていった。
「何かあると思うか?」
「……たぶんな。だからお前もいるんだろう?」
と、ニヤリと笑った。
「そうか?」
「ああ。カメラを避けた移動、余裕でこなしている勉強、などなど」
「それはお前もだろう?」
「まぁな。とにかく、頼んだぞ」
「わかったよ」
「じゃ、行くよ」
「また会えたらな」
「おう!」
そして、ファグルの姿は見えなくなった。窓の外から下を見ていると、何人かが塔へと荷物を持って移動していた。
一方、学校では……。
「まだかぁ……」
先生は教室中を見ていてため息をついた。
「さて、どーゆーことなんだか……」
ムラサキもさすがに途方にくれているようだった。この学校は人間の生徒だけで構成されているために、一クラスの人数が十五人と少ない。なのに、サラ、ロフィ、ターム、バリ、ルカといなければ、かなり教室はさっぱりした状態になろうというものだ。
「サラ、どうしたんだろう?」
と、ミコがつぶやいた。
「さぁ。ロフィもいない、バリもいない……」
「ルカがいない事の方が珍しい」
双子達もそれぞれに言った。
「次の学校の休みの日にでもシェオ地方に行ってみようかなぁ……」
「でも、まだシェオ地方にいるかどうかなんてわからないよ」
と、ワカラが言うと
「シェオはいま、治安が悪いって言っていたじゃない」
と、ワカナも言った。
「そうだけど、誰も彼もいなくなるなんて不安だわ」
「わかった、シェオ地方まで付き合う」
「本当?ワカラ、ありがとう」
「私だって行くわ。お姉ちゃんだけじゃ、不安よ」
「ありがとう、ワカナ」
「でも、本当にシェオ地方にいるのかしらね」




