ふたりだけの秘密
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小学生の道夫と瑠美が繰り広げる、少し不穏でドキドキする秘密のやり取りを描いた短編です。
二人の幼い駆け引きと、予期せぬ結末をぜひお楽しみください!
「これが今の僕の全財産」
道夫は不安げに、だけど少し得意げに目をあげた。テーブルの上に散りばめられたのは、淡く光る硬貨ばかりであったが、その量たるや強ち貶めるようなものではなさそうであった。
「ずっと前からお小遣いの余りを貯めていたのさ」
道夫は、瑠美の鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を目にして、やはり自慢げであった。小学5年生にしては、道夫は資産家の内にはいるのではないか、と多少の自負はあったのである。
道夫は500円玉、百円玉、五十円玉……、と分類しつつ、小銭を数え易いように……十枚ずつ積み上げていく。
「でもさぁ……」
瑠美が珍しく不安げな声を出した。道夫はピクリと耳を動かした。
それって犯罪だよ」
少し間を置いてからまた、
「ね……」
と念を押し、腰に握りこぶしをつけた。それはそうかもしれないけど、誘ってきたのは瑠美の方ではないか!道夫は胃のあたりにちくりとする痛みを感じた。
理不尽だな、と思った。女の子の立場ってこれ程男より優位な立場にあるものなのか、って。
彼は平静を装いながら、小銭の山を数え始めた。
「百、二百、三百……」
瑠美もそれには興味を隠しきれないようだった。由美は、膝上10センチ丈のキュロットスカートをはいており、針金を思わせるように細く白い生足をのぞかせながらM字座りをしていた。カーペットに直に座るのである。道夫は視界の端にひときわ白く艶のある膝小僧を捉え、心臓の鼓動を速くするのであった。すると、
「やだあ!道夫クン、息が荒いわ。いやらしー。えっちぃ」
と、からかってくるではないか。キュロットスカートをサスペンダーで肩から吊った形の瑠美の、まだ平たい胸が上下していた。
道夫は焦りに焦った。
━━早く数え終えなければならない。その額によって瑠美に対してどれだけ強く出られるかが決まるのである。早く数え終えてしまいたい━━。
「ねえ、それより本当に胸、触らせてくれるんだろうね」
9000を数えたところで強気になった道夫が訊いた。彼女は、つんと顎に指を置いて考えるような素振りをみせたが、
「う……、うん。約束は守るよ。いーよ」
視線は完全に現金の方向である。
道夫の顔は自信に満ちていった、これは、確実に一万ほくだらない。いや、それどころかもしかしたら、15000に到達するかもしれなかった。
11000、11100……。
「こんなお金、見たことないわ」
瑠美が急に怖気づいたように目を伏せた。でも、まんざらでもなさそうなようにも見える。道夫はますます自信をつけたように笑んでみせた。
「いちまんよんせんななひゃくろくえん!」
最後の1枚を数え終えたその時だ。
どたどたと階段を誰かが上がってくる音が聞こえたのだ。そして、足音は瑠美の部屋の前で止まった。
道夫は酷く怯えたが、瑠美は平然としたままだった。
「ルミちゃん。いるんでしょ?お友達もいるの?おやつ持ってきたわ。お友達と一緒にお食べなさい」
ドアの向こうから聞こえてきたのは瑠美の母親の妙に高い声であった。
突如として襖がガラリと開いた。この瞬間、母親の目は部屋の真ん中に置かれたエンターテーブルの上に止まって大きく見開かれた。
「ちょっと あんたたち。なにしてたの?なによそれ?なんのお金?なんでそんなにあるの?誰のお金?瑠美ちゃんがそんなに持ってるわけないわよね。じょあ……」
道夫も瑠美も、計画が白紙に戻った虚しさよりも、母親から問い詰められる恐怖の方を重く思った。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
子どもの頃に感じた「大人の世界に少し踏み出してしまったような背徳感」と、直後に訪れる「現実の恐怖」をテーマに執筆しました。
小銭を積み上げる道夫の緊張感や、瑠美の少し大人びた駆け引きを楽しんでいただけていれば幸いです。
次回作もぜひご期待ください!




