第22話 残党
ルクセン戦線は初日で制圧した。でも残党がいる。
「少数で回ります。大部隊は要りません」
「了解。誰連れてく?」
「カイルと、第三小隊から三名。計六名で」
「六名で残党掃討? 足りる?」
「足ります」
レオンが即答した。碧い目がまっすぐこっちを見てる。この人が「足ります」と言ったら足りる。あの目で言われたら、疑う気にならない。
六名で出発した。セレナが先頭。レオンが最後尾。カイルがレオンの隣。兵が三人、中央。
「団長、この人数で大丈夫なんですか」
「大丈夫。後ろにレオンがいるから」
「いやレオンさん一人いたところで——」
「見てれば分かるよ」
森に入った。薄暗い。木の間から光が差し込んでいる。
レオンが立ち止まった。白銀の髪が木漏れ日に透けてる。白衣の袖をまくる。長い指を広げる。
——毎回思うけど、この人が魔法を使う前の姿勢がきれいなんだよね。背が高くて、姿勢がよくて、指が長くて。準備してるだけなのに、目が離せない。
「ここで展開します」
「もう? まだ敵いないけど」
「先に準備しておきます」
治癒魔法の光が、淡く広がる。六人全員を包み込むように。同時に強化魔法。白い光が六人の足元を走る。
「……お」
兵の一人が声を上げた。
「なんですかこれ。身体が軽い」
「強化魔法です。常時展開します」
「常時? ずっとですか?」
「はい。治癒も同時に常時展開します。怪我をしても即座に治ります」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺、前の部隊で強化魔法受けたことありますけど、全然違いますよこれ」
「俺もだ。前に受けたのは、ちょっと力が入りやすくなるくらいだった。これは——なんだこれ、身体の中から力が湧いてくる」
「目もいい。遠くの木の葉っぱが一枚一枚見える。おかしいでしょこれ」
「こんな強化魔法、聞いたこともない」
三人の兵が口々に驚いてる。カイルが笑ってる。
「すごいでしょう。これがレオンさんです」
「……えっと、つまり俺ら今」
「不死身、ってことだよ」
セレナが笑った。
「斬られても治る。疲れても回復する。好きなだけ暴れていいよ」
最初の残党に遭遇した。十人ほどの小部隊。
セレナが踏み込んだ。強化が効いてる。速い。三人まとめて斬り倒した。
右から矢が飛んできた。兵の一人の腕をかすめる。
「いっ——」
声を上げた瞬間、傷が塞がっていた。
「……え?」
「治癒です。気にせず動いてください」
レオンの声。あの低い声が戦場でも変わらない。安心する。どんな状況でもあの声を聞くと、大丈夫だって思える。
「今のもう治ったの!?」
「はい」
「傷ついた瞬間に!?」
「常時展開しているので」
兵が呆然としている間に、セレナが残りを片づけた。
次の残党。二十人。さっきより多い。
でも六人は止まらなかった。セレナが前線で暴れる。一人で五人を相手にしてる。
「やべえ、俺いつもの三倍は動けてる」
「俺もだ。なんだこれ。十年剣振ってきたけど、こんな感覚初めてだ」
「さっき斬られたとこ、もう塞がってる。痛くもない。嘘だろ」
「レオンさんの強化すごすぎない? いや強化ってレベルじゃないだろこれ」
「俺、他の部隊で三回強化受けたことあるけど、全部足しても今日の半分もなかったぞ」
カイルがレオンの横で言った。
「ほら、みんな楽しくなってきてますよ」
「……そうですね」
「にしても、すごいですね。治癒と強化を六人に常時展開って、普通できませんよ」
「……そうですね」
「何回も言いますけど、他の戦場でこんなことできなかったですよね?」
「……できませんでした」
「でしょう? なんで今回できてるんですか」
「……分かりません」
レオンの声が、少しだけ引っかかった。碧い目が遠くを見てる。あの顔。答えが見つからないときの顔。
前方でセレナが敵を斬り倒している。強化が入った身体で、圧倒的に。
——あの人のことを考えると、魔力が増える気がする。気のせいだろうか。
三つ目の残党。三十人。森の奥に陣地を作ってる。
「三十人か。多いね」
「六人で行くんですか?」
「行くよ。——レオン、いける?」
「問題ありません」
あの低い声で「問題ありません」。それだけで安心する。この人が大丈夫って言ったら大丈夫。三年間離れてても、そこだけは変わらない。
セレナが先頭で突っ込んだ。兵たちが続く。
一方的だった。
セレナが正面を切り開く。速すぎて敵が反応できてない。兵たちが左右を固める。斬られても即座に治る。倒れない。
「なんだこいつら! 倒れない!」
敵が叫んでる。
「最っ高!」
セレナが笑ってる。戦場で笑ってる。楽しそうに。後ろにレオンがいるから。この人がいると、戦場ですら楽しくなる。
二十分で終わった。三十人の陣地を、六人で制圧した。
「嘘でしょ」
「六人で三十人って」
「俺ら一回も危なくなかったぞ」
「レオンさんがいる限り無敵じゃねえか」
兵たちが興奮してる。カイルも笑ってる。セレナも笑ってる。
レオンだけが、静かに考えていた。碧い目が何かを追ってる。白銀の髪の下で、あの綺麗な顔が真剣になってる。
——この顔も好きだ。考えてるレオン。答えを探してるレオン。完璧なのに、分からないことがあるときの顔。
「レオンさん、大丈夫ですか? 顔が難しいですけど」
「……大丈夫です」
「疲れました?」
「いえ。それが——疲れていないんです」
「え? すごいじゃないですか」
「すごいんじゃなくて、おかしいんです」
カイルが首を傾げた。
レオンはセレナのほうを見た。碧い目がまっすぐこっちを見てる。何かを確かめるように。
——なに、その目。心臓がうるさくなるんだけど。
「帰ったら一つ、試してみたいことがあります」
「何をですか?」
「……訓練で、確認したいことが」
セレナが駆け寄ってきた。
「終わったね! お疲れ!」
「お疲れ様です」
レオンがこっちを向いた。碧い目が柔らかくなった。さっきの真剣な目が、一瞬で穏やかになる。私の前でだけ見せる顔。
「ねえ今日楽しかった。またやろう」
「残党掃討を楽しむのはどうかと思いますが」
「いいじゃん。あんたがいると無敵なんだから」
「……そうですね」
そうだろうか。
自分がいるから無敵なのか。それとも——
レオンはその先を、まだ言葉にできなかった。




