【幕間】 第1稿 『特集:羽黒集落──首刈峠の哀しき姉妹神』 (平河千景)
山の中に逃げ込んだ家族。呪術的な素養があるようだ。
誰にも迷惑をかけず、自給自足で静かに暮らしていた。ある日、戦に敗れた者たちが落ち延びてくる。
羽白と羽黒というふたりの少女とその家族は、快く受け入れた。
けれども。
両親が流行り病で亡くなった途端、家に男が押し入ってきた。
それから凶行を止めようと、もう一人。
「なにも、こんな幼子を殺さのうても」
「いいや。俺の故郷では双子はあやかしを呼ぶと言われておってな。すぐに始末せねば」
「いやだいやだ! 死にたくない」
そう言って泣きわめいた羽黒が斬り殺された。両親の亡骸にすがりついていた羽白の目の前で。
「これ以上の殺生はならぬ」
男が仲間を止める中、羽白は静かにその場を立ち去り、身投げした。
それからというもの、夜になると羽黒の幽霊が現れ、人や獣、鳥などを山へ引きずり込むようになった。真っ先に死んだのは、家族を弑した男だったという。
それらを喰ったのだろうか。
最初は子どもの幽霊だったのに、そのうち羽黒は、いなくなった人の鎧や、鳥の羽などを寄せ集めたハリボテを動かすようになった。
羽黒の怒りは止まない。次は自分の番なのかと、皆怯えて暮らしていた。
「彼女を祀ってはどうだろうか」
そういった男は、ひどく端正な顔立ちをしていた。
「止められなくて申し訳なかった」と彼はくり返した。
やがて羽黒の霊は四郎の対話に応じたが、「喜」という名をつけた女を差し出すように告げた。
「許しがあれば、あたしは生きられる」
そう言ってにんまりと笑った。
その年に生まれた赤子たちに「喜」のつく名前が付けられた。そうして彼女たちが羽黒と同じ年になるまで待って、羽黒女の儀式が行なわれたという。
羽黒女は、四郎をそばに置いた。
年若い羽黒女が壮年の四郎を従えている様子は異様ですらあったが、誰も口出しができない。
数十年が経ち、四郎が死んだ。
羽黒女は、新しい器に乗り移ることにした。
自らが生んだ娘である。
「これから、喜の一族はこの子たちだけでいい。もう、子など生みたくない。極力、母となった者を寄越すこと」
器の女は羽黒の依り代として“羽黒女”と呼ばれ、村の守り神として丁重に扱われた。器は生け贄だ。しかしながら、神でもある。機嫌を損ねぬように、なによりも丁重にもてなした。村の中心にした。
時が流れ、正しい史実は失われていった。虐殺の歴史はなかったことになり、怨霊であった羽黒が、災いを払う神とされた。
“羽黒女”は女王のような存在として”子を生んだ村の女たち”の中から選ばれるようになっていく。
だが、羽黒の怨念は決して鎮まらなかった。
一方で、姉の羽白の存在は語られることが少なかった。
羽黒の幽霊が夜な夜な現れるため、羽白のためにも祠が建てられたが、大して世話はされなかったという──。
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メモ
【参考資料】
『香村登喜の手記』
『香村花子の手記』
……羽黒女の一族より提供されたもの。
『水守楓』取材メモ─依頼者情報は秘匿すること




