第5話 消えたスルース
Side:キュラリー
ガセインが、怪我をして運び込まれた。
医者の見立てでは、全身打撲。
惨い、誰の仕業よ!
仇は絶対に討つ。
運び込んだ、メイド達の話では、正体不明の大男に殴られたとなっていた。
私は騙されない。
このメイド達はスルース派。
スルースがやったに違いない。
メイド達は辞表を出していた。
メイドの辞表如きでスルースのやったことを許せるわけはない。
音の鳴らない笛で殺し屋を呼び出す。
「仕事か?」
「スルースは知っているわね」
「ああ」
「スルースを殺して。この屋敷で殺すと不味いから、路地裏にでも連れていって始末して。使用人の服があるから、着るといいわ」
「分かった。旦那の命令で、スルースを路地裏に連れて行くってことにする」
「それで良いわ」
なんとなくすっきりした。
スルースは喉に刺さった骨だったから。
悪夢なんてもう関係ない。
エリーゼが悪夢に出て来たら、息子も殺してやったと言ってやる。
しばらく待つが、殺し屋は戻って来ない。
簡単な仕事のはず。
どこで油を売っているのか。
そして、守備兵が、屋敷の使用人が殺されたと報せてきた。
死体安置所に行くと、殺し屋だった。
額にナイフが深く刺さっている。
スルースはスキルなしだから、こんな芸当は無理。
となると、助けた大人がいる。
メイドと使用人の中で戦闘スキルを持っていた者はいない。
スルースとの接点がある大人と言えば、夫だけ。
夫が護衛を付けた?
勘当というのは嘘?
疑えば限がない。
「守備兵さん、この死体が持っていた物はないの?」
「持ち物は全て持ち去られてました」
くっ、エリーゼ殺しの依頼書がない。
あれが、他人の手に渡ると不味い。
夫の手に渡ったのなら、今頃夫から話があるはず。
ないということは夫が護衛を付けたのではない。
とにかく、スルースを探しましょう。
ウータルフ商会に命じて、後を追わせる。
スルースは冒険者ギルドに行ったようね。
冒険者の何人かがスルースらしき子供を目撃してる。
でも、そこからが分からない。
スルースはお金を持ってなかったと思うから、依頼を受けたと推測される。
野営が必要な討伐依頼に普通なら行かない。
助けた大人が匿う計画なら、冒険者登録する必要はない。
スルースがどの依頼を受けたのかが分かれば良いけど、ウータルフ商会は冒険者ギルドに喧嘩を売るようなことはできない。
スパイをギルドに送り込んだのがばれたら、ウータルフ商会など簡単に吹き飛ぶ。
どこへ消えたのかしら。
明日の朝まで、ウータルフ商会にはギルドで張り込みしてもらって、結果待ちしかない。
疲れた。
移動に馬車を使ったのに疲れた。
頭の中が鉛のよう。
部屋に帰って寝ると、エリーゼの悪夢を見た。
エリーゼはお前の破滅のカウントダウンが始まったと言っている。
依頼書が消えたから、こんな夢を見たのね。
朝になってもスルースの行方は分からない。
誰かの助けがなければ、野営が必要な討伐は無理なはず。
張り込みは、一ヶ月は継続しましょう。
討伐なら、それぐらいで帰ってくる。
スルースが薬草採取の依頼を受けて、モンスターにやられて死んだという可能性を考える。
あり得るけど、証拠を見ない限り安心はできない。
「ガセイン、可哀想に。痛みは引いた?」
「母様、スルースの奴は絶対に許さない。来年、スキルが判明したら、この手で殺してやる」
「お母さんに任せておきなさい。悪いようにはしないわ」
「スルースを殺すのなら、いたぶって殺して」
「約束するわ」
夫からの反応はない。
勘だけど、夫はこの件に関係なさそうね。
殺し屋が住んでた家を調べてみましょう。
もしかしたら、依頼書があるかも知れない。
私の子飼いのメイドと一緒に殺し屋の家に入る。
中はきっちり整頓されている。
余分な物がない。
料理の道具もない。
もっぱら、外で食べてたようね。
コップは2つあるけど、それだけ。
本の一冊もない。
あるのは、ベッドと寝具。
それに、タンスに着替え。
タオルや手ぬぐい。
歯磨きと、髭剃り用のカミソリ。
整髪料。
金庫があるか期待したのだけど、それもない。
隠し部屋がないのも知っている。
ここを建てたのは私だから。
いまの屋敷の隠し通路も私が指示して作らせた。
隠し通路に殺し屋は関わってないから、これも関係ない。
いちおう、この家の床や天井を隅々まで調べた。
「奥様、何もありません」
「この家は逃げないから、暇な時にまた調べて頂戴」
「はい」
うーん、何か変ね。
何でしょう。
見落としがあるはず。
あるはずの物がない。
そんな感じがする。
屋敷に帰ると、夫がガセインを見舞っていた。
「スルースの奴にやられたんだな。スルースを見つけたら俺が仇を討ってやる。スルースは勘当してもう息子ではない」
「あなた、よろしくお願いします」
「任せておけ」
夫の表情から私を非難するような物は見えない。
エリーゼの殺しの依頼書を夫が見たという線はないと感じた。
それなりに長い付き合いだから、何を考えているかは分かる。
「スルースを助けている大人の存在があるようです。確かではありませんが」
「子供がひとりで暮らしていけるほど甘くないからな。そういう可能性はあるだろう。メイドが何人か辞めたが、穴埋めにお前が好きにメイドを雇うと良い」
「はい、そうします。あなた、ガセインに剣術を習わせたいのですが」
ガセインに剣術の指南をつけましょうか。
護身術も必要よね。
今回みたいなことがあるとそう思う。
ガセインに暴力を振るった時に、スルースは腕力と魔法の力を合わせたのね。
スルースは体と魔法を鍛えていたから、きっとそうでしょう。
「そうだな。剣術は早い奴は、もっと幼い頃からやっている」
「嫌だ! やりたくない!」
「ガセイン、あなたのために言ってるのよ」
「無理にやらせても仕方ない。まだ小さいのだ。スキルが判明してからでも遅くない」
「父上、大好きです」
「息子よ。俺もだ」
もう、甘やかして。
エクスカベイト家は伯爵家だから、たしかに自分でやる必要はない。
戦争が起こっても、領軍の司令官に任せれば問題ない。
護衛を常に何人も雇う財力もある。
私は貧乏貴族だったから、成り上がるための努力はした。
確かにあの苦労をガセインにはさせたくない。
しかも、あの苦労は人の足をどうやって引っ張ろうかという努力だったから。
ガセインなら、きっと才能で世の中を渡って行くに違いない。
私は才能がなかったから。
きっと、がむしゃらにやらなくても大丈夫。
良いスキルに恵まれた才能のある人はほとんど努力しなくても、上手くやってたわ。
ガセインなら努力などしなくて大丈夫。
そうよね。
スルースじゃないんだから、ガセインが無能などということはあり得ない。
スルースはスキルがないから、無能の極みよ。
スキルなしで渡れるほど世の中は甘くないわ。
何も出来ないで、今頃は困っているはず。
良い気味だわ。




