第46話 剣術の授業
Side:スルース
クラブ設立の届けは、朝一で無事に出せた。
今日はこのために来たようなものだ。
審査が必要とのこと。
今日中に結果は出るらしい。
「スルース様、クラブの必要な器具は僕が提供します」
オルトスからの提案。
オルトスはスパイ確定だから、容赦なく利用してやろう。
ハニートラップの対処策は思いっ切り楽しんで、上司にハニートラップで楽しみましたと報告することだ。
分かっていれば問題などない。
最悪の事態になったら、パイルバンカーでぶっ飛ばすだけだ。
パイルバンカーで破壊できない物などない。
体術の授業をやって、次の日に剣術か。
座学とか間に挟めば良いのに。
まあ、良いか。
別に問題はない。
パイルバンカーの練習をするだけだ。
ウンクラが、近くに来た。
「今日こそは立てないぐらいボコボコにしてやる」
「おう、期待してる」
「笑ったな。その余裕も今日までだ」
いや、本当期待してるんだよ。
激しい訓練を希望してる。
でないと練習にならない。
殺すつもりぐらいで掛かって来ないと、駄目だ。
「弱い者虐めはやめろよ」
「関係ない奴は引っ込んでろ」
タッフル、これから楽しいのに、邪魔するな。
「良いんだ」
「嫌なら、嫌って言わないと」
「これは俺の戦いだ」
「ほら、スルースもそう言ってる。弱い者虐めなんかじゃない。鍛えてやっているんだ。落ちこぼれでも得意なことがひとつぐらい必要だ」
「屁理屈を。スルース、どうしようもなくなったら言えよ。スルースの代わりに俺がウンクラ達と対戦してやる」
「その時は頼む」
パイルバンカーの練習にならなくなったら、その時は頼む。
「両者、構えて!」
「何だその武器は?」
「これっ? 木のパイルだよ。何か問題でも?」
40センチぐらいのただの木の棒。
「短剣のつもりか? 棍棒のつもりなら、許可出来ない」
コーチに問われた。
「突く武器です」
「短剣より少し長い刺突武器か。許可しよう。棍棒みたいな使い方はするなよ」
「分かってます」
「ちっ、ムカつく。木剣で滅多打ちにしてやる」
剣術の模擬試合が始まった。
ウンクラの木剣をパイルで弾くことに集中する。
こっちの武器の長さは短いが、そらすだけなら短い方が有利。
何度も木剣を食らう。
慣れてないからな。
ウンクラの攻撃は浅いみたいで、コーチから1本の声は掛からない。
いつもみたいに、高速機動で攪乱とかしたら、怒られそうだ。
こういう、訓練も楽しいな。
パイルバンカーを使う間合いに飛び込む訓練だ。
隙あり。
踏み込んで、密着。
木のパイルをウンクラの鎧の胸の部分添える。
勝ったな。
お前、実戦なら死んでた。
「くそっ、離れろ! 何だよ! その笑って、勝ち誇った顔は!」
蹴り剥がされた。
そして、何度も同じ事をする。
練習の成果なのか、だんだんと、ウンクラの剣を食らうことが減っていく。
「スルース、激しく突かないと、1本とは認められない」
「お前、からかっているのか! 馬鹿にしてるのか! 何時でも1本取れると、いう意思表示か!」
うん、ウンクラの剣の軌道は分かった。
次に行こう。
隙を見て、密着。
ウンクラの喉にパイルを当てた。
空気圧縮パイルバンカー。
パシュっという音がして、ウンクラの喉に木のパイルが突き刺さる。
「ぐがっ! いっ……きっ……」
ウンクラは呼吸が出来なくて苦しんでいる。
コーチは何が起こったのか把握してない。
「ええと、ウンクラが体調不良みたいです」
「誰がウンクラを手当してやれ」
取り巻きがウンクラを介抱する。
しばらくして、ウンクラは呼吸ができるようになった。
「お疲れ様です。手ぬぐいと飲み物です」
ファンクラブの女の子が、手ぬぐいと飲み物を差し出す。
「ありがとう」
「いろいろと良い写真が撮れました。笑顔が素敵です。後でサイン下さい」
「授業が終わったらね」
「喉への一撃はパイルバンカーですよね」
「分かったのか?」
「推測しただけです。速過ぎて目では追えません。手が動いてないですから、突き込んだとは誰も思いません。さすが、王族の秘伝武術」
その設定は恥ずかしい。
「完全戦士という存在があってな。その過程でパイルバンカーは生れた。主人公は赤い肩の所属だったっけ、良く覚えてない」
この設定なら許せる。
「完全戦士ですか。赤い肩などという二つ名は聞いたことがないですね。完全戦士とは強いのですか? 国を興せるぐらいに」
「ああ、強いんだ。素の戦闘能力も強いが、特にゴーレムみたいな物の操縦が抜群に上手い」
ウンクラが、俺の前に立った。
「お前、イカサマしたな。その棒になんか仕掛けがあるんだろ」
「記念にやるよ。スペアは腐るほどある」
俺は使ってた木のパイルをウンクラにやった。
ウンクラはそれを壁に立てかけて、足で折る。
「何で中に何も入ってないんだ!」
だってただの木の棒だから。
「俺って、余計な世話だったか」
タッフルが、少し沈んでる。
「いや、タッフルは役に立ってる。俺にとって、良い奴だよ。戦友だ」
「そうか、虐めの戦いでの戦友か。そうだよな」
「さあ、ウンクラの取り巻きが残ってる。全員とやらないとな」
「頑張れよ。応援してる。確かに虐めに自力で打ち勝つのが一番いい」
ウンクラの取り巻きも、空気圧縮パイルバンカーを撃ち込んでやった。
喉は可哀想かと思って、肩とか、腹とかにしてやった。
だが、戦闘不能になったようだ。
防具の上からでも、けっこう効くのだな。
1本の声は最後まで掛からなかった。
別に良いけど。
コーチは盛んに首を捻ってた。
突いた瞬間は、速過ぎて見えないからな。
オルトスが寄って来た。
「お見事です。僕も真剣にパイルバンカーを覚えたいと思います」
「おう、頑張れ」
「ひとつ、訊いてもいいですか? 気に障ったら、何でもします。スキルがないって本当ですか?」
「まあな。気にしてないが」
「良くエングレイ伯爵が、リリアンヌ嬢との結婚を許してくれましたね」
「それな。エングレイ伯爵はいまだに俺のことは認めてない。会うたびにリリアンヌは嫁にはやらんと叫んでる」
「大変ですね。出会いとか聞いていいですか?」
「リリアンヌの乗った馬車が、オークに襲われていたんだ。で助けた」
「命の恩人ですね。なるほど、それは報いないと」
パイルバンカーは完全戦士族という王族の秘伝武術になっていた。
初代の王は赤い肩。
うん、細かく間違いを指摘したい。
でも、あのアニメの説明を全てしても、分かるかどうか。
ここはSFの概念にない世界だからな。
もう、どうでも良い。
俺以外の異世界転生者は分かっている奴なら、これを聞いて大笑いするんだろうな。




