第42話 気に入らない
Side:ウンクラ
体術の授業。
もちろん俺は対戦相手にスルースを選んだ。
スルースの奴は笑ってる。
こいつ、頭がおかしいのか。
入学試験では最下位。
馬鹿なのは確定してるが、狂っているとなると、少し不気味だ。
こいつを虐め倒して、ストレスを解消するつもりだが、嫌な感じだ。
これから、ボコボコにされるのに笑ってる。
まるで俺が負けるのが確定してるみたいだ。
負けてたまるか。
馬鹿のスキルなしだぞ。
「始め!」
コーチが開始の合図をする。
スルースの構えは武術を習っているそれじゃない。
素人丸出しだ。
とりあえず、腹を殴ってみた。
むっ、筋肉は凄いな。
硬い筋肉だ。
体を物凄く鍛えてる。
身長も俺より高い。
これで、体術を習っていたら、俺は勝てないな。
余裕の表れはそこから来てるのか。
パンチを何度も繰り出す。
顔を殴られて、スルースの顔がはれ上がっていく。
スルースは何もできずにいる。
はったりだったのか。
でも、何度、殴られてもスルースから笑みは消えない。
「あれっ?!」
眩暈がした。
フラフラする。
殴られたというわけじゃない。
今まで体術を習った時に、家庭教師から何度も技を食らった。
殴られたのなら、その感覚は分かる。
ふらつきが酷くなる。
血の味がした。
鼻から血が垂れて口に入っているのが、分かった。
「コーチ、体調が悪くなりました。一方的に攻撃しすぎて、頭に血が昇ったようです」
「そうだろな。反撃は食らってない。俺の目に見えないほどの攻撃なら、この学園の教師になれるだろう。休んで良いぞ」
スルースがニヤニヤしてる。
くそっ、殴り疲れて、鼻血を出すなんてな。
スルースはこれを予期してたのか。
作戦だったのか。
まさかな。
眩暈は休んでいたら治まった。
スルースはポーションを飲んでいる。
あれは高級ポーション。
騎士学園はよほどの怪我でないと、ポーションはくれない。
事実、打たれて痣になった他の生徒はポーションを飲んでない。
痛みも学びのうちだというわけかな。
俺の家庭教師はそう言ってた。
あれはスルースの私物だな。
へぇ、金持ちなんだ。
良い事実を知った。
虐めて搾り取ってやろう。
今日は虐め倒せなかったが、授業はこれからもある。
機会はたくさんあるさ。
「おい、スルースに対戦を申し込め」
「はい」
取り巻きをスルースにけしかける作戦に切り換えた。
取り巻きがスルースに対して行う殴る蹴るを見学する。
良い気味だ。
やはり、スルースは笑いながら、反撃はしない。
取り巻きは、ぜぇぜぇと荒い息を吐いて、攻撃をやめた。
こいつ、あの程度の連撃で息が上がるのか。
俺の取り巻きに相応しくない。
切り捨てるか。
「すいません、疲労困憊です。いつもはもっとやれるんですが、初日で緊張して余分な力が入りました」
「二度目はないぞ」
「はい、次はしっかりやります」
「次はお前が行け」
「はい」
別の取り巻きがスルースと対戦する。
スルースは断らないようだ。
挑戦は全て受けるらしい。
取り巻きは一回蹴りを放ってから、足を押さえて呻く。
ドジな奴だ。
綺麗に決まったように見えたがな。
綺麗に決まると、怪我はしないはずだが。
「すみません。足を痛めました」
「どいつもこいつも役に立たない」
「すみません」
それから残っていた3人の取り巻き全員との対戦が終わって、スルースはまだやり続けている。
スルースは笑いながら、攻撃を受け続けるのは変わらない。
スルースはコーチから、攻撃を食らってダメージを逃がす訓練をしてるのかと問われたりもした。
コーチから頑張れと言われて、怒られなかったのが癪に障る。
あれは体術の素人だ。
そんな高等な技は使ってない。
見れば分かる。
だが、少しずつ急所を避けるようになった。
痛い場所は食らえば覚える。
家庭教師から、俺も言われた。
でも、まだ素人の域を出てない。
学習速度は遅い。
天才みたいな急激な成長はない。
どこから見ても、生意気な落ちこぼれ。
だが、スルースは運が良い奴なのだろうか。
対戦相手はみんなトラブルでやめている。
全て引き分けと言っても良い。
戦場で、負け戦でも、包囲されても、伏兵に奇襲されても、生き残る奴がいる。
強い兵士ではない。
戦闘力は平凡だ。
ただなぜか生き残る。
無傷に近い形でだ。
うちの家の領軍の指揮官から、そんな話を聞いた。
ギャンブルでも、そういう奴がいる。
なぜか勝ってしまう。
滅茶苦茶なやり方で対戦して、それが上手く嵌ってしまう。
ゲームのルールを知ってるなら、取らないような手段をとる。
最初にわざと強い札を捨てるみたいなことだ。
だが、勝ってしまう。
イカサマレベルで手に負えないと、領軍の兵士が愚痴を言ってたのを覚えている。
こいつもそういう理不尽な奴なのか?
女子生徒達がきゃあきゃあ言いながら、対戦の終わったスルースに飲み物と手ぬぐいを渡す。
ムカつく、なんで落ちこぼれのくせにもてるんだ。
顔はたしかに良くて、背も高い。
だが、落ちこぼれだぞ。
スルースの実家は伯爵家だ。
ちょっと前に、後妻が魔女認定されて、処刑された。
大スキャンダルだから、覚えている。
落ちこぼれで、家名もスキャンダルで傷ついている。
エクスカベイト家からは、ここ何世代も傑物は出てない。
家の名も落ちこぼれ。
領地も傾いていると聞いている。
全てが落ちこぼれ。
どこから見ても取り柄なんてない。
物凄く、気に入らない。
虐め倒してやろうと心に深く刻んだ。
授業は終り、スルースの弟のガセインが俺の所に来た。
「スルースを虐めてくれただろうな」
「ああ、さんざん殴ってやった。ろくに抵抗もしなかったぜ」
「どんな手段を使っても退学させるんだ。退学させたら、約束の金貨100枚を払う」
「念を入れなくても良いさ。俺もあいつは気にくわない」
「変わったことはあったか? あいつは偽者で、俺は奴の化けの皮を剥がないといけない。偽者だという証拠を掴んだら、金貨100枚を更に上乗せしてやる」
「偽者か。演技してるような素振りはなかったな。気に障ったのは、女子生徒にモテモテだ。俺が虐めたら、悪役になってしまう。少しやりづらくなった」
「ファンクラブだな。忌々しい。女で騎士学園に来る変わり者は貧乏貴族の娘ばかりだ。伯爵家という爵位に目が眩みやがって。だが、おかげで、買収は簡単だった。ファンクラブにはスパイを潜入させてある。その情報によれば、廊下を飛んで移動したらしい」
「スキルはないのに、飛んだのか。スキルを隠していたにしては、目撃者が多いな。スキルなしなのに、矛盾があるな。まあ、飛行スキルなんてのは、武術の役には立たない。これからも授業での虐めは可能だ」
「飛んだのは魔道具を使ったと言い訳するかも知れない」
「分かった。虐めながら調べてみる。偽者だと証明すれば良いんだな」
「本物はスキルがない。そこが証明の鍵だ」
落ちこぼれのくせに。
気に入らん。
次の戦闘訓練は剣術だな。
また、ぼこぼこにしてやる。




