第4話 殺し屋成敗
Side:スルース
さて、強敵にパイルバンカーで立ち向かうには作法がある。
パイルバンカーの搭載されたロボットは高速機動で近づく。
ボロボロになってからゆっくり接近して、パイルバンカーってのもおつだけど。
大抵は高速機動だ。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、ひゃっはぁ。ロケット加速」
「おいおい、何だそれは?」
殺し屋を驚かすことができたらしい。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、【バリヤー、エクスプロージョン】、【バリヤー、エクスプロージョン】、体当たり」
ランダムに動き最後に殺し屋に体当たり。
殺し屋の腹に激突した。
「うっ、やりやがったな」
殺し屋がナイフを落とす。
ナイフを貰いっと。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケット退避。ここからが本番だ」
俺は殺し屋と距離を取って対峙する。
「6歳の子供だと思って油断した。次はこうは行かないぞ。武器強化、瞬発力強化、毒魔力付与」
殺し屋が予備のナイフを抜いて構える。
スキルも使っているようだ。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケット加速最大。【バリヤー、エクスプロージョン】、バーニヤ、緊急制動」
急加速からの急停止。
殺し屋は、ナイフを空振りした。
ナイフは刃が光って、レーザーブレードみたいだった。
ナイフを振った軌跡が、光の弧として残っている。
振るスピードが速くて、空振りの態勢になってたので、攻撃したんだなと推測した。
スキルを使った全力の攻撃だな。
でも当たらなきゃ意味がない。
「なっ」
大技の後には隙ができる。
この殺し屋は分かっている人だ。
お約束に付き合ってくれている。
すかさず、殺し屋に密着。
くぅ、この展開は痺れる。
敵の必殺技を空振りさせてからの逆転。
燃える、燃える、ハートは溶鉱炉だ。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、ナイフバンカー」
ナイフが空中に固定され、爆発で殺し屋の額にめり込む。
俺は反動で2メートルぐらい、ずざざと後ろに滑った。
殺し屋は崩れるように倒れた。
どうやら、死んだようだ。
うん、ほのかな蒸気も完璧。
パイルバンカーで殺されるなら、満足しただろう。
俺なら、天国に行けるぐらい嬉しい。
殺し屋にしては贅沢な死に方だ。
さて、鹵獲といきますか。
殺し屋のナイフを全部頂く。
全部で4本か。
他の持ち物は、鍵がひとつ。
財布ぐらい持ち歩けよ。
使えない奴だな。
しかし、何の鍵だ?
普通に考えたら、こいつの家の鍵だな。
どこに住んでいるんだ?
調べるのは難しそうだ。
そんなことをする暇があったら、パイルバンカーを極めたい。
とりあえず、鍵は捨てないでおこう。
何かの時に役に立つかもな。
殺し屋の顔を見ると、今までに会った記憶がない。
服は俺が住んでた屋敷の使用人の物だけど、屋敷の使用人ではないな。
屋敷で1度会ったら、さすがに忘れない。
路地裏から出て、目撃者がいないか、辺りを見回す。
どうやら、見てた奴はいないようだ。
正当防衛を主張できるけど、手続とか聴取で時間を取られたくない。
さっきも思ったが、そんなことをする暇があったら、パイルバンカーを極めたい。
「あーあ、追放かよ。でも……うひゃひゃひゃ。煩わしい何もかもがない! パイルバンカーするのに、あんな屋敷にいられるか! 1日に1回はパイルバンカーしないと、禁断症状が出る。これからは、気兼ねなくできる。ははははっ」
歩きながら、笑う。
戦闘モードから、頭が日常モードに切り替わった。
自由にパイルバンカーが開発できる。
なんて素晴らしい。
「ひゃっはー! 自由って、素晴らしい。ビバ、パイルバンカー。いらっしゃいませ、パイルバンカー。おいでませ、パイルバンカー」
お金がないから、まずは木の杭からだな。
探せば棒ぐらい見つかるだろう。
ナイフでのパイルバンカーは邪道。
杭でないとパイルバンカーとは言えない。
棒は裏庭に積んであった薪から一本拝借した。
そして、ナイフで削って、先端を尖らせる。
よし、実験するにも目標がないと格好がつかないな。
前に一度連れられてきた冒険者ギルドに入る。
ギルドの中は、冒険者がたむろしてた。
パイルバンカーをぶち込みたいような硬くてでかい奴はいない。
命拾いしたな。
せいぜい人生を謳歌すると良い。
確か、地下に訓練場があったはずだ。
地下への階段を下りる。
案山子が何体か立っていた。
よしやるぞ。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
木の杭が空中にセットされ、その後ろに結界ができる。
結界の中に爆発が生じて、爆発音。
木の杭が案山子に激突する。
そして、結界が冷やされ、湯気が少し。
完璧だ。
だが余波を食らって俺は少し後ろに飛ばされた。
些細な事だ。
反動がないパイルバンカーなんてパイルバンカーじゃない。
これも醍醐味だ。
「おい、何の音だ?!」
冒険者が様子を見に来た。
「爆発魔法の訓練だよ」
「それにしては音がでかかった」
「結界の中で爆発させるとこうなるんだ」
「それって自爆じゃないのか」
「うん、余波がないのはパイルバンカーとは呼べない」
「なんか知らんが、まあほどほどにな」
全然、想定した威力じゃない。
案山子に杭は当たったが、僅かな傷だけだ。
爆発が足りなかった。
だいぶ加減したからな。
「鉄の杭を撃ち込む仕事ってある?」
「石切り場か、鉱山だな。どちらも危険な仕事場だ。子供が行く所じゃない」
よし、鉱山に行こう。
ひゃっはぁ、これから毎日パイルバンカーざんまいだ。
その前に、冒険者登録だな。
これをしないと仕事ができない。
1階に戻り、カウンターの前に行く。
まだ、背が低いので、辛うじてカウンターの上に頭が出るぐらいだ、
「登録をお願い」
「いくつ?」
「6歳。年齢制限はないよね?」
「ないけど、最年少かもね。文字は書ける?」
「ばっちり」
用紙を埋めていく。
スキルがないんだよな。
悔しいので願望として、スキル欄にパイルバンカーと書く。
「Fランクからね。凄いスキルとかあれば、特例でDランクからだけど、パイルバンカーって聞いたことがないから考慮されないよ」
カードを通す紐を貰った。
カードの穴に紐を通す。
あれも、つけとこう。
殺し屋の鍵も紐を通した。
紐を首に掛け、カードと鍵をぶら下げた
ええと、鉱山の仕事……鉱山で調理はパス……鉱石の運搬もパス……採掘はないのか?
Fランクではないのか?
あー、Cランクに鉱山周辺のモンスター退治があるな。
パイルバンカーの活躍の場は採掘以外にない。
他の仕事など認めん。
「あっ、ランク問わずに、鉱山の採掘がある。これだよ! これ! 常時依頼なので、カウンターで申し出て下さいか」
定員がないのは良いな。
きっと、慢性的な人不足なんだろう。
ええと、採掘道具は現場で用意してます。
良いね。
鉄の杭とか買いたいけど、金がないからな。
行く前に腹ごしらえしたい。
ギルド併設の酒場のカウンターにナイフ1本を抜かずに置いた。
「これで食わせて」
女性の給仕に話し掛ける。
「あいよ。ナイフね。見た所、結構高い気がする。武器屋に持っていったらどう?」
「そんなめんどくさいことはしない。いますぐに、食べたいんだ」
「そうかい。じゃ、ツケってことにしとくよ。金が貯まったらナイフを取りに来な」
「ありがとう」
ツケで日替わり定食を食べさせてもらった。
腹一杯だ。
さあ、鉱山に行こう。
パイルバンカーざんまいが待っている。
まだ見ぬ、強敵よ、待ってろ。
俺がパイルバンカー最強を証明しに行くからな。




