第36話 ミスリル鉱山、襲撃
Side:スルース
パイルバンカー道場で、リリアンヌとアイラと共に鍛錬。
無詠唱にはだいぶ慣れた。
リリアンヌとアイラはパイルバンカーがかなり上達した。
俺はいまひとつの魔法行使で300ぐらい重ね掛けしてる。
リリアンヌは50ぐらいかな。
アイラは80ぐらい。
重ね掛けは魔法の多重起動に比べれば簡単。
ただ、魔力の消費が増える。
リリアンヌよりアイラの方が魔法の腕は良い。
これは長年、メイドとしての仕事で、家事に魔法を使ってきたからだろう。
ただ、リリアンヌの方が何百倍も魔力量が多い。
貴族と平民の差だな。
貴族は長年、魔力量の多い者同士で結婚してきた。
品種改良されていると言っても良い。
平民と貴族は同じ人間だが、魔力量という意味ではもはや別の種だ。
「魔法家庭科学園の授業の後に、こうやってパイルバンカーを撃つのが毎日の楽しみです」
「学園の授業って、ストレスが溜まるのか?」
「いいえ、ただ退屈なのです。スリルがなくて。それと、生徒は全員が女の子ですから、いろいろと気を使います。お喋りは楽しいのですけど。貴族の家は色々とありまして、敵としてる貴族も多いのです」
生徒同士の付き合いに、仇敵が混ざってるのか。
俺なら嫌な奴はパイルバンカーをぶっぱなして、スッキリとかそういう展開になりそうだ。
「まあ、頑張れ」
「はい、この道場で魔法の訓練をしているので、学園の魔法の実技はトップです」
「貴族の娘は家事はしないものな。予習、復習はやらないか」
「ええ、学園の授業は花嫁修業ですから。それに成績が悪くても、みなさん婚約者は決まってます。家事が下手だと言って、婚約破棄などにはなりません。学園に通っているのはどちらかといえば、人脈作りですわね」
「リリアンヌはそういうことをしなくて良いのか? 放課後ってのは友達と遊んだりするものだろ」
「ええ、他の人はお茶会など、活発に行ってます。私はミスリル鉱山があるので、そんな無駄なことはしません。ミスリルの需要は高いですから、人など寄って来て欲しくなくても寄ってきますわ。長年の敵の貴族も例外ではありません」
前世でも資源がある国は外交的に強かったよな。
異世界でもそれは同じか。
「ミスリルって、主に何に使うの?」
「武器、魔道具、アクセサリー、ゴーレム、用途は多いです。うちのミスリル鉱山からの産出量でも、この国の全ての需要は満たせません。需要を満たすのであれば、鉱山があとふたつは必要ですね」
鉱山を探してみるか。
何となくミスリルがありそうな場所は分かる。
硬い岩がある場所だ。
硬くて掘るなんて考えてない所だ。
俺が発見したミスリル鉱山も、硬いので新しい坑道は掘られてない。
ミスリル鉱石の採掘はミスリル鉱石が硬いので、普通の人は鉄鉱石の10分の1ぐらいしか採掘できないようだ。
とにかく硬い岩山があったら、掘ってみよう。
リリアンヌの腕輪が震える。
これは、俺がアイデアを出して、作らせた通信用魔道具。
電波で通信してる。
この世界の人間は、電波で通信するというアイデアが出なかったらしい。
魔力による通信魔道具の性能を伸ばすことだけを考えてた。
魔力による通信は、1キロメートルも届けば良い方だ。
距離が短いのは空気中にある魔力が妨害しているからだそうだ。
性能を上げて、距離を伸ばそうとしているが、解決には至ってない。
そこに俺が電波のアイデアを出した。
この魔道具はエングレイ家でのみ使っている。
秘匿しておくと何かと有利だからだ。
通信の優位性は俺も知っている。
俺はリリアンヌと連絡さえ取れれば、それで構わないが。
必要としている場面で、強化パーツを呼び出したいからな。
「リリアンヌお嬢様、ミスリル鉱山が襲撃されました」
腕輪が声を発する。
「大変ですわ! 千里眼。どうやら、後手に回りましたね。もう、制圧されてます」
「ミスリル鉱山のオーナーは俺だ。他の奴らに渡してなるものか」
「敵の主たる戦力はゴーレムが3体です」
「ゴーレムは国の管理じゃなかったのか?」
「見た感じでは、旧式のゴーレムです。軍のパレードで、最新式を見たことがあります。たぶん、軍の廃棄するはずのゴーレムを横流ししたのだと思います」
廃棄するはずの軍の装備を横流しか。
前世でもそんな事件があったな。
どこも同じか。
「鹵獲したら、国は文句を言うかな?」
「戦場で、鹵獲した他国のゴーレムを使っている貴族家はございます。問題ないと思われます。文句を言われたら、お父様に頑張って頂きましょう。そのためにお父様がいるのですから。スルース様との仲を認めないお父様など、苦労して禿げたら良いのです」
「お嬢様、伯爵様が可哀想です。お嬢様を嫁に出したくないと常日頃おっしゃって、お嬢様に激甘なのに。聞いたら泣かれますよ」
「よし、作戦を立てたら、出撃だ」
リリアンヌに聞いたゴーレムの配置場所は、坑道の出入り口に1体、ふもとの施設の場所に1体、街道近くに1体。
ゴーレムが大きいので狭い場所での戦闘は難しいらしい。
なので、3体が集団行動というわけにはいかなかったようだ。
リリアンヌと作戦を考える。
千里眼によって、構造も少し分かった。
ゴーレムの背中にハッチがある。
背中のハッチには、スキルが何重にも掛けられてて、一番硬い箇所となっている。
攻撃は主に前方向。
となると、奇襲して、背中のハッチをぶち破ろう。
鹵獲してゴーレムが壊れていたら、がっくりくる。
人間だけを殺せば良い。
奇襲するなら、背後方面からだ。
坑道から、俺が出て来て、出入り口の1体をまず仕留めよう。
そして、ふもとの1体だ。
街道近くの1体は、最後。
この順番で行こう。
敵は街道から攻めて来ると思っているはずだから、不意を突けるだろう。
俺は鉱夫の恰好に着替えた。
この恰好なら、坑道の中に入れるはずだ。
「ご武運を。死なないで下さい」
「お嬢様、この男は殺しても死にませんよ。しぶといですから。ゴーレムごときで死ぬのなら、私が気を揉んだりしません」
「ロケット加速!」
道場を飛び出し、王都の空を飛んで行く。
鉱山に一直線だ。
気分を出すためにスチームの魔法で飛行機雲を作りながら飛ぶ。
鉱山が見えたので、ローラーでの移動に切り換えた。
鉱山入口の道に到達。
年季の入った靴に履き替えた。
これは、修行中にミスリル鉱山で履いてた靴だ。
ふもとの施設に行く途中に呼び止められる。
正規兵の恰好ではない。
かと言って、山賊とも、冒険者とも違う。
装備もばらばらだ。
私兵がもっとも近いかな。
近くにゴーレムが見える。
お前は最後のデザートだ。
「止まれ! なんの用だ!」
「俺はここで働いていた鉱夫だ。村にしばらく帰ってた。仕事を再開するために来た」
「スキルをチェックしろ!」
「スキル鑑定。スキルはなしです」
「忌み子か。それで鉱夫になったのか。良いだろう。通れ!」
鉱夫を締め出したら、採掘できないよな。
ミスリルの鉱石を掘るのは技術が要るから、そこらから有象無象を集めてというわけにはいかない。
だから、鉱夫は大事にしてるはずだ。
俺を通さないという見込みは正しかった。
施設でも止められたが、同じように説明して、通過。
施設がある村みたいな所の広場にゴーレムが見える。
お前はメインディッシュだ。
山を登る。
そして、坑道入口。
ゴーレムが見える。
お前は前菜だ。
ここでも止められたが、同じように説明して、坑道に入る。
趣味で作っておいた物がある。
これを知ったアイラは「お嬢様、この男に金を持たせたら破産します」そうがなり立てた。
作りたかったんだから、仕方ない。
本当なら、宇宙戦艦を作りたい。
ここにあるのは廃坑に設置したカタパルトだ。
これで何度か、出撃ごっこをして遊んだ。
これを本物の出撃に使う日がくるとは。
胸熱だな。
たぎるぜ。
宇宙戦艦なら、もっとたぎったのに。
せめて、船ならな。
船もそのうち手に入れよう。
「スルース出撃します。スルース、行きまーす!」
カタパルトの魔道具を起動。
俺はぐんぐん加速して、廃坑から飛び出した。




