第35話 ガセイン動く
Side:ガセイン
お母様が魔女として処刑された。
嘘だ。
俺は信じない。
「ガセイン、俺はキュラリーを信じてる。そう落ち込むな」
「父上」
「貴族の陰謀に違いない。奸計に嵌ったのだ」
「俺もそう思います」
「ガセインはこれからも跡取りだ。キュラリー無念を俺とお前で、必ず晴らすのだ」
「はい」
打ちひしがれていても、どうにもならない。
父上の前妻であるエリーゼは病死のはず、それを暗殺だとエリーゼの実家を焚きつけた者がいる。
それは誰だ?
父上の情報網でも分からないらしい。
「ガセイン様、面会したいと従姉弟のエローラという方がいらっしゃってます。約束はないとのこと。どう致しますか?」
「会おう」
従姉弟なら親戚だ。
会ってみるのも悪くない。
秘密裡に行われた母の葬儀も終わった。
動き出さないと。
「始めまして、エローラと申します。生前、キュラリー叔母様には大変お世話になりました。良い方でしたのに、残念でなりません」
「ありがとう。そう言ってくれる人は少ないんだ。みんな母のことを悪く言う」
「誤解されているんですね。腹が立ちます。私で良ければ、力になりたいですわ」
「母の無念を晴らしたいが、敵の正体すら分からない」
「私、見たんです。キュラリー叔母様に止めを刺した男をです。後をつけたら、エングレイ家の娘と会っていました」
「エングレイ家? うちとは関係がないはずだ。確かなのか?」
「ええ。調べたら、エングレイ家はミスリル鉱山で、飛ぶ鳥を落とす勢い。きっと、貴族界を牛耳る策略に違いありません。キュラリー叔母様は通り魔的に襲われたのです」
「そうなのか。許せないな。だが、そんな勢いのある家に攻撃を仕掛けるのは難しい。俺だって、それぐらいは分かる」
「叔母様の隠し金庫は、開けたでしょうか?」
「えっ? 聞いてない!」
「キュラリー叔母様の部屋に入れて頂ければ、場所を教えて差し上げます。キュラリー叔母様に何かあった時にはガセイン様に教えるように言付かっております」
エローラに母の隠し金庫を教えてもらった。
鍵の在りかもだ。
中には金貨がぎっしり。
「これで、何とかできる。エローラ、ありがとう」
「どういたしまして。ところで殺し屋などに伝手はありまして?」
「そうだな。困ったな」
「傭兵団を雇ってみたら如何です。ミスリル鉱山を奪ってしまえば、痛快だと思いませんか?」
「敵の財力を叩くんだね。そして、こっちの財力が増える。やろう! それで行こう!」
「でしたら、ゴーレム傭兵団がお薦めです」
ゴーレム傭兵団の事務所は王都にもあった。
中に入ると、いかにも強そうな男達がいる。
これなら、勝てるかも。
「仕事か?」
「エングレイ家のミスリル鉱山を強奪してくれ」
「こいつは豪気な話だ。だが、狙い目であることには間違いない。あそこの警備は薄いと前々から思ってた。貴族に手を出すのは不味いから、ちゅうちょしてた。貴族同士の戦いなら、こっちは非難されない」
「契約成立だな」
団長とがっちりと握手した。
「提案がある。ミスリル鉱山を奪ったら、俺達と長期契約してくれ。それとミスリルの素材が欲しい。ゴーレムの性能を上げられるからな」
「構わない。ミスリル鉱山を独り占めする気はない」
「太っ腹な雇い主は好きだ。今後ともよろしくな」
エローラのお薦めの傭兵団を雇うことができた。
王都に外にある秘密のゴーレム基地を見せてもらう。
「これがゴーレム!」
ゴーレムは人の背丈の2倍を超えている。
これだけ大きければ、人間など一捻りだ。
「オーガと格闘しても勝てるんだぜ。武器を持たせれば、ドラゴンにも勝てる」
数が少ないな。
3体しかいない。
だが、その分、強力なのだろう。
実はエングレイ家が黒幕というエローラの話を疑っている。
だけど、ミスリル鉱山が手に入れば、我が伯爵家は貴族界を制覇できる。
それどころか王になることも不可能ではない。
エングレイ家に申し訳ないなどとは思わない。
弱い奴は食われる運命。
もし、ややこしいことになったら、エローラに全ての罪を被せよう。
いまの俺はエローラの口車に乗って、騙された貴族。
そういうことだ。
Side:エローラ
きゃははは、あの殺しても死なないようなキュラリー叔母様が死んだ。
いつか殺してやろうかと隙を窺っていたのよ。
同類だが、味方ではない。
いつか邪魔になる、そう思っていたから。
手を下す手間が省けた。
これでガセインに接触できる。
キュラリー叔母様がいないのだから。
ガセインの容姿は、10点満点で3点。
家の格は9点。
私が手に入れた男達の中では高得点ではある。
伯爵家の地位は欲しいから、上手く付き合わないといけない。
最初は思いっ切り親切にしてあげましょう。
ガセインは私がキュラリー叔母様の隠し金庫を知っていても疑わなかった。
実はこっそり忍び込んで、調べておいたのよ。
キュラリー叔母様を殺したら、色々と使えそうだったから。
ガセインをミスリル鉱山を潰す方向に誘導してみた。
ガセインの手に入ったら、私が奪ってあげましょう。
武力ではなくて女の手管でよ。
「勝てるのよね?」
女の手管を行使して、気怠い気持ちの中。
ベッドの上で、裸で一緒に寝てる男に話掛けた。
この男はゴーレム傭兵団の団長。
男としてはポイントが高いけど、貴族ではないので、そこがネック。
まあ、使い捨ての道具よね。
「おう、鉱山の武力は把握済みだ。万が一にも負けない。傭兵は負ける戦いはしない」
「ミスリル鉱山を奪ったら、実質的に支配するのよ」
「任せておけ、貴族の若造などには駆け引きで負けたりしない。上手い事やるさ。お世辞を言って、搾り取れるだけ搾り取るさ。そして、傭兵団を増強する。気がついたら、手遅れって具合にな」
もう、男と寝るのは抵抗がない。
最初の相手と比べたら、どんな男もまし。
そのうち、ガセインとも深い仲にならないと。
信用させるには寝るのが一番。
男なんて一緒に寝れば、女を物にした気になる。
裏切るなんて、欠片も考えない。
扱い易くて良いのだけれど、馬鹿の相手は疲れる。
「鉱山の所有者のスルースという奴のことは何か分かった?」
「家名がないから、平民だと思うぜ。きっと山師だな」
「エングレイ家も馬鹿よね。山師なんて騙してしまえば、良いのに」
「お人好しの方が敵としてはやり易い。だが、評判ではやり手と聞いている。所有者の件はちょっと引っ掛かるが、奪うのに問題はないだろう」
問題はリリアンヌの千里眼スキルよね。
危機察知スキルも鉱山の危機を報せるかも知れない。
厄介な相手であることには間違いない。
油断はできない。
奪った後の交渉は貴族同士の話し合いになる。
派閥は金さえ出せば、動いてくれる。
ガセインの家の所属してる派閥を上手く使いましょう。
派閥の貴族の何人かと寝てもいいわ。
貴族の当主は馬鹿ではないと思うけど、ベッドでの交渉には自信がある。
上手く行く未来しか見えない。




