第27話 ゴーダッツ男爵の野望
Side:ゴーダッツ男爵
俺は、ゴーダッツ男爵。
ヒヨリミー男爵領の隣を統治している。
伯爵夫人であるキュラリーと密約を交わした。
ヒヨリミー男爵領に俺が攻め込んだら、所属してる派閥を動かして、その正当性を証明してくれるはずだ。
いきなり攻めてもヒヨリミー男爵領は陥落しない。
あそこは、天然の要塞となっている。
守り易く、他領には攻め込み難い。
なので、平和ボケしてる。
だが、地形というのはどうにもならない。
道が狭いので、大軍を一挙に移動させるのは無理。
崖から岩を落として、撃退できるポイントがいくつもある。
ゆっくり進軍してたら、あの間抜けなヒヨリミー男爵でも、俺の軍を容易く撃退するはずだ。
作戦として、街道を封鎖することにした。
馬車が通れるようなヒヨリミー男爵領への道は1本しかない。
あとは険しい山道だけだ。
封鎖が簡単に行える。
ただ、俺の軍にそれをやらせたら、ヒヨリミー男爵は王や自分の派閥を動かすだろう。
俺が中央から睨まれるのは割に合わない。
ヒヨリミー男爵領を奪ったあとなら別だが。
「計画はどうなった?」
「オーガの縄張りに、人工ドラゴンの尿を撒きました。オーガの移動が確認されてます」
「オーガが街道を封鎖すれば、勝ちだ。ヒヨリミー男爵領には食料がなくなって、弱るはず。弱って攻め込むには、また人工ドラゴンの尿を撒いて、オーガをどかせば、良いんだからな」
そして。
「オーガ、所定の位置に到達しました」
「ふはははっ、勝ったな。ヒヨリミー男爵領を制覇したあかつきには、周辺の領をじわじわと飲み込んでくれる」
そして。
「大変です。オーガが退治されました」
「予定より早いが、仕方ない。出撃だ!」
「了解しました」
道が細いので、2列になって、進軍する。
途中、奇妙な靴を履いた冒険者が近づいて来るのが見えた。
移動スピードが尋常ではない。
冒険者は、軍の手前で停まった。
こいつに通報されたら、進軍が奇襲ではなくなる。
「ええい、盗賊に見せかけて殺してしまえ!」
「正規軍に見えるが、盗賊に見せかけてということは、お前らは盗賊で良いだろう。一度、鎧にパイルバンカーをぶち込みたかったんだよな。はははっ」
やるつもりなのか。
こっちは50人の精鋭部隊。
それも重装備の重歩兵だぞ。
「アダマンタイトパイルバンカー。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。鎧と言っても、結構柔らかいな。【スパーク、エクスプロージョン】。うん、これこれ。陥没後にスパークしてから爆発。とっても良い」
ジャキンという音。
爆発音がして、先頭の兵士が倒れた。
プシューという音が続く。
蒸気と思われる物が噴き出す。
倒れた兵士の鎧の陥没部分に稲妻の小さいのが見える。
そして、爆発。
どんな攻撃なんだ。
スキルなのか?
まさか、魔法を組み合わせた。
魔法を増幅するスキルはいくつかある。
その一種なのだろうか?
兵士が次々に倒されていく。
俺に得体の知れない攻撃の恐怖が押し寄せてくる。
先頭近くにいた俺は逃げ出した。
「どけ! どかんか!」
狭い道を兵士をかき分け逃げる。
背後ではさっき聞いた奇妙な音が連続して聞こえた。
怖くて振り返ることができない。
そして、背中に何かが当たった。
振り返った。
鎧越しなのに、胸に当たったその存在がはっきりと判った。
「アダマンタイトパイルバンカー。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。様式美。【スパーク、エクスプロージョン】。ふふふ、完璧」
「ぐがぁ!」
「鎧が陥没してても、死なないよな。内臓に傷はいってないはずだ」
食い込んだ鎧が痛い。
骨も折れてる気がする。
そして、息ができない。
誰か鎧を外してくれ。
声を上げたいが、無理だ。
「こいつらどうしようか。うーん」
早く鎧を。
無限と思われる時が流れる。
馬の走る音がした。
「派手にやりましたね」
「アイラ、なぜここに?」
「お嬢様が千里眼で、兵士の一団があなたがいる街に進軍するのを見まして、兵士5人と早馬で駆け付けました」
「ひょっとして、俺またなんかずぶりとしました」
「悪びれたらどうです。50人ほどを半殺しですよ」
「だって、盗賊だって言うからさ。俺、悪くないよね」
会話なんかどうでも良い。
早く鎧を外してくれ。
死にそうなんだ。
「この軍がどこの手の者か聞いたのですか?」
「うんにゃ、訊く必要なんてないだろう」
「あなた、杭を打ち込みたくて、話し合いを省略しましたね。普通なら、交渉から入るものです」
「えへへ」
「えへへじゃありません。本当に盗賊を名乗ったんですか?」
「まあね。はっきりと聞いたよ」
「証人もいないのにどうするんですか? 後始末する人のことを考えて下さい」
「いやあ。君ら盗賊だよね?」
冒険者の男は黒い杭を、手でぽんぽんと叩いてる。
俺はほとんど動けないし声も出せないが、必死に何度も頷いた。
否定したら、とんでもないことになりそうだ。
「ほら、頷いているよ」
「恐怖で頷いているだけです」
「アイラ達がこれで証人だよね」
「全く、馬鹿の後始末は疲れます」
「リリアンヌによろしく言っておいて。それから、ありがとう、助かったって」
「誰がそんなことをいいますか。余計なお世話だと言っていたと伝えておきます」
鎧を外してくれ!
もう、限界だ。
冒険者の男の仲間だと思われる兵士に鎧を外してもらって、何とか助かった。
あばらが何本も折れている。
忌々しいことに、ヒヨリミー男爵領の医者の診断だ。
そうだよ、捕虜になってしまった。
尋問されて、今回の計画を全て吐かされた。
俺が喋らなくても兵士の誰かが喋るだろうからな。
拷問道具を見せられたら、全部ぶちまけるしかない。
俺の覇道がついえた。
ヒヨリミー男爵領のあとに侵略する予定だった他領の領主に、今回のことを全て伝えると、ヒヨリミー男爵がニヤニヤしながら言い放つ。
周りの領が全て敵になってしまった。
うちの周りの領が、うちに対する同盟を結んだ。
しかも、賠償金をその同盟領の全てに、毎年払うという署名をさせられた。
これじゃ搾取じゃないか。
ヒヨリミー男爵は、軍備費を削れば良いなどと言う。
たしかにその金額でぴったりだ。
だが、そんなことをしたら、一生、いや未来永劫、周りの支配から抜け出せない。
なんでこんなことに。
あの、冒険者のせいなのは分かっている。
だが、探し出して復讐など考えたくない。
1000人いても、あの男にやられるような気がする。
あれはきっと悪魔だ。
分けの分からない技を食らって分かった。
倒れて半殺し状態なのに、スパークの魔法を使って、さらに爆発の魔法を掛けるんだからな。
しかもそれを楽しそうな目で見てた。
あの無邪気な笑顔。
楽しくて堪らないって顔に見えた。
悪魔が笑っているように見えたのが、忘れられない。
きっと、あの男に再び会ったら、腰を抜かすと思う。




