第25話 飛びナイフ
Side:パーチェス
俺はオーガが封鎖している街道を通り抜けて、ヒヨリミー男爵領から買い出しに来た勇気ある商人。
道中で奇妙な男のスルースに出会った。
オーガの出現が自分のせいだと思っている。
あの靴の発明品は良かった。
あれだけ早くは馬だって走れない。
だが、時折、意味不明なことを口走る。
天才ってのはみんなこうなのか。
浮遊魔法は面白かったが、数秒浮いて終わりだ。
ナイフを飛ばす攻撃は良かった。
これがあればゴブリンには無双できる。
オーガみたいなイレギュラーは滅多にないから。
「ところで何を買い出しに来たんだ?」
「塩だ。塩が足りなくなったんだ。俺が背負える量なんて、たかが知れているが、滅亡するわけにも行かない」
「塩なら俺が馬車一つ分ぐらいあるぞ。俺も塩を切らして困ったことがあった。それからそれぐらい備蓄しておくことにしてる」
「俺達に使って良いのか?」
「ああ、問題ない。また買えば良いんだ」
良い人だ、変わり者だが。
「さあ、街への旅を再開しよう」
「そうだな」
ローラースケートの旅は速い。
瞬く間にオーガの縄張りに入った。
「ここからは気をつけろ。オーガが出てくる」
「出て来たら振り切るさ。ローラーダッシュより遅いだろう」
「そうだな」
オーガの縄張りを飛ぶように移動する。
ズシンズシンという足音が聞こえた。
オーガだ。
木々の間から赤い肌のオーガが見えた。
生きた心地がしない。
どうか振り切ってくれ。
なんとか振り切れたらしい。
オーガの足音が聞こえなくなった。
ふう、ほっと胸をなでおろす。
住んでいる街は小さい街だ。
住人は1000人ほど。
城壁はオーガが攻めてきたら持ちこたえられないだろう。
硬く閉ざされた門の脇にある通用門の扉を叩く。
「パーチェス、塩はなんとかなったか?」
門番が開けてくれて、第一声がこれだ。
焦っているのは分かる。
塩は、生活に必要な物だからな。
十分に備蓄してない領主が悪い。
だが、ここは貧乏な領地。
余分な予算などない。
山間の街だからな。
産業も林業以外、ほとんどない。
鉱山でもあれば別だが。
噂のミスリル鉱山が羨ましい。
領主のヒヨリミー男爵は悪い人ではないが、切れ者でもない。
オーガ退治の計画が進んでいるのか、進んでいないのか、さっぱり分からない。
会議していはいるとは思うが、結論が出ないのだろうな。
守備兵だけでは、全員で出撃してもオーガ討伐は荷が重い。
撃退して、遠くに追い払うのも難しいだろう。
籠城戦も愚策だと思う。
食料品などが入らなくなったら、じり貧なのは間違いない。
一介の商人は、領主に直接意見を言うことなどできない。
困ったものだ。
最悪の結末も考えておかないと。
城壁がオーガに破られたら、逃がせられる限りの人を逃がす。
画期的な移動方法は、喉から手が出るほどほしい。
移動方法に興味を示したのはこういう理由。
変人の冒険者と話を合わせて、機嫌を損ねないように気を使っているのもそのため。
新商品のアイデアをくれたという理由もあるが、こっちは街が助からなければ、金にはならない。
死にそうなのに、ポーションではなくて、名剣のことを考えても仕方ない。
この地方のことわざだ。
「手に入ったよ。馬車一つ分だ」
兵士に塩が手に入ったと報告する。
ほっとした顔になる兵士。
これで、塩は何ヶ月か持つ。
「よかった。塩が足りなくて力が入らなくなっている人がいる。このままだと動けなくなってオーガが攻めてきても何にも出来ないところだった」
スルースが倉庫で塩を出す。
持っていると話には聞いていたが、実物を見るまでは半信半疑だった。
さあ、飛びナイフの魔法をみんなに教えるぞ。
「兵士を集めてくれ。飛びナイフの魔法を教える」
オーガには使えないかもしれないが、強くなるのなら助力は惜しまない。
俺はこの街を愛している。
「何だ。それは強いのか」
「ああ、滅茶苦茶な」
兵士が集められた。
「結界魔法は使えるな」
「もちろんだ」
「爆発魔法と拘束魔法も使えるな」
「兵士なら当然だ」
「まず拘束魔法でナイフを空中に固定する。そしてその後ろに結界を作る。結界の中で爆発を起こすわけだが、ナイフの側の結界を薄くする。そうするとそこへ爆発が吹き出すという具合だ。やってみるぞ。【バインド、バリヤー、エクスプロージョン】」
的の端にナイフが深々と突き刺さった。
「命中率は悪そうだな。中距離攻撃には良いだろう。よし練習しよう」
結界を上手く作れなくて自爆する奴とか色々と失敗したが、半日立つ頃にはみんなできるようになってた。
「くそっ、暗黒面に落ちた奴がこんなに出てしまった」
スルースががっくりしている。
確かに手が届く距離なら飛び出しナイフは外さない。
だけどそれなら手を使って突き刺した方が早い。
飛びナイフの魔法も投げナイフが上手い奴なら必要ないだろう。
「くい打ちも土木作業で使うから、やるよ」
「そうなんだけど、そうじゃない。硬い敵を撃ち砕くのがパイルバンカー」
「丸太に一斉にみんなが飛びナイフの魔法を使ったら、確かに城壁も目じゃないとは思うけど、使う場面がないよ」
何が不満なのかな。
使い勝手がいいように改良していくのは当然だ。
飛びナイフの魔法も良いとは言えない。
「飛びナイフなら、ばねで作れる」
おお、そんなことを思いつかなかったとはな。
設計図を書いてもらった。
簡単な構造だ。
飛ぶナイフを筒にすると血が流れ出て良いらしい。
ゴブリン程度ならこれぐらいで十分だ。
「パイルバンカーもバネでやらないのか?」
「爆発で突き出さない杭はパイルバンカーとは認めない」
こだわりがあるんだな。
天才はみんなそんなものだ。
「爆発を起こす何かがあればいいのにな」
「火薬を作って雷管を作れというのか?」
「もうそういうものがあるんだな」
「頭の中にな。実現は程遠い」
スルースが可哀想だ。
ひとつ教えてやろう。
「魔石の粉に魔力を注入すると爆発するぞ」
「なにっ本当か。それなら火薬と雷管の問題が解決する」
でも、薬莢を作るのがとスルースがブツブツと言い始めた。
「飛びナイフもそれで作れば良いのか。かなり高くつくな。でも売れるかも。作って良いか?」
「暗黒面に落ちた者が何をしようが構わない」
浮遊魔法の推進も魔石の粉で出来るが、凄い高値になるな。
隣町まで出かけるのに金貨が100枚ぐらい必要になりそうだ。
誰もやってないということは駄目だったってことだな。
飛びナイフを魔石の粉で飛ばすのは高級品になる。
金持ち相手の商品になるだろう。
あとで作ってみるか。
兵士にはバネ式ので良いな。




