第17話 素敵な方
Side:リリアンヌ・エングレイ
「お待ちになって、勇ましいお方」
「俺っ?」
「他にどなたかおりまして?」
「いや、伸びている奴とかいるでしょ」
「あれは護衛の兵士ですわ。大変、介抱しないと!」
「俺も手伝うよ。ポーションも持っているし」
「ポーションのお金は必ず払います。王都の屋敷までご一緒して下さらない」
「行く宛てもないし、まあいいか」
「アイラ、この方がポーションを分けて下さるそうです。兵士達を手当してあげて」
「かしこまりました」
出されたポーションは全て上級でしたわ。
収納鞄の魔道具を持っているところから想像は付きますけど、お金持ちでいらっしゃる。
強くておまけにお金持ち。
この方が私の婚約者なら。
はっ、まるで恋しているみたい。
この方との結婚を夢見てどうするの。
素性を存じ上げないのに。
私がこの歳まで婚約者がいないのには理由があります。
スキルのせいです。
会った婚約者候補に危機察知が働いてしまうのです。
危険だとスキルが警告してしまって。
たぶん、警告を無視して結婚したら、不幸になるのでしょうね。
便利なんですけど、うっとうしいです。
スキルに管理されているようで、嫌ですね。
でも、わざと危険に飛び込むなんて、馬鹿なことはしません。
痛い目に遭ってからでは遅いですから。
忠告や警告は耳に痛い物ですので、うっとうしいぐらいは仕方ないと思ってます。
それと千里眼がまた厄介です。
危機察知が働かない婚約者候補の方は、千里眼のスキルを聞くとみなさん断りました。
常に監視されたくないそうです。
その気持ちは分かります。
私だって千里眼で、男の方に覗かれていたら、嫌です。
ですが、私を毒蛇でも見るような顔をして、断らなくてもよろしいのに。
私だって、理由もなくスキルは使いません。
千里眼スキルは珍しいので、世界で100年に一度授かれば良い方らしいです。
かなり使えるスキルなので、評価は高いのですけど。
男なら、将軍になれたと父はぼやいてました。
戦争で大活躍するスキルだそうです。
「私はリリアンヌ・エングレイですわ。名前を教えて下さいませんか」
「スルースだよ。家名は名乗れない。勘当されているからな」
「まあ、何か不名誉なことでもございますの?」
「スキルがないんだよ」
「まあ、忌み子でいらっしゃる。失礼いたしました。ただのスキル無しですわね」
「どんなふうに呼ばれても構わない。スキルなんて所詮飾りだ。スキルが偉いんじゃなくて、何を成したかでその人の価値が決まる」
「おっしゃる通りですわね。あの杭を使った戦闘は見事でしたわ」
「おっ、パイルバンカーって言うんだ。胸熱だろう」
「ええ」
「分かるのか。なかなか当たらなくて。そして当たれば一発逆転なんだ。熱き杭をずぶりと叩き込む。爆発なんだ。ピストン運動なんだ」
ええと殿方との睦言みたいな。
熱き杭をずぶりと差し込む、ピストン運動で、爆発。
なぜにそのことを想ったのでしょう。
嫌らしくてはしたない娘になってしまったようです。
「顔赤いけど、大丈夫。最初のジャキンがそそるんだよ。装填準備完了って感じに」
ジャキンとそそり立つのですか。
そして装填準備完了。
なんの。
はしたなくて言葉に出せませんわ。
「プシューと蒸気が上がるのが良いんだよ。解放感でさ。やった。放った。撃ち込んだという感じで」
貴族教育で色々と聞いた言葉が頭を駆け巡ります。
解放感で何を放って、撃ち込むのでしょう。
ふわわ。
ええともうこれ以上聞いてられません。
「パイルバンカーは分かりました。エクスタシーなのですね」
「上手い事いうね。そう、エクスタシー、恍惚感なんだ」
「はい、分かります。殿方はみんなそうだと聞いてます」
「えっと、まあいいや」
兵士が全て助かったようです。
馬車に入るとスルースが私の隣に腰を掛けます。
大きいスルースが馬車の中にいると狭くなったようです。
アイラはスルースを睨んでいます。
「ええと勘当されたのですよね。お金はどこからです?」
アイラがずけずけと尋ねる。
「それっな。いやー、ミスリル鉱石を掘り当てちゃって。これが凄く儲かることと言ったら。おまけにミスリルワームだろう。これが高いんだな」
「存じてます。最近、王都で出回っているミスリルワームの素材の出所は貴方でしたか」
「それは知らないけど、ピットマイン商会に売ったのは俺だ」
「やはり。ですが、おかしいですね。この国に採掘しているミスリル鉱山はありませんから、ミスリル鉱山が発見されたとなると大騒ぎのはずですが」
「めんどくさいのでどこも登録してない」
「貴方、天才か馬鹿のどちらかですね」
アイラ、言葉がきついですわ。
でもスルースは笑っています。
「馬鹿だと思う」
「認めますか。馬鹿なのを認める馬鹿は、愛すべき馬鹿です。お嬢様、やはり危険な男です」
私は利口ぶった男性はお断りです。
鼻持ちならないですから。
「ええと、うちで登録のごたごたを引き受けたらどうかしら」
私は提案してみました。
「俺はやってくれるなら任せるよ。信用してるからさ。いつもパイルバンカーを馬鹿にしてない目をしてたら、付き合うことにしてる」
「お嬢様、妙案です。当家で採掘を取りしきれば、かなりの利益を生み出します」
そうなると、スルースとの縁は切れないわよね。
私と付き合っても問題ない。
はっ、また恋人になることを考えている。
「じゃ任せた」
「慰謝料も請求しませんと」
「へっ、慰謝料」
「オークの上位種が発生したのは何でだと思いますか」
えっ、アイラの言っていることが分からない。
「えっと、俺は知らない」
「やっぱり馬鹿ですね。いいですか。ミスリルワームはミスリルの他に何を食っていたと思います」
「ああ、モンスター」
「ふもとのオークを食っていたに違いありません」
アイラ、賢い。
「何でアイラは知っているの」
「狼を狩ればウサギが増えます。農家の常識です」
「食物連鎖ね。すまん俺のせいだ」
「分かって頂けたようで何よりです。命の危機ですから、慰謝料は高いですよ」
アイラは毟り取るつもりね。
「アイラ、ほどほどに」
「相場で請求します」
相場なら良いですわね。
「ミスリル鉱山の利益から引いてくれ」
「かしこまりました」
「じゃあ、後で付近一帯の凶悪なモンスターを狩って数を減らしておくよ」
「依頼を出せばよろしいのではないですか」
「いや、パイルバンカーの試し撃ちにちょうどいいからさ」
「では、モンスターは狩らないで、監視だけに留めておきましょう。ですが、モンスターが多いと良い狩場なのでそのうち冒険者が大挙してくるでしょうね。それにミスリル鉱山は色々な依頼を生みます」
「そういうのは気にしない」
スルースが億万長者なのは分かりました。
ですが、それを気にするふうもない。
ミスリル鉱山がどれだけ富を生むのか分かっているのでしょうか。




