第13話 修行完了
Side:スルース
修行に入って、それから9年。
16歳だ。
さあ、今日こそはミスリルワームを一撃で倒すぞ。
派手に採掘していると、地面から振動が伝わってきた。
罠に掛かったな。
おびき出すために、わざと派手に採掘したんだよ。
「シギャー!」
「杭強化魔力パイルバンカー、【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。爽快、一撃、一家に一台、パイルバンカー!」
ジャキンという音が洞窟に響き渡る。
鋭刃の魔法で鉄の杭の先端が、青い光を帯びる。
その杭が空中に固定される。
杭の後ろに結界ができた。
杭が回転魔法で回転し始める。
爆発。
杭はミスリルワームの脳天に突き刺さった。
プシューという音がして蒸気が立ち込める。
「くー、堪らん!」
あの硬い、ミスリルワームの脳天をぶち抜いたぞ。
ようやく、ミスリルワームを1撃で倒せるようになった。
まず、ジャキンという音は、アラームの魔法で再現した。
アラームの魔法は本来の使い方は、襲われた時などに味方に音で知らせるものだ。
『敵だ!』みたいな音声から、ピーっという甲高い笛の音まで可能だ。
ならジャキンという金属音も出来るだろう。
回転魔法を適用するのは簡単だった。
杭を―保持するバインドの魔法をわざと少し緩くするのがコツだ。
ちなみに回転魔法は何に使うかと言えば、本来は石臼を惹くのに使う。
だがそれでもミスリルワームには届かなかった。
連打も無意味だった。
決め手は鋭刃という包丁の切れ味をよくする魔法。
これでなんとかなった。
今日で修行は最後になった。
祝杯を上げよう。
酒はヤーマルさんから買ってある。
極上の酒らしいが、領収書を見たら、それほどの値段でもなかった。
ヤーマルさんの商品は高くない。
ここまで、運んでるのだから、もっとぼったくっても文句は言わない。
山小屋の自販機のジュースの値段なんか、3倍を超える。
かなり低い山でもそれなんだからな。
ミスリルの鉱石の買取値段が安くなってるのかとも思ったが、何となく相場のような気がしてる。
正直者なんだろうな。
商人に向かないんじゃないか。
店が傾いたら、パイルバンカーを教えてやろう。
パイルバンカーの力をもってすれば、傾いた店も真っ直ぐになる。
パイルバンカーは全ての障害をぶち抜く。
そういう兵器だ。
窮地の時こそ真価を発揮する。
そうそう、ミスリルワームの素材は1匹で金貨100枚を超えた。
何であんなミミズが高いんだろう。
防具とか作るのは知ってるけど、ミミズだぞ。
ロックワームの肉を食ってみたら、美味かったが、前世でもミミズは食べられているらしいからな。
ニュースで食用のミミズを見たことがあるから、まあ許せる。
だが、ミミズ鎧とかは嫌だ。
恰好悪いだろう。
「パイルバンカーに乾杯! まだ見ぬ強敵に乾杯! うん、美味い酒だ!」
収納鞄という金貨1000枚する魔道具も二つ買った。
これは、小さいのにたくさん入るという便利道具だ。
ミスリルワームの死骸をやり取りするために使っている。
あの木の洞の地面を掘ると収納鞄が現れた。
俺は今日仕留めたミスリルワームが入った収納鞄を手紙と一緒に埋めた。
採掘を終えるという内容と、今回の代金はいずれ店に貰いに行くと手紙に書いた。
収納鞄から金貨を取り出すと、俺にしか分からないであろう石の下に埋めた。
収納鞄に身の回り品を全て入れる。
あとは洞窟の入口を塞ぐだけだ。
石を積んで土で間を埋める。
苔や草を植えたら完成だ。
目印に墓石みたいなのを置く。
その墓石にはパイルパンガーで穴を開けた。
よしこれで良いな。
石に手を合わせた。
お世話になりました。
これからどうするって?
決まっている。
パイルバンカー最強を証明するのだ。
ミミズに勝ったぐらいで、いい気にはなれない。
きっと世界には強敵がたくさんいるに違いない。
地図もヤーマルさんから貰っているが、とりあえず街道を西に行くか、東に行くかの2択しかない。
東に行こう。
何となく都会と言えば東京というイメージだからだ。
東の方が良い事がありそうな気がする。
とりあえず、Cランクから上のモンスターは全部やろう。
ロケット加速を繰り返し、村に着いた。
村人の視線が険しい。
「泊めてほしい。金ならある」
「お前、山賊だろう?!」
「えっ」
ええと、収納鞄から一番良い服を取り出して着替える。
「服じゃ騙されないぞ!」
ええと。
手鏡で顔を見ると、髭とざんばらな髪。
ああ、山賊ルックだな。
「誰でも良い、ここで散髪してくれ。金貨1枚やる」
俺は金貨を出してチラつかせた。
金貨で村人の目つきが変わった。
瞬く間に俺の髪が整えられ、髭が剃られた。
さっぱりした。
「収納鞄をお持ちなら、どこかの没落貴族様ですか?」
村長が揉み手して尋ねた。
「勘当された貴族の息子だ」
「ほう、それは大変でございました。今日は我が家にお泊り下さい」
村長が気を許したのは、俺が腰からぶら下げていたのが鉄の杭だったからだろう。
ハンマーがあれば立派な鉱夫だ。
きっと山師だと思われたんだな。
あながち間違っていない。
鉱山は発見してウハウハだからな。
夜、足音で目が覚めた。
俺は鉄の杭を抜くと、人影の後ろに回り杭の先端を喉に押し付けた。
「ひぃ」
声は若い女だった。
背中に触ると、服を着てない。
ええと、夜這いか。
貴族の血は色々と凄いからな。
まず、魔力量が多い。
俺は調べてないが、やはり多いのだろう。
魔力切れになったことがない。
それと、魔法の才能もか。
魔法の多重起動は難しいらしい。
俺は最初からできてたが。
「悪いことは言わない。血を盗むとこの村を壊滅させるぞ。パイルバンカーでな」
「はい、しません」
「分かれば良い」
女は足早に去って行った。
ふう、油断も隙もないな。
俺は子供を置いて武者修行に出れるほど冷血ではない。
きっと子供を残して行くと、パイルバンカーが鈍る。
それは困る。
我が技に一点の曇りがあってもいけないのだ。
きっとそれが生死を分ける。
俺が愛するとすれば、背中を預けられる戦友みたいな女だ。
だが、本来の俺は常に守っていなければいけないような弱い女が好みだ。
たぶんこの相反した条件に合致する女は現れないだろう。
結婚するなら、パイルバンカーを極めてからだ。
そんな日が来るのだろうか。




