第11話 ミスリル鉱石
Side:スルース
一年が経った。
7歳だ。
金もだいぶ貯まった。
考えていることがある。
誰もいない山でひとり修行したい。
だってもう鉱山の生活ではパイルバンカーが発展しない気がする。
ロックワームも楽勝だし、硬い岩盤もへっちゃらだ。
岩の目を読む技術も習得した。
「ラークさん、お世話になりました」
「さよならは言わないぜ。またな」
「はい、また会いましょう」
さあ、どこで修行しよう。
良さそうな岩場を街道脇に見つけた。
硬そうな岩で実に良い。
さあ、掘るぞ。
掘りまくった。
銀色に光る石が出た。
光を放っているように見える。
あれっ、これは高い鉱石じゃないのか。
食料が尽きる前に何か鉱石が出た。
街道まで出て商人を捕まえる。
荷馬車に一人だけ乗っている商人を停めた。
護衛がいなくて平気なのか?
強いんだろうな。
まあ、パイルバンカーの敵ではないという気がした。
「鉱石なんだが買うか?」
「鉄鉱石は御免ですね。手間賃にもならない」
なんか正直者という商人だな。
「これだが」
「ええと、こ、これはミスリル鉱石じゃないですか! どこでこれを!」
「秘密だ」
「一袋、金貨10枚で買わせて頂きます! まだ欲しいですから、受け渡し場所を決めておきましょう。あなたがそこに鉱石を置くと私がお金を置くで良いですか?」
「よし、交換の場所を作ろう」
木の洞に場所を決めた。
商人が持ってた調味料や食料品を仕入れた。
「私はピットマイン商会の会頭のヤーマルと言います」
「スルースだ。なんで会頭さんが、行商してるの?」
「ウータルフという糞野郎がいまして、戦争中なんですよ。商戦ですが」
どこかで聞いた名前だな。
思い出した、偽木札事件だ。
トカゲの尻尾切りが上手い奴か。
糞野郎なのは確かだな。
いつか俺が、パイルバンカーを撃ち込んでやろう。
「ウータルフは俺にとっても敵だ。被害を受けたからな。もちろん、きっちりお返しはしたが」
「それは楽しい話ですね」
事件の詳細を話して聞かせた。
「ということだったんだ」
「笑いが止まりませんね。ウータルフが失ったお宝には心当たりがあります。そうか、この事件で使えなくなったのか」
「俺なんかずぶりとしました?」
「ふふふ、大手柄ですよ。となると、さらに追い打ちしてますね」
「また、俺、なんかずぶりとしました?」
「はい、盛大に。ミスリル鉱石を売買すれば、うちが戦争に勝てます。劣勢だったんですよ。腹が立つことに、向こうは卑怯な手を使ってきます。こっちは善人を看板に商売してますから、同じ手は使えません。糞野郎ですよ、本当に」
「だろうね。手口が悪辣なのは知ってる」
「末永くお願いします」
固く握手した。
「おう、よろしく。共通の敵を倒すために、景気づけだ。ウータルフにパイルバンカーを撃ち込むまで頑張ろう! えいえいおー!」
「ウータルフにパイルバンカーを撃ち込むまで頑張りましょう! えいえいおー! ところで、パイルバンカーって?」
「それ聞きたい?」
「やめときます。嫌な予感がしますから」
「正直だね」
「ええ、それで商売してますから」
ヤーマルさんと別れた。
食料だが、肉は動物を殺せば良い。
猪のでかいのなんか食いきれないほど肉が採れる。
野菜は山菜だ。
鉱山での生活で食べられる山菜を教わった。
鳥とかパイルバンカーで獲れないかな。
試してみよう。
「【バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
爆発が起き、衝撃波が空に向かって放たれる。
鳥が落ちた。
うん、やはりパイルバンカーは最強だ。
今回のは空砲だが。
1年の鉱山暮らしで獲物の捌き方は覚えた。
俺って何がしたいのかな。
ふと考えた。
決まっている、パイルバンカーを極めるのだ。
そしてありとあらゆる物に一撃必殺をかます。
パイルバンカー最強を証明するのだ。
ミスリル鉱石は堅くて修行にちょうど良い。
鉄の杭だと負けるが、岩の目に攻撃を加えればなんとか勝てる。
金の使い道はないが、あって困ることもない。
隠して置けば、問題ないからな。
そして、奴に遭った。
この振動はロックワーム。
出て来たのは銀色に輝く胴回りが2メートルはある、ロックワーム。
いやこいつは噂に聞く、ミスリルワームか。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
パイルバンカーを撃ち込むも、ミスリルワームに当たって火花を散らしただけだ。
魔鉄の杭もひしゃげている。
ミスリルワームは体を震わせると、拘束の魔法を振り払った。
「ギシャー」
くそっ、パイルバンカーが負けるのか?
いいや、危機一髪からの逆転。
それが醍醐味ってものだろうが。
絶対に勝つ。
所詮ミミズ。
「掛かって来い。ミミズ野郎」
突進を避ける。
ロックワームの弱点なら知っている。
脳みそと、腹の一部分。
脳みそのところの皮は堅い。
腹の一部分はそこが柔らかいのだ。
だだ、それは土の中にあって、普通攻撃できない。
突進してから裏返せば、腹を攻撃できる。
ミスリルワームは胴体を土の中に入れて頭だけになった。
また突進してくるだろうな。
「へいへい。ミスリルワーム、ビビってるよ。撃ち返してホームランだ」
挑発が効いたのか、ミスリルワームが突進してきた。
ここっ。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
ミスリルワームの後頭部の部分、その下には脳みそがあるそこにパイルバンカーを撃ち込んだ。
尖った杭ではない平らな奴だ。
ミスリルワームにはもろ衝撃が伝わったはず。
どうだ。
ミスリルワームは動かない。
「【バリヤー、エクスプロージョン】」
弱点の腹部分で爆発を起こす。
ミスリルワームが持ち上がった。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
魔鉄の杭を素早く差し込んで、パイルバンカー。
ミスリルワームは銀色の血を流した。
どうやら勝てたようだ。
やはりパイルバンカーは最強。
危機に陥ってからの逆転。
爽快というほかない。
これこそがパイルバンカーだ。
ここでの修行はミスリルワームを一撃で倒せるようになったら卒業だな。
脳天をぶち抜いて一撃。
それが理想だ。
どうやればそれが可能か。
時間ならある、ゆっくり考えよう。
俺のパイルバンカーはまだまだ進化する。
邪道だが。
パイルバンカー連打という手もある。
回転を加えることも可能だ。
ふふふ、楽しみだ。
それにセットする時のガシャンという薬莢装填音もほしい。
あれがあるとぐっと盛り上がる。
プシュー音だって、結界の形を試行錯誤してできたのだから、できるはずだ。




