第10話 偽木札事件
Side:スルース
蒸気が恰好良くない。
こんなのはパイルバンカーではない。
結界の形を工夫する。
蒸気が笛みたいな狭い管を通って排出されるようにするのだ。
「【バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
空砲を撃ってみた。
管の形の結界から、蒸気が噴き出す。
プシューっという音を立てて。
「良いねぇ! とても良い! エクセレント! 管の太さとかを調節して、理想のプシュー音を作り出すぞ!」
理想に近いプシュー音を作り出すことができた。
これこれ、この音だよ。
これこそが、パイルバンカーの冷却音。
爆発の威力も少しずつ上がっていく。
蒸気の量も増えてかなり良い感じ。
そんなこんなで一ヶ月。
「坊主、頼みがある。硬い岩盤にぶち当たった。俺の勘ではその向こうに良い鉱脈がありそうなんだよ。いっちょやってくれ」
ラークさんからの頼み。
「はいよ」
お安い御用だ。
パイルバンカーに撃ち抜けない壁などない。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、とうりゃ」
パイルバンカーが撃ち込まれ、魔鉄の杭がひしゃげて、蒸気がモクモクと上がった。
プシュー音も恰好良くて、良い感じだ。
我ながら良いパイルバンカーだった。
だが、岩盤は崩れていない。
パイルバンカーが負けたのか。
いや負けじゃない。
敵を舐めてただけだ。
もう油断しない。
「岩の目っていうのがあると聞いたことがある。ラークさん、分かる?」
「もちろんだぜ。この仕事も長いからな。岩のどこにつるはしを当てれば良いかなんて、1年もやれば分かるようになる」
「この岩盤の目と、撃ち込む理想の角度は?」
「それはな……」
岩の目というかひびが入りそうな場所と角度を聞いた。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、うりゃあ! 突き抜けろパイルバンカー! お前はそんな弱い奴じゃない! できる奴だ!」
駄目かと思ったが、ガラガラと岩が崩れる音がした。
やった。
やはりパイルバンカーは無敵だ。
弱点にパイルバンカーを撃ち込むのも醍醐味なんだよな。
プシュー音が心地いい。
おっ、大きな音と振動を起こしたからか、この感じはロックワームだな。
儲かったぜ。
いらっしゃいませ。
サクッとパイルバンカーで仕留めた。
拘束魔法で止まった敵など、パイルバンカーの敵ではない。
魔力パイルバンカーによる強化もしてるしな。
「ひぇー……」
運搬役が来て、ロックワームを見て腰を抜かした。
「鉱石はそこにあるから、勝手に持っていっていいよ。木札と鉄貨を置いてって」
「へぇ」
いつものように、ロックワーム解体の職人がやってきた。
解体は問題なかった。
だが、職人が置かれた木札を見て、騒ぎ始めた。
「偽札じゃないか! こりゃ大事だぞ! ギルドの幹部の首が飛ぶかもな! この事件に関わった奴は死刑だな!」
「あの、報告するのは良いんだけど、信用できる一部にしたらどう? 騒ぐのは不味い」
「坊主、考えがあるのか?」
「うん、何事も一撃必殺。弱点を探して、パイルバンカーを撃ち込む。高速機動で意表を突かないと」
「もっと分かり易く言ってくれ」
「弱点は分かるよね。あとは目くらましだよ。フェイントって言っても良い」
「攻撃のタイミングを敵に悟らせないってことだな。大勢が知ってると、敵に攻撃のタイミングが分かってしまうか。なるほどな」
「とりあえずは、偽木札の出所を調べないと」
手始めに俺の持っている木札を調べてもらった。
ほとんどが偽物。
うん、なんでだ。
ラークさんを呼んで、調べると、全て本物。
この違いは何だ。
すぐに、違いが分かった。
俺は木札を運搬役から貰ってる。
運搬役が犯人だ。
だが、いつも同じ運搬役とは限らない。
となると、運搬役全員が犯人。
運搬役のリストを作るのは簡単だった。
大量に採掘すれば、仲間を呼ぶのでほとんど全員が揃う。
「坊主、犯人は分かったが、元締めがいるんじゃないか? ここまで大々的にするのはボスがいる」
職人さんが、そう言った。
「それも分かってる。リストを見たラークさんが、タックルの取り巻きが多いって気づいた。タックルがボスで間違いない」
「弱点を突くんだよな。弱点はどうやって突き止める?」
「うーん、タックルの会話とか、行動とか調べるしかないね」
「ギルドお抱えの密偵に声を掛けるしかないか。フェイントだったな」
「うん、そうだね」
「ロックワームの素材を横流ししたという事件をでっち上げよう。それで、ギルドに密偵を派遣してくれと要請する」
「いいね。敵は、自分に関係ないから、きっと気にしない。かえって、ギルドの目が逸れて、カモフラージュになったと油断するかも。告発パイルバンカー作戦起動」
「坊主が良く言うパイルバンカーって何って、訊いたら不味いか?」
「1時間、話を聞く覚悟があれば、良いよ」
「そうか、新婚に妻の魅力を訊くとか、産まれた子供がいかに可愛いか訊くような感じか。それは勘弁だな」
「本当は聞いてほしいんだけどね。時間が惜しいから」
密偵が来てくれることになった。
ロックワームの素材はそこそこ高いので、かなり優秀な密偵が来たと職人さんは言ってた。
本当は偽木札の事件だと説明したら、ボーナス確定って喜んだそうだ。
大事件なんだな。
密偵さんの活躍で弱点が分かった。
取引の日があって、なんと鉄鉱石の横流しの事件も隠れていることが判明。
取引の日、信用できるギルドお抱えの戦闘員職が逮捕にやってきた。
本部は職人さんの宿舎。
俺もそこに、お邪魔してる。
タックルと何人かの部下と黒幕の商人は、鉱石の保管場所になっている廃坑に立てこもったらしい。
鉄の扉が破れないらしい。
見た目は普通の鉄の扉だが、なんでもスキルで目一杯補強してあるらしい。
タックルは廃坑を掘って、抜け道を作り脱出する作戦みたい。
音を聞くスキル持ちが、掘る音を聞いたようだ。
おー、パイルバンカーの出番ですか。
胸熱展開か。
パイルバンカーで鉄の扉をぶち破り。
タックルの奴に、パイルバンカーがついに炸裂か。
わくわくが止まらないぜ。
「スルース出撃します。【フロート】。スルース、行きまーす! 【バリヤー、エクスプロージョン】、カタパルト射出」
「坊主、何で空中を滑るように飛んで出撃するんだ……」
職人さんの呆れ声を、背中で受けた。
様式美だよ
「お困りですね?」
俺は戦闘員の隊長に話し掛けた。
「君がスルースか。鉱山にいる子供は君以外にいないから、聞くまでもないか。凄い奇才だと聞いた」
「うん、そだね」
「この扉をぶち破れるかね?」
「任せて、パイルバンカーに敵はいないから」
とは言った物の、ここにいる戦闘員のみなさんは攻撃スキル持ちだ。
それもかなり強力な。
ふむ、それでも破れないのでは、俺のパイルバンカーでも無理かも。
とりあえず、一当て。
「杭強化魔力パイルバンカー、【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、やっぱりね。駄目か」
魔鉄に強化された鉄の杭は弾かれた。
「駄目なようだね」
「待って」
閃いちゃった。
スキルだって、所詮は魔力を使ってる。
魔法と違わない。
ただ、使い易さと威力が違うだけだ。
オートとマニュアルの違いだと言っても良い。
その部分は今は関係ない。
重要なのは魔力が起こす現象だということ。
「スキル破壊魔力パイルバンカー最大出力、! 扉のスキルを吹き飛ばせ! 手ごたえあり! 【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】。ほら、吹き飛んだ!」
「坊主、やるな。パイルバンカーは初めて聞くスキルだが、ここにいる戦闘員の誰よりも強いスキルだ」
褒められた。
そうだよ。
パイルバンカーはいつだって最強。
物語で最大の攻撃力を誇る。
戦闘員達が廃坑に踏み込んで行く。
しばらくして、タックルと部下とウータルフ商会の従業員が逮捕された。
だが、ウータルフ商会はその従業員が1年前に辞めたという証拠を提出してきたらしい。
逮捕された従業員の話では、従業員全員が1年前に辞めたという書類を書かされたようだ。
なんというトカゲの尻尾切り。
ギルド職員は大喜び。
宝物を鹵獲したからだ。
お高いらしい。
1年前に辞めているから、ウータルフ商会は所有権を主張できない。
大事な物が1年もなくなってて気づかないなんて言い訳が通るほど甘くないからね。
宝物はギルドの物となった。
偽木札を持っている鉱夫の全員が、本物と取り換えて貰えた。
運搬役は、ただ働きで騙されていたので、お咎めなし。
タックルは、引き回しの上、死刑となる。
いま、鉱山の入口に建てられた柱に縛られている。
鉱夫達に石を投げろ言わんばかりだ。
売り物にならないクズ鉱石をみんなが投げる。
野蛮だが、これが異世界流なので仕方ない。
同情の余地もないからな。
ちなみに木札の偽造が重罪なのは、国からギルドが認可を受けているからだ。
法律では、貨幣扱いらしい。
貨幣偽造は重罪。
それとタックルの証言で、ギルド幹部のブルカスという奴も捕まった。
タックルの隣の柱に縛られている。
ウータルフ商会の元従業員もだ。
タックルよ。
木の杭のパイルバンカーで許してやる。
感謝しろよ。
馬鹿にしたパイルバンカーを食らうが良い。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】。成敗!」
「うがぁ……」
死んではないよ。
気絶しただけ。
良いパイルバンカーだった。




