第8話 石窯の場所、ここです。
翌日の昼過ぎ。あたしはフレアを連れてガルネさんの鍛冶屋へ向かう。重い扉を開けると、鉄の匂いと、火花の散る音が出迎えてくれた。
「おう、リン。来たな。…で……後ろの小っこいのは?」
太い腕を組んだガルネさんが覗くようにあたしの背中を見る。そう、フレアはあたしの背中に隠れるように立って怯えてる。わかるよ、その気持ち。
「今日から仲間になってくれる、魔術師のフレアです。」
「……フレア・リントヴェールです。よろしく、お願いします。」
か細い声。けれど礼儀はきちんとしてる。あたしの背中からひょこっと出てきて、小さく頭を下げて挨拶。かわいい。
「あんたが魔術師か!?意外と早く見つかって良かったな。あたしはガルネだ。よろしくな。―――しかしフレア…ちゃんと食ってるか?」
あっそれ言っちゃう?あたしも気になってたやつ。
「…はい、でも私…小食なんで。」
「本当かぁ?」
「…はい。」
「…まぁ詳しくは聞かないけどよ。」
ガルネさんは何か気づいたみたい。でもあたしはまだ全然2人のこと知らないや。もちろんこの国のことも。
「じゃあ魔術師も見つかったことだし、石窯を作るとするか。」
やる気満々のガルネさんは鼻を鳴らしてる。
「で…どこに作るんだ?」
「ええと、ずっとそのことを考えてたんですけど……ここです。」
と言って当然のように工房の広いスペースを指さす。ちょっと胃が痛い。
「……ここ?」
ガルネさんは目を丸くした。
「はい、ここなら広いし、雨も防げるし、火の扱いも安全かなって。それに、町の外れのピザ屋ってなんか行ってみたくなりませんか?ここからデリバリーもできますし。」
建物の内部を見る機会がいくつかあったけど、正直、広くて高火力を扱える場所はかなり限られてる。あたしの判断は妥当なはず……たぶん。
「デリバリー?…ってのは良く分からんが…でも貴族様の道楽なんだろ?城の中に作れば良いじゃないか。」
「ルディオ侯爵が、城以外の場所を指定しているんです。」
「ルディオが⁉」
ヤバッ。元カレ?の名前出しちゃった。
「はい。貴族でピザを占有しても意味がないからって。」
沈黙が落ちたそのとき、フレアが一歩前に出て静かに言う。
「……確かに、ここは広め。鍛冶に使う炉と離して作れば、問題ないと思う。」
細々とした声。だけどしっかり説得力がある。
ガルネは短く息を吐き、肩をすくめる。
「まぁ、そこまで言うなら文句はねぇけど…火事だけは起こすなよ。」
「火事になったら水魔術で消します。」
「フレア、火以外も使えるのか!?」
「一応全属性…1つ1つは弱いけど。」
「こりゃあたまげた。」
2人の会話が微笑ましくてなんだかあたしも嬉しくなっちゃった。思わずこの空間をスケッチする。
「ありがとう、ガルネさん!」
袖をまくり上げるあたし。やる気のあたしを見る2人。
「今日はリンがやることはないぞ。」
「……じゃあフレアと一緒に応援してますね。」
――こうして、あたしたちの石窯づくりが始まった。異世界のピザまであともう少し。




