第7話 あたしに火を、あなたにピザを
ルディオ侯爵と一緒に魔術学校に行くことになったあたし。
魔術学校は、紹介所がある道沿いに真っ直ぐ5分程歩いたところにでかでかとそびえ立っていた。宿屋からも見えてた尖塔の正体は魔術学校だったのか。
入口らしい巨大な門には、扉がない代わりに大きくてキラキラした魔法陣みたいなのが浮かんでる。
「ごきげんよう、ルディオ侯爵様。」
「ご苦労。彼女は私の同行者だ。」
「承知いたしました。」
ルディオ侯爵と一緒だから、門番があたしにもお辞儀してくれてる。顔パスどころかVIP待遇だ。
門番が魔法陣に向かってなんかボソボソ喋ってる。と思ったら魔法陣が縦に半分に割れて扉の要領で開いた。魔法陣自体が扉ってことですか~。
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広い廊下を抜けて、受付みたいな場所にたどり着く。
「フレア・リントヴェールという娘を呼んでくれるか。同行の者が彼女に話がある。」
「承知いたしました。」
侯爵の一言で即呼び出し。権力ってすごい。
「リンよ、私は校長と話をしてくる。」
「えっ!?あたしひとりですか。」
ルディオ侯爵があたしに一度だけ視線を送ってにこりと笑った。
「行っちゃった…。」
初対面の人といきなり2人きりとか難易度高くない!?
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待つこと数分。
「フレアさん、こちらへ。」
受付の女性と一緒に現れたのは――ちっさ。いや、ほんとに。あたしより頭ひとつ低いくらいの、小柄な女の子だった。
きれいな青い髪が…なんかボサっとしてる。瓶底メガネで伏し目がち。制服はきれいに着てるけど、どこか影がある。目を合わせた瞬間、びくっと肩をすくめた。
「……よ、呼ばれましたっっっ。。。けど……あの、どちら様でしょうか……?」
声も小っさ!蚊の鳴くような声!ちゃんと食べてるのかな?あたしは慌てて笑顔を作って続ける。
「こんにちは、あたしは大地 凛です!」
「……はぁ、なにかご用でしょうか。」
すっごい怪訝そうな顔してる…なんか急に冷めてるし。ガード固そう。ていうか全然興味なさそう。
「ね、ねぇ、立ち話もなんだから、そこに座らない?」
「……まぁ、良いですけど。」
――――座ったけど沈黙。重い沈黙。あたしは勇気を振り絞って口を開く。
「……こ、ここ、よく来るの?」
「……えっ、だって学校だから…。」
「だよね!」
そりゃそうだろ!あたしだって学校に行くわ。話題の選択を失敗したせいで空気が重い!
「ね、フレアさんって全属性の魔術、使えるんだって?」
「……まぁ、そうですけど…。」
「すごくない!? オールマイティじゃん!」
「……すごくはないです。どれも弱いから。」
即答。フレアさんはうつむく。また来る沈黙。でももう少し頑張って話してみよう。
「実はね、職業能力紹介所にフレアさんの情報が登録されてたから、話を聞いてみたくてきたんだ。あとあたしも17歳。一緒だね。」
「……そう…なんだ。」
フレアさんはちょっと笑ってくれた。
「私は確かに全属性の魔術を使える。だけどどれも力が弱いの。だから誰も私を必要としてないんだ。戦えないから。能力検定試験の結果で、声がかからないまま卒業を迎えちゃったから、学校が紹介所に私の能力票を出してくれたの。それからもう2年になるけど…。」
「えっ!?フレアさんはもう卒業してるの?」
元の世界の教育制度と全然違う…魔術師ってリスク高くない!?
「うん。15歳で卒業だけど、制度が変わって、職に就けなかった魔術師は3年だけ学校側が面倒を見てくれることになったの。半年ごとに能力の更新を確認する検定試験があったんだけど…私は何も変わらない。検定試験の度に同じ内容の能力票を紹介所に提出してる。」
紹介所の受付の人が「昨日登録された」って話していたのは、フレアさんの能力票の更新のことだったのか。
「いつかは国民を守るために戦わなきゃいけない。その時のために、求められる魔術師の条件は、知識はある程度で十分、とにかく実技で良い成績を取ること。本当は卒業と同時に職につくのが普通なんだけど、能力が低い私にはできなかった。知識はある方なんだけどね。」
“魔術師の条件”ってやつに対抗するように寂しい笑顔を浮かべるフレアさん。それを見たあたしは、胸の奥がきゅっとなった。
「なんだか考え方が狭い世界だなぁ。」
「……セカイ?セカイって何?この国のこと?一応ずっと先にもう一つ国があるよ。私は行ったことないけど。」
えっ、世界って言葉が通じないの?…そうか。ルディオ侯爵が「地図を描いた者がいない」って言ってたから、異世界の人たちは、自分たちがどれくらい広い世界に住んでいるかがわからないんだ。
「ねえ、フレアさん。」
「……なに?」
「魔術ってさ、戦いに使うだけのものじゃないと思うんだ。」
「……えっ?」
「国民を守るために戦いが必要で、それに魔術が求められてるってのはわかる。でもさ、使い方次第じゃん。魔術ってきっと、もっと自由で良いと思うんだ。わたしはね。火で誰かを攻撃するんじゃなくて、パンを焼いたって良くない?」
「……パンを焼く?」
「そう!この国の人たちは、きっと色んな使い方があるってことがわからないんだと思う。あたしは魔術のことは全然わからない。全属性って言われても、どれを指しているかさえわからない。でもそれで良い。あたしが持っていないものをフレアさんは持ってる。それを有効活用すれば、きっと面白いことできるよ!」
「……面白いこと?」
フレアのメガネの奥で、瞳がわずかに揺れた。
「たとえばさ――ピザとか。」
「……ピザ?」
「うん! 小麦粉をこねて、丸くして、火で焼いて、チーズがとろ~ってなるやつ!」
「……それって料理?」
「そう!魔術でピザ作ったらきっと楽しいし、絶対美味しいよ!」
あたしは勢いで立ち上がって、身振り手振りで説明する。チーズを伸ばすポーズまでしてたら、フレアさんが期待に満ちた目で、
「……その…それ私も食べられる?」
「え…う、うん。作ったら一緒に食べ――」
「…行く!」
く、食い気味の返事ありがとう。そんなにピザに興味を持ってくれたならあたしも本望だよ。
「じゃ、決まり!まず明日、街外れの鍛冶屋さんに行こう!」
「……え?鍛冶屋に行くの?」
「そこにピザに必要なものがあるんだ。大丈夫!絶対楽しいから!」
「……うん。」
「あと、リンって呼んで。」
「……ありがとう。私のことも…フレアって呼んでね。」
フレアは少し楽しそうな顔をした。笑った顔、すごく好き。
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フレアが校内に戻ってから、魔術学校の風景画を描いているところにルディオ侯爵が戻って来た。
「どうだった?」
穏やかな笑みを浮かべている。
「はい。明日フレアさんが来てくれることになりました。」
あたしはちょっと胸を張る。
「だろうな。手続きはもう終えたから、そのまま進めてくれ。」
「ありがとうございます!…えっ!?」
「私にも長年培ってきた“勘”というものがある。」
「は、はあ…ありがとうございます。…そう言えば石窯ってどこに作れば良いですか?」
「城以外ならどこでも良い。」
「えっお城以外なんですか?」
「城の者で占有しても意味がないからな。」
おぉさすがルディオ侯爵。わかっていらっしゃる。庶民の味方、それがデリバリーピザ。
「わ、わかりました!」
「これからが楽しみだ。…よし、今日は戻るぞ。」
そう言って歩き出したルディオ侯爵に置いていかれないようについていく。低い声からもご機嫌な雰囲気が伝わってきた。……でも“楽しみだ”って言葉、なんだかプレッシャーがすごいんですけど!?




