第27話 新商品はコレだ~~~~~!!!
「こんにちは!ピザ屋MAP!です!ナトリカさんにピザの配達に参りました!」
「お、お主は先週も来た女子…!!」
先週、ネレイダへの入国を止められた門番と全く同じ2人に出迎えてくれた。どうやらあたしのことを覚えてくれてたみたいだけど、相変わらず怪しんだ目で見てくる。だけど身分証がないから、ここでナトリカを待つしかない。
「なんだなんだ⁉その奇妙な荷物!?」
大事に持っていた“円形の鉄の入れ物”が注目を浴びる。」
「コレは“ポット”という保温用の入れ物です。怪しいものは入ってませんよ。」
ガルネさんが作ってくれたポットに、フレアが魔力を込めてくれた魔導鋼を入れることで、ピザを保温できるってわけ。
「この中にはピザが入ってます。ピザは、小麦粉をこねて丸くした生地に、トマト、チーズ、ルッコラをのせて、窯で香ばしく焼き上げた料理です。今、フローラリアで物凄く流行ってるんですよ~。」
2人は顔を見合わせる。それ先週も見た。入国履歴があってもとりあえず疑うのね。
「まぁ、それは良いとして、今日は何の用だ?」
あれ、ピザにあまり食いついてこない。門番としては正しい反応だろうけど、作り手からするとわだかまりがある。
「…ナトリカさんにピザをお届けに参りました。」
視線を逸らしてちょっとだけぶっきらぼうに答える。
「ナトリカさん…?ナトリカさんは今…」
門番が何か言いかけたところで、その後ろからあたしの名前を呼ぶ声がした。
「リンちゃん!」
声の主は、今日も翡翠色の長い髪を風になびかせている。迎えに来てくれたナトリカだ。
「ごめん、待ったよね!?」
「ううん、今来たばっかり!」
異世界に来て以来こんな会話をしてないから、新鮮な気持ちが蘇ってくる。ナトリカの笑顔でやっと門番が入国を許可してくれた。
「ねぇ、それが先週言ってたピザ?」
並んで歩きながら、ナトリカは覗き込むようにしてポットに顔を近づけた。
「うん。特製でほっかほかのやつ。試作を重ねたんだよ。」
「え~うれし~!」
あたしはポットを大切に抱きかかえてナトリカの家へ向かった。
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「お邪魔しま~す!」
あたしの方が先に家に入ると、当然のように先週来た時と前と同じ椅子に腰掛ける。ナトリカは「ピザに合うかな?」と言って、春翠ではなくお茶を用意してくれた。
「リンちゃんリンちゃん、見せて見せてっ!」
期待の目でポットに顔を近づける。ルンルンと顔を左右に動かしていて、欲しかったリアクションにあたしの気分もぶち上がる。
「もちろん!それでは…開けます!」
待ちに待った新作のピザのお披露目に緊張してちょっとだけかしこまる。
いよいよポットの蓋を開けると、中にこもっていた湯気が辺りに広がった。ナトリカの顔を包み込んで視覚と嗅覚に美味しさが訴える。
「わぁ~~~っ!!!」
未知の円盤から湧き出る湯気がナトリカを包む。
「リンちゃん、赤と白と緑が溶け込んでるね。」
「そうっ!それはね、こねた小麦粉の上にトマトソース、チーズ、ほうれん草のソースをのせてるんだ。」
「ほうれん草!?」
「うん。細かく刻んでオリーブオイルと混ぜたの。ほうれん草はクセがないから、最初はそのままピザにのせて食べてみたんだけど、実はあまり存在感がなかったんだ。それよりもソースにした方が、トマトソースの酸味とチーズのコクを邪魔しないで綺麗に嚙みあったの。そして実はこれだけじゃない。この香草をふんだんに盛り付けてあげて完成。」
あたしは別で持っていた袋から葉物を取り出す。
春翠にはほんとやられたからね。…思い出して少し空間を見つめる。時が止まったあたし見て首をかしげるナトリカ。
「これは、今朝フローラリアの市場で調達してきたルッコラとバジル。それをピザの上から山盛りにしてあげる。」
「そのまま!?」
「そう、そのまま。生のままが美味しいんだ。熱々の料理に、非加熱の素材を盛り付ける“クルダイオーラ”って調理法なんだ。」
「リンちゃん、地図のことだけじゃなくて料理のことも詳しいんだね…!素材同士の相性だけじゃなくて、温度差のことまで考えて料理したことなかった。」
ナトリカの拍手に鼻が高くなる。でも今日の主役はあたしじゃない。
「このピザは、ナトリカのピザ。」
「私の?」
「そう、ナトリカが纏っている爽やかな翠を表現したくて、緑の野菜と香草をふんだんに使ったの。名付けて、ピザ・グリーンブロウ!緑の一撃…召し上がれ!」
「グリーン…ブロウ…!」
ナトリカがピザの耳に手をかけて、ルッコラとバジルを落とさないように、器用に内側に折りたたんで持ち上げる。そしてピザの先端を自分に向けた。慣れない動作に加えて、向かい側のあたしが初めて手料理を作った彼氏みたいに見てるせいで、心なしか動きがぎこちない。
『食べてみるね』とあたしにアイコンタクトした後、控えめに一口をかじる。
「ん~~~~!!!」
大きく目を見開いて声にならない声を上げる。何も言わずに二口目を、今度は大きくかぶりつく。
「うんうん!美味しいっっ!!美味しいよ!リンちゃん!」
「ありがとう!そんなに喜んでくれてあたしもすごく嬉しい!いっぱい食べてねっ。」
コレコレ!このリアクション!初めてピザを食べてくれた人のリアクションを見るのがたまんない!
「こんなに美味しいの食べたことないよ!ほうれん草をソースにするって発想が元々なかったんだけど、トマトとチーズの味わいを香草に伝える橋渡し役になってる。新鮮に食べる香草がこんなに美味しいなんて思ってもみなかった!」
嬉しいこと言ってくれたナトリカとは、地図を描き進めて辿り着いたネレイダ王国で出会った。そして———そこにもピザはなかった。
「この生地がすごく美味しいっ!!これだけでも食べられるくらい!シャキっとした香草の歯ごたえの中に、生地の柔らかい口当たりがわかるし、ほのかな甘みのおかげでソースのとの相性も抜群!」
「え~~っ!生地を褒めてくれるのすごく嬉しい!!」
こうやってナトリカにピザを食べてもらうことで、新しい国へ踏み出すための入り口ができたと思う。異世界でピザを食べてくれた人たちは『美味しい』とか『食べたことがない』って口をそろえて言ってくれるけど、見知らぬ国に根付いている食文化からすると、ピザを受け入れられない国があっても不思議じゃない。いや、むしろ———そっちの方が多いのかも。けれど、ナトリカはあたしのピザを食べてくれた。
夢中になってるナトリカが2ピース目を食べ切らないうちに、あたしは立ち上がって手を伸ばした。
「ナトリカ、一緒に地図を作ろう。」




