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異世界ピザMAP! ピザ配達員は世界を測ります!  作者: クッソデカパイのナギ


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第26話 MAP! Distortion

「ただいま~!!」


「…リン、お帰り。」


「リンさん。遅くまで出歩くのはあまり感心しないな。」


「お~遅かったじゃないか。みんな心配してたんだぞ。特にこの侯爵様がな。」


 帰ると、MAP!でもお客様のおもてなしをしていた。卓上のティーカップを見て春翠しゅんすいを思い出す。


「おぉリン!久しぶりだな!」


「ルディオ侯爵!大変ご無沙汰しております!」


 ピザ屋では、ちょっと目立つ革靴を履いたルディオ侯爵が声をかけてくれた。


「今日はリンに伝えたいことがあってお邪魔していたんだ。」


「そうだったんですか?お待たせして申し訳ございません。」


 あたしのために来てくださったとわかって少し焦る。


「いや、こちらも突然お邪魔してしまってな。ガルネッサが淹れてくれた渋い茶を飲んで頭が冴えていたところだ。」


「口数が減る茶も出してやろうか?」


「ぷっ…仲良いじゃないですか。ミオルさんが妬いちゃいますよ~。」


「なんで僕に振るんだ…。」


「…おじさん、涙拭いて。」


「泣いてない…!」


 荷物をテーブルに置いて腰掛ける。タイミングを見計らってガルネさんがお茶を淹れてくれた。一口いただくと…本当に渋い。


 ()()()()()()()()でも苦手なことがあるんだなぁ…と思いながら本題に入る。


「ルディオ侯爵、ご用件を伺ってもよろしいですか?」


「うむ。アルトレオン王からリンに、地図作成の任を正式に授けるとの沙汰が下った。」


「…!国王陛下が直々に…ですか?」


「そうだ。ついては任命式を執り行う。」


 MAP!の3人には内緒で進めていた地図の作成。それが遂に正式な任務になる。隠し事でチクチクした心の痛みがなくなる反面、人生で一度も表彰されたことがないあたしが、急に国王陛下から任命されると知って、結局胃の辺りが痛くなる。


「…リンって、もしかして凄い人だったの?」


「休日の度に外に出ていたのは、その“チズサクセイ”ってのが理由だったのか?」


「国王陛下が直々に任命とは只事じゃない。リンさんはピザの才能だけじゃなかったのか…。」


 置いてけぼりのみんなに、黙っててごめんね…ってまず謝ろうとしたら、先にルディオ侯爵が事情を説明してくれた。


「実は、リンには私から秘密裏に任務を与えていた。それが地図の作成だ。」


「なぁ、その…さっきから言ってる“チズ”ってのはなんなんだ?」


「この世を解き明かす道具だ。どんな国があるか、どれほどの大地が広がっているか、どんな人々が生活を営んでいるか、それを一目でわかるように紙に描き記したものだ。先立ってリンには単独で動いてもらっていた。」


「待て待て。まさか…この国だけで収まらない仕事をリン一人にやらせていたのか!?MAP!だけでも精一杯なのに!?」


「そうだ。」


「馬鹿野郎!まだ17だぞ!?一人の時に何かあっても誰も気付けないだろう!現に今日だってどこにいたのかわかってないじゃないか!」


 強い語気で責めるガルネさんの隣で、フレアとミオルさんもあまり納得していない表情をしてる。それをルディオ侯爵が受け止めてくれた。


「反論のしようがない。ガルネッサたちがここまで憤ることも理解できる。ただ、内密に進めていたのは、地図という道具を有効に使える人間ばかりではないことが理由だ。完成するまで、おいそれと人前には出せない。」


「悪用する人間に心当たりでもあるのか?」


「…慎重を重ねている、とだけ言っておく。」


「まともな話だってのはわかるが、それはリンを危険な目に遭わせて良い理由にはならない。」


「そのために正式に任を与える。心配するガルネッサたちを裏切ることはしない。」


 ガルネさんたちを説得するように、各々の顔を見ながら落ち着いて話すルディオ侯爵。ただ、みんなはすぐには受け入れられずにいる様子。


 この世界では馴染みのない“地図”。その真相は、ピザを作るよりもよっぽど危険な作業だってこと、普段は接触することがないルディオ侯爵からの半ば強制的な通達に対する戸惑い、そして自分たちが知らない間ずっと“実はリンが危険と隣り合わせな状況だった”という事実。


 それが一気にきて、どう腹落ちさせるか本人たちも難しいんだと思う。


 急に思い出した。デリバリーピザのアルバイトでも、たまに本社の社員が偵察に来てたっけ。“本社”って聞いただけで支店は凍りつくものなんだ。


 店長は店長で緊張してるから、それが伝わって現場の動きも鈍くなる。しかも普段は気にも留めないくせに、その場しのぎの休憩所の掃除や細かいオペレーションの確認をしだすから、その時だけやたらと労働強度が跳ね上がる。


 一番の驚きは、本社の社員は社員でちゃんと“偉いんです”みたいな顔つきでやって来ること。厨房に場違いなスーツ姿は、厳しい表情しながらチェックシートになにやら書き込んで、それを基に店長と面談する。くっきりとした力関係のおかげで背中が丸くなってる店長は、世の中に背く行為に対する罪状を告げられているみたいだったっけ。


 さっきまでの和やかな雰囲気が切り裂かれて冷たい空気が横たわる。このままあたしが黙っているわけにはいかない。ぬるくなったお茶をグッと飲み干してあたしの意思を伝える。


「みんな、黙っていてごめんなさい。地図の作成は元々あたしのやりたかったことでした。ルディオ侯爵はそれに賛同してくれて、進め方はあたしに任せてくれてたんです。」


 ガルネさんは“どうせリンにそう言わせているんだろう?っていう目でルディオ侯爵を睨みつける 。“やはりそういう反応になったか”と一つ咳払いをして場をなだめる。


「ピザ屋運営の労働強度と地図の進捗状況を加味して、これ以上の単独行動は危険と判断した。そして地図の作成にあたっては護衛をつけ、調査をする方角や戻ってくるまでの期間を設定して厳密に進める。それにはMAP!の協力も必要なのだ。」


「その護衛ってのは、ちゃんと信頼できるヤツなんだろうな…?」


「もちろんだ。これからリンに決めてもらうからな。」


「…?どういうことだ?」


「ピザの運営とは別の信頼だ。これからは一度フローラリアを出れば長旅になる。つまり、護衛はリンの信頼に足る人間でなければならない。」


 ナトリカの顔が浮かぶ。


「…リンとは会えなくなっちゃうの?」


「これからは、地図のために店を開ける時間はできちゃう。でも明日から劇的に変わるわけじゃない。店を出たとしても必ず戻ってくるよ。必ずね。」


 うん…と力なさげに首を縦に振るフレア。


「まぁ…帰ってきたら僕のピザを食べさせてあげよう。きっと美味さに驚くはずだ。」


 ミオルさんはメガネをくいっと上げた後、言い慣れていないセリフを緊張した面持ちで話してくれた。


「ありがとうございます。MAP!の味を、どうか守って行ってください。あたしも旅先でピザを広めていきます。」


「アタシは…本当は反対だ。」


「ガルネさん…。」


「アタシだけじゃない。みんなも同じ気持ちさ。でもリンのやりたいことなら止めることはできない。絶対に無事で帰ってくるんだよ。」


「はい。ここがあたしの帰る場所ですから。」


 国王陛下の任命式を前に、大切な人たちからの激励が身に染みてやる気がみなぎる。


「ときにリンよ。先程から気になっていたのだが…。」


「アタシもだ。その食材は何に使うんだ?…緑ばかりだな。」


「はい!実は、これから新作ピザの試作品を作ってみようと思いまして。」


「…葉物ばかりで…?」


「きっと、新しい味覚の扉が開くはずです。」


「と言うことだ、ルディオ。また今度な。」


「まぁまぁ落ち着きたまえ。非常に良いタイミングじゃないか。私が試食の役目を買って出よう。第三者として公平に味の詳細を伝えることができる。」


「…食べたいんだ。」


「しっ!聞こえますよ…。」


「あははっ!ルディオ侯爵も召し上がって行ってください!」


 みなぎった力はみんなのために。ピザの香りと一緒に、地図も広がっていくんだ。

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