第15話 ピザ屋の炎、鍛冶屋の残り火
「ん?どうした?フレア。珍しく近いな。」
「…何と言うかまぁ、そんな気分なだけです。」
フレアが椅子をちょこんとガルネさんのそばに寄せて心配そうな目をしてる。言葉少ないやり取り。けれど、その裏に2人の信頼を感じる。
あたしも椅子に座ると、ガルネさんは今まで見せなかった寂しい表情で口を開いた。
「前々からこの店を畳もうと思っててな。だけど一生懸命ピザの準備をしている2人にはどうしても言えなくて…。」
「そんなことありません。あたしの方こそごめんなさい。大変な状況なのに鍛冶屋に名前付けましょうなんて無神経なこと言っちゃって。」
「そう言ってくれたのはリンが初めてだった。嬉しかったんだ。だから泣くな。」
短い期間で濃い時間を過ごした毎日が自然と想起される。それなのにあたしの不甲斐なさとか、もっと寄り添っていれば状況も変わっていたんじゃないかって後悔がこみ上げてきて自然と涙が溢れ出す。
「……もともとこの鍛冶屋は両親が始めたんだ。最初は戦争のための武器を作っていたこともあったけど、そんな物より田畑を耕すための農具、家や橋を作るための建築工具、それこそ窯とか鍋とか包丁とか、人の生活を支える物を作ることの方が性に合っていた。他の職人たちも、段々と戦争の道具から“生活を良くするもの”に目を向けて行ったんだ。…まぁ今はうちの客足は遠のいちまったけどな。」
鍛冶屋を切り盛りしてたご両親を思い出しているのかな。嬉しそうな表情のガルネさんだったけど、急に表情が曇る。
「けれど、侵略戦争を推し進めていたバルモンがそれを気に入らなかった。武器を納めろと何度も命じられて……断った結果、嫌がらせが始まった。」
「バルモン…?」
「ああ。王位継承権を持っている公爵。つまり次期国王。そしてルディオの兄だ。今、フローラリア王国は貴族地区、商業地区、職人地区の3つに分かれている。初めはバルモンが貴族地区と職人地区を統治していたけど、あいつは他国を侵略したいがために、職人地区を位下と揶揄して奴隷のように扱っていたんだ。そのせいで隣国に追いやられた優秀な職人もいたし、希望を失って自ら命を絶つ者もいた。」
「えっ!?」
「バルモンは不当な報酬で良質な武器を作らせたり、無理な納期にしてわざと罰金を徴収したり、とにかくやり口が汚かった。」
「…酷すぎる!」
「あまりの惨状を見かねたアルトレオン王がバルモンを失脚させて、代わりにルディオに統治させたんだ。」
「ルディオ侯爵とは知り合いだったんですよね。」
「まぁな…。あたしの両親がここの鍛冶屋をやっている時からの付き合いだけど、仲良しってわけじゃない。ただ、侵略戦争に反対ってとこだけは意見が一致していた。とは言えバルモンの弟だからどうしても当たりが強くなっちまう。悪い奴じゃないってわかってんだけどよ。」
「鍛冶屋を続けて行くのは難しいんですか?」
「あぁ。細々とやってきたけどそろそろ限界なんだ。ルディオはこの鍛冶屋を何とか残そうとして依頼をしてくれたこともあったけど、失ったものを取り戻すには遅いこともある。だからうちはちょっとな…。」
「それなら、どうして石窯を作ってくれたんですか?どうしてピザ屋の開業に賛成してくれたんですか?」
「…リンが昔の自分と重なったんだ。ある日、両親が何も言わずに突然いなくなった。探しても見つからない。手がかりさえない。今もどこで何をしてるか、生きているのかさえわからない。当時は色々悩んだけど、この家に残されたあたしが鍛冶屋を継ごうと決心した時と、なんとなく似ていた気がしてな。」
だからあたしの突拍子もない話に賛同してくれたのか。
あたしがガルネさんの立場だったら、立ち上がれていたのかな…。
異世界で地図を作るって夢が叶うのに、両親のことが気になって仕方ないあたしに?
元の世界では、両親はきっと無事だってことを前提にしてるあたしに?
できないだろうな。ガルネさんがいなかったら、ピザ屋MAP!はスタート地点にも立ててないんだもん。それなら……
「MAP!で働いてくれませんか?一緒にピザ屋をやりましょう!」
「えっ!?」
「鍛冶屋の敷地に石窯を作ってもらったおかげでピザ屋の開店を迎えることができました。それに、ガルネさんの接客はとても好評なんですよ。丁度良い姉御肌の接客が名物になって行くと思います。いや、絶対なります!」
「…私も賛成です。むしろ一緒に働くと思ってました。」
「おいおい…フレアもそう言ってくれるのか?…そこまで言われちゃあ…なぁ…あはは!…じゃ~、やってみようかな…。バルモンの思い通りになってばかりも癪だしな!」
「ぃやったぁ!!!」
あたしはフレアと両手でハイタッチして、2人でガルネさんともハイタッチした。槌を振り続けてできたタコの固さと、あたしたちを受け入れてくれた温かさが、大きな手のひらから伝わった。
頭の中にルディオ侯爵の言葉が響く。
『彼女は困っている人を助けるが、自分の寂しさや悲しさを素直に表に出せない性格なのだ』
今までガルネさんが寂しい表情を見せた瞬間があったし、ルディオ侯爵も気にしてた。それを見てたのに、あたしじゃ力になれないって勝手に決めつけてたことが一番情けないや。
「ピザ屋が終わらない限り、鍛冶屋だって終わりません。ピザ屋に来てもらうことで鍛冶屋の宣伝にもなります。この大切な鍛冶屋をなくすわけにはいきません!そしてMAP!では、ガルネさんが作ってくれた道具を全面的に使って行きますよ~。」
経営方針らしいことを言って、ふと鍛冶場の方に目をやる。ガルネさんが愛用している道具に並んで、あたしが初めてここを訪れた時に描いた絵が大切に飾られていた。鍛冶場の火はまだ消させない。
ピザ屋も鍛冶屋もあたしたちで守って行くんだ。




