第13話 住所って何ですか?
無料配布大作戦の前に、すっかり職場として定着した鍛冶屋兼ピザ屋で大量の生地を仕込みながら、MAP!の営業形態に考えを巡らせる。
そう言えば、バイト先の休憩室に「ピザの歴史」ってポスターが貼ってあったな。
確か…元々はピザは安価な屋台食から始まったんだよね。食べ歩きできるように、ピザを二つ折りにして紙でぐるっと巻いただけの簡単な食べ物だったんだ。
異世界では文化的なことも考えて、大きめの1ピースを横に折ってクレープみたい紙に包もう。そうすれば手を汚さずに先端から食べられるよね。
あと、大量に作り置きしたピザを保温するための道具もあったはず…。それは…そうだ、stufaだ。ピザが入る円形の金属製の容器で、通気口がある。丸いホットサンドメーカーみたいなイメージだよね。
MAP!では、ストゥファのような容器にピザを入れて配達しよう。ピザだけお渡しして、容器はそのまま持ち帰る。
となると、ガルネさんに作ってもらうようにお願いしなきゃ。なんか後手後手になっちゃうな~。ダメだな~。あたし。
あとは保温袋…元の世界から一緒に来てくれた保温袋はそのまま使用できる。だけど絶対的に数が少ないよね。あっ革はどうかな。ルディオ侯爵は革靴を履いてたから、革屋さんがあるはず。国民用の安価な商品を取り扱ってるかもしれないから、フレアと一緒に行ってみよう。
ってか魔導鋼ってまだ余ってるのかな…。
「…ン。…リン?お~い、リ~ン。」
「は、は、はい!」
「どうした?考え事か?」
「はい。ピザの無料配布大作戦と、これからの営業形態についてちょっと。そうだガルネさん、いや…、ガルネお姉ちゃん…。」
「うっ…。き、聞かなきゃ良かった…。」
「そ、そんなこと言わずに。あたしも初めてだからわからないことばかりでして…。ねっ?あっフレアも…。」
「…わ、私も帰ったらやることあるからな~。」
「ちょっと2人ともちょっと待ってよ~。」
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1週間後…
無料配布のために、しこたま用意したピザの生地。そしてチラシも準備OK!
【ピザ屋MAP!オープン! 場所:ガルネの鍛冶屋】
「フレア、チラシの方はお願いね。」
「…終わったらご褒美にピザ食べたい。」
「ちゃんと用意してるよ。また3人で食べようね!」
「…やった!」
未だかつて自分の脚一つでピザを配達した少女がいただろうか…。あたしは今からそれになる。
駆けだしたあたしは、ものの数秒で”異変”に気付く。
おっ? おおっ!? なにこれっ!?配達の時はなんか早く走れる!?しかも疲れない!これも異世界の影響!?測量画面だけじゃないんだ!?配達が捗る!何往復もしなきゃだから時間と体力が心配だったけど、これなら安心!
今はピザを配らなきゃいけない。その使命感と高揚感が“この状態”への疑問を吹き飛ばす。
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「こんにちは~!!お忙しいところすいませんっ。ピザ屋MAP!です!」
「は、はい。こんにちは…」
最初に目に入った民家に突撃して、見知らぬ奥様に勢いに任せた営業をする。
「急に驚かせてしまってすいません。1週間後にピザ屋がオープンします!オープン記念で今日はなんと無料!おひとり様一切れプレゼント!」
「えっこれ食べ物なの?…あっ温かい!なんで!?…あっ良い匂いがする!」
「どうぞ召し上がってください。」
「ん~~~!!!美味しい!!!こんなの初めて!!!」
「お店の場所はガルネの鍛冶屋に併設してます。よろしくお願いしますっ!」
こんな感じで街の人達に手際よくピザを配っていく。
「1週間後にピザ屋がオープンします!オープン記念で今日はなんと無料!おひとり様一切れプレゼント!」
「ピザ?なんだそれは?」
「あらっ三角のパンなのね。こんなに温かいパンは初めてよ。」
「おっ俺も食べてみたい!」
「アタシにもちょーだい!」
「お姉ちゃんずるい!ボクも食べたい!」
「あったかくておいしー!!!」
「もっと食べたい!」
最初はやっぱりビックリしてたけど、温かさと匂いで美味しそうな食べ物だってわかると食欲が湧いてきたみたい。ちゃんと食べてくれたし、美味しいって言ってくれた。新しいものを受け入れてくれる人達なんだ。
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以前、生のパンを食べた屋台にもピザをデリバリーする。こういっちゃなんだけど、店主さんは近寄りがたい雰囲気。無表情なのがちょっとな…悪い人ではないんだろうけど、ちゃんと食べてくれるかな~。
「こんにちは!お忙しいところ失礼します。」
「…?何か用か?」
「ピザ屋MAP!です!」
「ピザ屋?―――ん?君は確か…前にうちのパンを食べてたな。どうだった?美味かったろう?」
うおっマジか。メガネをかけたひ弱そうなパン屋の店主がまさかの自信家だった件。
「はい。とても美味しかったです。勉強になりました。」
「そうだろうそうだろう。なんせこの国1番のパン屋だ。なかなか火が使えないから試行錯誤してあのパンを作ったんだ。逆転の発想というやつだ。火がなくても普段とは異なるパンの美味さを引き出すことができた。君にできるか?あれを超えるとなると…火が必要だぞ。だが火があったとしても難しい。なぜなら火の扱いは、修業時代から僕が得意としている分野だからだ。今この国では薪が…」
話ながっ。ひ弱そうに見えるけどパンに対する情熱が凄まじい。お父さんとお母さんを思い出すな~。元気にしてるかな。世界が違ってもパンを好きな人がいて嬉しい。…でもこの人ちょっと目が怖いな~。てかこれ、ピザ渡して大丈夫…?
「君、話を聞いているのか?僕に弟子入りしたくて来たんじゃないのか?」
「あっ本日は新しくオープンするピザ屋の試食をお持ちしました。」
「…なんだ違うのか。…さっきも言っていたが、そのピザとは何だ?」
あっなんか急にふてくされてるし。やっぱ苦手だわ。
「こちらです。温かい内に召し上がってください。」
「温かい?―――!!!―――温かい!!!」
あれ、ピザを持った途端に固まっちゃった。
「あ、あの、良かったら召し上がってくださいね。」
「そ、そうだな。まぁ一口くらい――――――――う、うま”っっっ!!!」
「あっそうですか。お口に合って良かったです。店は街外れにあるガルネの鍛冶屋に併設して…」
「…すまないが帰ってくれ。」
「えっ…?」
「…急用ができた。今日は店を閉める。」
「はっ、はぁ…。失礼いたしました。」
ここの店主は苦手…だけどパン屋にピザはまずかったかな…元の世界ではパンとピザは別物だと思うけど、薪が貴重なこの国では、あたしなんかに火を使った料理を簡単に持って来られても、そりゃあ割り切れないところもあるよね…。
でもフレアとガルネさんがきっかけで、魔術師の在り方と魔導鋼の新しい使い方が、この国にも浸透してくれたら嬉しい。そうすればきっと、ここのパン屋も日常的に火を使えるようになるんじゃないかな。いや、絶対なる。
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ピザを焼いて配ってを繰り返してあっという間に1日が終わっちゃった。宿屋に戻るとルディオ侯爵がロビーの椅子に座ってる。どうやらあたしを待ってたみたい。
「こんばんは!ルディオ侯爵。」
「戻ってきたか。なにやら精力的に動いているみたいだな。リンよ。」
「はい。1週間後にピザ屋をオープンしますっ!」
そう伝えると、彼は口元を緩めた。
「ほう、ピザを広めるために店を持つことにしたのか。見事な行動力だな。」
「ありがとうございますっ!」
「店はどこなんだ?」
「ガルネさんのご厚意で鍛冶屋に併設させてもらうことになりました。」
「鍛冶屋の中にか!?」
「はい。ガルネさんも協力してくれています。」
「そうか…。彼女と上手くやってくれてるならそれで良い。当日は私も鍛冶屋に行くとする。王にも報告せねばならん。なんせ魔術師と魔導鋼を採用しているからな。」
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そして1週間後、ピザ屋MAP!ついにオープン!
ガルネさんが気を利かせてくれて、外にイートインスペースを2卓作ってくれたんだ。あるのとないのとじゃ店の雰囲気が全然違う。
…でもコレは予想してなかった。
「なぁリン。これはどういうことだ…?」
「あ~、きっとフレアが頑張ってチラシを貼ってくれたからですね。」
「…ちょっと本気出し過ぎたかも。」
鍛冶屋の扉の前で絶望する3人。目の前には人、人、人。昨日まで見ることはなかった大行列。
「よし。1人ずつ作っていたら待たせるだけだから、頑張って配達しよう。」
「全員分か?」
ガルネさんを見て何も言わずに、うん。と頷く。本当にこれが最善の策かは全然わからない。けど行列を見た爆発寸前のあたしの頭が苦し紛れに出した結論。ガルネさんにも手伝ってもらおう。そうしよう。
デパートの開店セレモニーでよくやるテープカットとは程遠いピザ屋MAP!の開店。2号店ができたら絶対やったるわ。
早速先頭のご夫婦を鍛冶屋内にあるカウンターに誘導する。
「いらっしゃいませ!ご来店ありがとうございます!記念すべき初めてのお客様でございます。ですが予想以上の混み具合でして…大変申し訳ございませんが、ピザができましたらご自宅までお届けします。」
「え、本当かい?」
「はい。当店自慢のサービスでございます。」
「ありがとう。じゃあそれを利用させてもらうよ。」
「かしこまりました!それでは、まずご住所を教えてください!」
マニュアル化されたあたし。きょとんとするご夫婦。不思議そうにあたしを見るガルネさんとフレア。
「ジュ……ショ?」
「はい。お客様のご住所です。」
「……あの…ジューショってなにかしら?」
「…えっ……?」




