第12話 ピザ屋をオープンさせるって言ってなかったっけ?
今日も今日とてピザを囲みながら、これからの展望について話すあたしたち3人。
「良いこと思いついた!」
あたしは閃いた。
「ピザ屋MAP!のオープンに向けて、これから未来をかけた大作戦を慣行します!」
スッと立って左手を腰に、右手で得意気にその未来を指さす。ガルネさんは、そっちに何かあるの?って感じで振り向く。
「オープン?」
「…おーぷん?」
2人同時に同じ質問を投げかける。すっかりピザのファンになったフレアが、口をもごもごさせててかわいい。口にトマトソース付いてる。
「オープンって言うのは、ピザのお店を開いて販売します!商いです!…あれ、伝えてましたよね…?」
「…ううん。聞いてない。」
「だよな。聞いてないよな…。それに、ここ、うちの鍛冶屋だし…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「ガルネさん!!お願いします~~~!!」
「おいおい、本気か?」
「本気です~~~!!!」
「そういうことじゃなくてだな…。それで意気揚々と店に名前まで付けてたのか…。」
ピザを広めて行くには販売が一番って考えていたけど、みんなに伝えていないという最大火力の爆弾を投下したあたしは、あまりに申し訳なくて椅子に座っているガルネさんの膝元に泣きつく。
「…リン、お店に名前を付けたの?教えて。」
「そう言えば、あの時フレアは寝てたもんね。名前はね、
ピザ屋“MAP!”
M…Making
A…Awesome
P!…Pizza!
(美味しいピザを作ろう!)…って意味なんだ。」
「…ガルネさん、お店の名前を聞いて私は確信しました。リンは必ずやり遂げます。この鍛冶屋をピザ屋にしましょう。」
「本当に良いのか?フレア。タダでピザは食べられないぞ。なんてったってフレアの火魔術がないとピザが焼けないからな。リンと一緒に朝から晩まで働きづめになるぞ~。」
「…リン、諦めよう。」
「早いよ!!一緒に働くの嫌なのかよ!!もっと説得してよ~!!」
「…すまん。」
「そ、そうだ。ガルネさんが、加工が困難と言われている魔導鋼を引き伸ばしただけじゃなく、高度な技術でアーチ型にした後、石と接着させて、このフローラリア王国に二つとない立派な石窯を作ってくださったわけですし…。」
「ん~?急に饒舌じゃないか。加工が難しいって誰から聞いたんだ~?」
「ルディオ侯爵です。」
「ったく余計なことを…。でもあたしの仕事は終わったからな~。」
「そ、そんなこと言わずに、石窯を使わないと宝の持ち腐れになっちゃいますし…。ねっ?ねっ?…考えていただけないでしょうか…。」
「はぁ~。まぁ…仕方ないか…。」
「ありがとうございます!!ほら、フレアも!」
「…えっ?あ、ありがとうございます…。」
「ただし、一つ考えなきゃいけないことがある。」
「なんなりと。」
「ピザがちゃんと受け入れられるかってことだ。」
「えっ?」
「ピザは確かに美味い。あたしにもフレアにも好みの味だ。だが王国全体で見ればどうだろうか。生地の上に乗せる食材が幅広いのは理解できるが、味が濃いから毎日食べることは難しいし、高齢者には受け入れられないかもしれない。元々、この王国は薄味が主流だからな。最初は物珍しさで来客があっても、いつかは客足が途絶えてしまう可能性がある。そうなれば悲惨なものだ。費やしてきた労力も時間も無駄になってしまう。それだけじゃない。精神的にも追いやられるし、立ち上がるまでも時間がかかってしまう。そういう想いはして欲しくない。」
ガルネさんの言葉が胸に突き刺さる。妙に説得力があるんだ。
「商いには勢いも大事だが、それよりも重要なのは“どうやったら長く続けていけるか”ってことだ。今リンたちがやろうとしていることは、実はピザという料理の販売だけじゃない。新しい技術と考え方の提示でもある。武器以外での魔導鋼の使用、魔導鋼の曲線的な加工と石窯への応用、フレアの火魔術の使用法、リンの高火力での調理法がそれに当てはまる。それは王国全体に影響が出るはずだ。この国にピザがやって来たことで喜ぶ人もいれば、受け入れられずに悩む人も出てくるだろう。それと同じように、リンたちが悩む瞬間がいつかは来るかもしれない。」
勢いだけだったあたしは静かに頷いて、フレアはいつにない緊張感のある表情で口を結んでいる。
「なんてもっともらしいことを言ったけど、せっかく商いをやるなら、できるだけ続けて欲しいってだけなんだ。そのためにやれることはやろう。」
「ガルネさ~ん!!ありがとうございます~~!!」
「…ありがとうございます~!!」
いつもは槌を黙々と振っているガルネお姉ちゃんが、あたしたちの成功まで考えていてくれたことが嬉しくて思わず抱きついてしまう。
「おいおい、大袈裟だって!そう言えば、リンが言いかけてた“大作戦”ってなんなんだ?」
そう言えば、と自分でも忘れていたことを思い出す。
「よくぞ聞いてくれました。その名も―――ピザの美味しさを知ってもらおう!無料デリバリー大作戦!」
「無料…!?」
「…デリバリー!?」
「デリバリーって前にも言ってたよな。―――もしかしてリンが配って回るって意味か?」
「正解ですっ!ここでガルネさんとフレアにお願いしてた『秘密兵器』が役に立ちます。」
「秘密兵器?あの魔導鋼の余りを薄っぺらく伸ばしたもんか?」
「はい。それを使ってデリバリーします。まずフレアが、力を調整した火魔術で魔導鋼に熱を閉じ込めます。次に“この袋”にピザと魔導鋼を一緒に入れると、ピザの温かさを保つことができます。最後にあたしが皆さんに配っていきます。今回はお試しなので一切れずつプレゼント。」
ピザと魔導鋼を入れる袋は、バイクと一緒に異世界に来たピザの保温袋が役立ってくれる。元の世界では保温袋に入れて配達しても、たまに「ピザがぬるい」ってクレームが来てたから、できるだけ熱々を保てるようにしてやってみよう。
「良いアイデアだと思うが、大変そうだな。」
「ありがとうございます。さすがに全員は無理ですけど、可能な限り配りたいです。もともとピザは庶民の味方ですから。」
「…リンが配る。…なら私は応援するってことだね。」
「フレアは、人が集まりそうなところに行って、チラシを貼っ付けてもらう係だよ。」
「…わ、私は石窯の火も見てなきゃいけないから…。」
「あっそ、じゃあフレアにはもうピザなしね。」
「…えっなんでっ!そんなのずるいっ!」
頬をむくれさせて言い返すフレア、それをお姉ちゃんのように見守るガルネさん。
「じゃあ、決まりだね!」
あたしは、市場の人達を中心にピザのおいしさを知ってもらうためデリバリーして、フレアには宿屋、魔術学校、職能紹介所、などなど目立つところにオープン記念チラシの貼り付けをお願いしてもらう。
ふふ……商売はイメージ戦略から!あっあとルディオ侯爵にも状況を伝えておかなきゃ。




