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異世界ピザMAP! ピザ配達員は世界を測ります!  作者: クッソデカパイのナギ


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10/28

第10話 ピザを焼くには根気がいるらしい

 次の日。


「小麦粉を5㎏、あと、イーストと塩もください。」


 まだちょっと心のチクチクがとれないから、気分を変えるために市場へ来てみた。人が多すぎず、だけども少なすぎないフローラリア王国の市場が好き。ちょっとわがままだけど、これくらいが気分良く見回せるんだよね。


 この後はガルネさんの鍛冶屋に寄ってみる。石窯の施工を始めてからもうそろそろ1ヶ月が経つし、完成しそうな頃合いじゃないかな。今日は鍛冶屋に押しかけて、ピザ生地を仕込むこととする。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「こんにちは~。リンが来ましたよ~。」


「お~いらっしゃい。」


「…リン、おっす。」


 中に入るとガルネさんとフレアが明るくお出迎えしてくれた。あたしはまだ少し空元気(からげんき)だけど、今日は誰かといたい気分。


「…それは?なんか買ってきたの?」


「うん。ピザの試作のために、今日は生地を仕込んでみようと思ってたんだ。」


「生地…?…なぁリン、石窯は完成までもうちょっとかかるぞ。」


「あっ驚かせてすいません。今日は石窯を使わない工程なんです。ピザの生地は完成まですごく時間がかかるので、今のうちに作りたいと思いまして。早速ですが作業台を使わせてください。」


「…えっ?…そんなにかかるの?その日に作るんじゃなくて?」


「うん。時間をかけると、焼き上がりも美味しく仕上がるんだ~。」


「へ~。武器みたく時間をかけて作る料理もあるんだな。」


 休憩中のガルネさんとフレアの隣で生地を仕込んでいくよ。実は石窯の他にも、作業台、生地を切り分けるためのスケッパー、材料を混ぜるためのボウルを先に作ってもらってたんだ。


 市場から買ってきた小麦粉とイーストと塩、あと水を用意して…と。

 

「初めて見る作業はすごく気になるな。時間をかけて研ぎ澄ませる必要があると言われると尚更。」


 鍛冶職人のガルネさんが、ピザの奥深さにも興味を持ってくれたみたいでなんだか嬉しい。


「…リン、なんかカッコイイ。」


 普段は見られない工程作業台の近くに来た2人に気分を良くしたあたしは、頼まれてもいないのにピザ生地の作り方を料理の先生ばりにレクチャーし始める。


「“ピザ”の正体は、ま~るいパンのような生地の上に食材を乗せて、高温で焼き上げる料理です。」


「…ま~るい?」


「パン…のような生地…。」


 2人の想像してる姿がかわいい。どんな出来上がりを想像してるんだろ。


「そして“ピザ”は、生地の美味しさを楽しむ料理です。」


「…生地の?」


「美味しさ…?待った。生地の上に食材をのせるんだろ?となると、食材の方が目立ちそうに思えるが…?」


「良い質問です。その食材と生地を一緒に噛んだ時に、口の中で味わいに一体感を生み出すために、主役の生地を弾むような食感にしてあげる必要があります。」


「…本当にそんなことできるの?」


「同じく、ちょっと信じられないな。」


「そのために、さっき言ったように時間をかけて、そして美味しいタイミングも見極める必要があります。初めに、ボウルに水と塩を入れて溶かした後に、袋にある小麦粉を6割ほど入れて、指先でゆっくり優しく混ぜていきます。強く混ぜると粉が飛んじゃいますから。」


「…残りの小麦粉は使わないの?」


「ううん。全部使うんだけど、最初に全部入れちゃわないで、分けて入れるのがポイントなの。小麦粉と水が混ざることで“グルテン”っていう、生地が弾むような食感になる成分が形成される準備が整い始めるからなんだけど、一気に粉を全部入れちゃうと、水が行き渡らないで生地がモチモチになりにくいんだ。」


「…グルテン!?初めて聞いた!」


 魔術や鋼材に詳しいフレアがグルテンと聞いて目をキラキラさせててかわいい。


「なぁリン、想像してたのと違うんだが、そのドロドロしたのが生地なのか?」


「これから段々と形が変わって行きますよ~。その前に入れるのがこのイースト。生地のゆるやかな発酵を促してくれます。」


「はっこう…。」


「ピザ生地の発酵とは、生地の中でイーストが炭酸ガスを発生させる工程を指します。発酵のおかげで、生地が膨らんで熟成も進めてくれます。」


「…それ研究してみたい。」


「そして残った小麦粉の3割を追加して混ぜると、段々と生地がまとまって行きます。」


「おっ!?なんか急にドロドロがまとまって固形になってきたな。」


「この状態になったら、残りの小麦粉を全部入れます。」


「…混ぜても、まだくっついてない小麦粉があるね。」


「そうそう、小麦粉はまとまりにくいから、根気よくやらないといけないの。」


「お~綺麗にまとまったな。でも時間がかかるって言う割には結構早くできたじゃないか。」


「ふふ、その言葉を待っていましたよ~。ここからが本日のメインイベントです。このまとまった生地を捏ねていきます。」


 そう言って、まとまった生地をボウルから作業台に移す。


「こねる?」


「そうなんです。こうやって、生地に体重をかけて両手で練ります。ひたすら練ります。」


「…えっそんなに強く!?」


「お、おい、大丈夫か?それ食べ物だよな!?」


「大丈夫です!…むしろ…捏ねないと…グルテンが…形成されなくて…美味しくない…ピザに…なって…しまいます。」


「…」


「…」


「はぁ…はぁ…。」


「なぁリン、それいつまでやるんだ?」


「小麦粉の…量も…多いので…あと…15分…くらいです。」


「15分!?1つの料理を作るだけなのにえらい重労働じゃないか!」


「…リン…応援してる。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


15分後…


「はぁ…はぁ…はぁ…。」


「…リン。頑張ったね。」


「ありがとう。グルテンは、小麦粉に水を加えて捏ねることで形成されていく成分です。しかもなかなか形成してくれないので、時間をかけて捏ねる必要があります。」


「まさか武器以上の重労働か!?」


「ここで、水を絞った布を被せて1時間ほど生地を休ませます。これが一次発酵です。」


「…ずっと触ってるわけじゃないんだね。」


「うん。発酵は休ませないと進まないんだ。準備ができたら静かに待つことも大事なの。」


「…うん!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


1時間後…


「布をめくると…」


「おぉ…デカくなってる!」


「…すごい!これが発酵…!」


「膨らんだだけじゃなくて、生地をつまんで伸ばしてみると…ほら。」


「おぉ~~~。」


「…お~~~。」


「こんなふうに、生地がちぎれずに伸びて、薄い膜のようになっていればオッケー!」


「なんとなくだが、そろそろ最終段階か?」


「そうなんです。最後にガルネさんが作ってくれた、このスケッパーで生地を分割していきます。」


「…小さくしちゃうの?」


「うん。実はまだ発酵の途中で、この状態からもっと膨らむの。このままだと石窯でも焼けなくなっちゃうから、最初に食べやすい大きさに分割しておくの。」


「もっと膨らむのか!?」


「はい。それが“美味しい生地です”っていうサインです。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よし…これで準備完了。分割した生地をこのまま置いておきます。二次発酵です。」


「…膨らむまでどれくらいかかるの?」


「幸い、このフローラリア王国は発酵に適した気候なので、このまま1日待ちます。」


「1日!?このまま1日待つのか!?料理で!?」


「そうなんです。途中で触ってもいけません。」


「…わかった。私が見ておく。」


「見なくても大丈夫だけど…気になる?」


「…うんっ!」


 興味津々で鼻息が荒くなってるフレアが可愛すぎ。


 ガルネさんとフレアがいてくれたおかげであたしの寂しさもまぎれた。生地の完成までもうちょっと。石窯の完成ももうちょっと。


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