通りすがりの旅人
これはとある王国内での話。
国王は自らの事しか頭になく国内は乱れきっていた。
その王国の荒れ果てたとある街を一組の男女が歩いていた。
「ここも酷い有様ですね。か、いや……なんとお呼びしたら良いのでしょうか?」
「そうだな――。名前など考えたことがなかったな。気安く兄ちゃんとでも呼んでくれ。そのほうが怪しまれないだろう」
「そんな無礼な事を……」
「私が許すのだ。誰もとがめはしない」
「承知しました」
彼らが歩いている町は何もかも奪い尽くされていた。
人の姿はあれど目に光を失っていた。
「これもあの国王のせいというわけですね。兄ちゃん」
「そうだな。妹よ。そのために我々は降り立ったのである」
「私達は何を為すべきなのでしょうか?」
「まずは目の前の人を救うべきであろう」
そう言うと彼は崩れかけた建物の前に座り、何か遠い所を見ていた男性に声をかけた。
「君は何を望む?」
男性は彼の声に何も興味を示さなかった。
その男性は何か望んだ所で叶わないことをよく知っていたからである。
彼は再び声をかけた。
「君は何を望むのだ?」
男性は彼の声に今度は少し反応をしたが、何も言わなかった。
そして遠くから剣をぶら下げた集団が歩いてくる姿が見えた。
その後ろのほうに薄汚れた男性が付いてくるように歩いていた。
見知らぬ男女が歩いているのを見た住民が告げ口をしたようである。
旅人から略奪するためだ。
「兄ちゃんどうする?」
崩れた口調に少し慣れたようだ。
「どうするも何も我らの邪魔はいかなる存在もできない。よく知ってるのだろう? 妹よ。だが、少し遊んでみるのもどうだろうか」
そういうと彼は少し笑った。
「おいそこの旅人! この町に入るには俺たちに話を通す必要があるんだよ。罰として身ぐるみ全部と隣の女を置いていけ。そうすればお前の命だけは助けてやろう」
「わかりやすい悪役ですね。お兄ちゃん」
「じゃあ、愛すべき妹なのであるが……置いていって命だけは助けて貰おうとするかな」
彼はいたずらっぽく言った。
「ひっどいなーお兄ちゃん。愛すべき妹なのに?」
それなりに彼女も楽しみはじめたようである。
彼は荷物を地面に全て置いて、彼女を集団のほうに突き飛ばした。
「これでどうか許してくださいませんか……。どうかどうか……」
それを見て座っていた男性の光はさらに光を失った。
そして初めて言葉を放った。
「おお神様……」
その声を聞いた彼は少し満足げな顔をするのであった。
「そうか神か」
翌日、町の中心に“わかりやすい悪役達”が無残な遺体となって発見されたのであった。