中学二年、夏のこと
「また背が伸びたか?」
夏休み直前の中学二年生。響は出会い頭の瑠璃にそう言われた。
「最近は寝てる時に骨がミシミシいうんだぜ…」
男子の成長期は突然やってくる。もともと人より身長の高かった響だが、今はクラスでも頭1つ分は飛び出てるほどだ。あまりによく伸びるので、最近は成長痛で眠れない夜もある。
「春に買った靴がもう入らないのか」
身長に比例するかのように、足のサイズもどんどん大きくなる。まだ真新しいスニーカーは踵が踏み潰されてクタクタになっていた。早めに新調しなければ危ないだろう。
「日曜日に買いに行くってよ、あああ!!」
少し膝を持ち上げただけなのだが。踵が潰されたスニーカーは勢いよくスポーンっと飛んでいってしまった。片足立ちのまま呆然とする響の姿に笑いを堪えながら、瑠璃は靴を取りに行ってやる。大きな男がしゅんと頭を下げる姿は、ゴールデンレトリバーを彷彿させた。
「そら」
「ワリィ」
申し訳無さそうに靴に足をいれるも、踵はやっぱり入り切らずに踏み潰すことになった。身長が高いことは羨ましいが、ここまでくると同情してしまうなと瑠璃は思う。
「しかしまあ、美奈子も由美も何を食ってそんなに大きくなるんだか」
瑠璃は女子の中でもかなり小柄な部類に入る。最近は美奈子に「小さくていいなぁ。着れる服があって」なんて嫌味を言われたので、脛をおもいっきり蹴ってやった。弁慶とて耐えられない一撃。
響はその話を興味関心がないフリをして聞いていたが、その視線は自然とある場所に引き寄せられる。少しずつ膨らみ始めた部分は、思春期の男には刺激が強くもあった。
男女の垣根が曖昧だった子供の時代を終えて、誰もが大人になろうとしている。少なくとも体だけは。
響は帰宅後、ベッドに倒れ込む。そしてマットレスの隙間に手をつっこんで、中にあったものを引っ張り出した。ぐしゃぐしゃのグラビア誌…蠱惑的な女性の水着姿が表紙のものだ。そのページをパラパラと捲り、溜息をつく。
「やっぱ無理か」
この雑誌を渡されたのは、中学1年生の3月頃。クラスメートの男子が「友情の証」になんて言って渡してきたものだが、響はこの雑誌に価値を見いだせないでいた。
「ああ、クソッ」
小学生の頃にはドキドキと胸を高鳴らせて見ることができただろう雑誌なのに、何故か今は嫌悪感を強く感じる。指や唇に触れることを何度も考えるが、気がつけば別のものにすり替わっていた。
「さいあく…」
どんな女よりも瑠璃を手にしたい。今はそればかり考える。