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混沌と混乱と狂熱  作者: 有機野菜
11/15

高校一年、秋のこと

秋頃になって文化祭の準備が始まった。響は掌大の紙を、瑠璃と榎本の前に掲げる。100均で買ったのだろう色上質紙には「文化祭招待券」という文字が書かれていた。


「防犯上の理由で、コレがねぇと入れないんだと。良かったら来てくれねぇか?」


二人は手渡しされた招待券をまじまじと見る。


「よろしいのですか?瑠璃はともかく、私まで配っては数が足りないのでは?」

「ぜんぜん!むしろ余っているぐらいで困っていまして」

「なるほど、招待券を余らせた者達が次々とお前に譲ったというわけか」


瑠璃の言葉に響はそうなんだよと肯定する。


進学校ゆえに、生徒の殆どはそれなりの時間をかけて通っている…つまり地元から離れているのだ。文化祭に友達を誘うのも気が引けるほどに。ゆえに一人につき5枚までと配られた招待券を余らせてしまう生徒が続出した。このまま捨てるのも勿体ない思った時に、白羽の矢が立ったのが響だった。


「君は友人が多いですからね。中学時代の同級生だけでもかなり呼べるのでは?」

「買いかぶりですよ。弓道のダチも呼んで、やっと殆ど捌けた感じで。30枚くらいだっけか」

「30人は充分すぎると思うのだが」


交友関係の狭い瑠璃からすれば信じられないような数だ。今も高校で順調に友人を作っているようだと思った所で、少しだけモヤっとする。瑠璃はそんな気持ちを見てみないフリをした。


榎本はにこやかに笑う。


「ええ、ぜひ行かせていただきます。瑠璃も一緒に」

「私は行くとは。いえ、先生がご一緒してくださるなら行きます」


その言葉に響はホッとする。榎本は意味ありげに微笑んでいた。


「私がしっかりと見張っていますよ」

「私は学校で迷子になるほど子供じゃありません」


響は苦笑いする。榎本も来てくれたら瑠璃が来る確率もあがるし、虫よけにもなるなと打算的なことを考えていたのは、どうも全てお見通しだったらしい。



文化祭当日。土日と分けて開催される中、響は土曜日にまるまるシフトが入った代わりに、日曜日がすべて暇になってしまった。それでも配り歩いた招待券のおかげで暇だということもない。友人が次から次へとやってくるので、挨拶に忙しいのだ。


それもだいぶ落ち着いた、11時の頃。待ち望んでいた二人がやってきた。


「すみません、少し遅れました」


そういう榎本はいつもと同じような私服だったが、瑠璃は違った。いつもシンプルな服装なのだが、今日は女性らしいオシャレな服装をしている。美しい相貌もあいまって、誰もが振り返るような仕上がりだ。


「え、瑠璃、なんつーか、珍しい格好だな?」


瑠璃はどこか不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。


「先生が勝手に決めたんだ」


それは何か考えがあってのことだろうと響は思ったが、納得はいかない。ただでさえ美しい顔立ちをしているのに、これでは余計に妙な虫が湧くではないかと心配になる。だけど榎本は変わらずニコニコと笑っているだけだった。


「さて!それでは行きましょうか!案内は響がしてくれるのですか?」

「そう、ですね。他のダチは全員来てるし、勝手に校内を見てるから、俺が二人を案内しますね」


屋台で賑わう校門で食べ物を買い、展示をしている部活について説明しながら案内する。どこもかしこも賑わっていて歩くことすら困難なので、購入などのやり取りは全て響が率先して行った。


「おい!なんだよ、あの美人!お前のツレだろ!?」

「るっせぇ!早く焼きそばよこせっつーの!」

「あれ噂の彼女!?うっそ!チョー美人じゃん!?」

「彼女じゃねぇって。それより美術部のチケットくれよ」

「いやお前さぁ、彼女がいるとは聞いてたけど、彼女のお母さんまで招待するか?」

「母親じゃありません!先輩ははやく次の準備に向かってください!」

「リア充爆発しろ!と言いたいところですが、貴殿には恩のある身!此処に式場を建てましょうぞ!」

「お、おう?何を言ってるかわかんねぇけど、ありがとうな」


行く先々でこんなやり取りを続けていたら、流石にぐったりした。瑠璃は付き合っていないのにと居た堪れなくなってしまう。瑠璃と榎本は少し離れたところで待機してもらっているので、会話は聞こえていないと思うが。そう信じたい。


そうやって校内も半分周ったところだろうか、人のまばらな渡り廊下にさしかかると、瑠璃がぽつりと呟いた。


「友人が多いな、お前は」

「そうか?」


振り返る瑠璃は探るような目で響を見る。見つめ返してやろうかと視線をあわせたが、なんだか照れくさくなってすぐ視線をそらした。顔が熱いのはきっと気の所為ではない。


「お前は」

「あん?」

「いや、なんでもない」


思わず助けを求めて榎本に視線を向けるも、笑うばかりで助けてくれそうになかった。


文化祭が終わる頃、響は二人を見送った後に教室へ戻った。後片付けをしようとすると、教室のあちこちで話しかけられる。全てが瑠璃との関係についてで、響は顔を赤くした。

クラスメートの女子達がこんな会話を目の前で始める。


「正直さ、実物見てビビったよね。響君から告白したっての納得したもん」

「それ!響君から告白とか、どんな子だよってずっと思ってたわ」

「うちの部長もさーアレは勝てないって言っちゃってさー」

「アンタのとこの部長も響君を狙ってたんだっけ?」

「つーか、響君狙いの人はかなり多いでしょ」


響は顔をあげる。そんなことは初耳だと考えていた時、ふと榎本の「私がしっかりと見張っていますよ」という言葉を思い出した。あれは瑠璃だけではなく、響にも適用される言葉だったのだと。


すっかり「美人な彼女がいる」と勘違いされてしまったが、もはやそれを否定するだけの気力を持ち合わせていなかった。

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