表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

12 そして、決着へ……。

 ゆっくりと、浮上する意識。目を開くと、カーテンの吊り下げられた白い天井が視界に飛び込んできた。


(あれ? ……ここ)「いッ()……」


 軽く身動(みじろ)いだ途端、頭に疼痛が走り、陽は呻きを上げた。それを聞き付け、仕切りのカーテンが外から開かれる。


「日向君、起きましたか」


 顔を出したのは朔夜だった。着物の女装ではなく、制服姿に戻っている。


「冬月……大丈夫か?」


 訊ねると、朔夜はキョトンとした後、苦笑してみせた。


「開口一番、人の心配をするのも日向君らしいですが、まずは自分の心配をしてくださいね」

「そういえば、俺……?」


 改めて、自分の置かれた状況を確認する。ウィッグは外されているが、服装はロリータのまま、陽はベッドに横になっていた。


「ここ、保健室……だよな?」

「ええ、先生は今、小用で席を外しています。日向君、転んで頭を打ったことは覚えていますか?」


 ……そうだった。

 問われて全てを思い出し、陽は両手で顔を覆った。


(冬月を保健室に運ぼうとして、逆に自分が運ばれたのか)「……恥っず」

「いえ、カッコよかったですよ? 恋愛あるあるシチュエーション〝お姫様抱っこ〟……されたのは初めてでしたけど、今回は少しときめきました」


 綺麗に微笑んでそんなことを言ってくる朔夜に、陽は余計に気まずくなる。


「慰めはいいよ」

「本音ですよ? 昨日も今日も、日向君が来てくれて、僕は嬉しかったんです」


 一人で居ることに慣れていた。誰かにこんな風に心配されたのは、いつぶりだろうか。

 弱い自分を見せるのは嫌いだが、陽になら不思議と嫌な気分ではない。


「――ありがとうございます」


 真っ直ぐに見つめて礼を言うと、陽は見る見る真っ赤になってしまった。それを隠すように、横を向く。


「そ、そっか……うん」


 明らかに照れている。そんなところはやっぱり可愛らしいな、と朔夜は思い、クスリと笑みを零した。


「それで、冬月の怪我は?」


 面映ゆい空気を誤魔化す為か、陽が改めて質問を投げてきた。


「ああ、少し足首を捻った程度ですよ。それもテーピングをしてもらって、今は痛みもありません。先生には具合が悪いと言って保健室(ここ)に残らせて貰いましたけど」

「え? 何で?」


 堂々たるサボり宣言に陽が目を丸くすると、朔夜はさらりとこう言ってのけた。


「日向君が目を覚ますまで、傍に居たかったので」

「!」


 ますます真っ赤に染る、陽の頬。林檎みたいで、甘く蕩けてしまいそうだ。


「何かごめん、俺の所為で」

「いいえ、僕がしたくてしたことですし。それより、日向君の身体の方は大丈夫なんですか?」

「たぶん。ちょっと頭は痛いけど、他は特に……」

「それは良かったです。ですが、ご無理はなさらずに」


 あれから、どのくらいの時間が経っているのか。時計を探して周囲に目を配ったが、陽の位置からでは見当たらなかった。


「あの後、姫MATCHはどうなったんだ?」

「さあ? 僕も日向君と一緒に保健室まで運ばれて、一度更衣室に着替えを取りに行った以外、ずっとここで休んでいましたから。まぁ、主演二人共こうなっては中断は余儀なくされたでしょうね」

「そうか……」


 まぁ、普通に考えれば、朔夜の勝利だろうとは思うものの、一抹の不安は拭い切れない。


(まさか、もう一回やらされたりしないよな?)


 ここで、朔夜がふと気が付いたように提言した。


「ところで、今の状況って恋愛シチュエーションあるある〝保健室で二人きり〟ですよね」

「は?」

「折角なので、色々試してみませんか? なかなか無い機会ですし」

「試すって、何を……ちょ、冬月!?」


 枕元に腕を着いて、覆い被さるように上から身を寄せてくる朔夜。陽は大いに慌てた。壁ドンならぬ床ドン……というか、ベッドに押し倒されているような姿勢に、心臓がタップダンスを踊り始める。


(これは流石にヤバいって……!)「ふ、冬月! ダメだって、こんなの!」


 直後、保健室の扉が外から開かれた。白衣を着た若い男性養護教諭が顔を出す。


「悪い悪い、空けちゃって。センセが留守の間、誰か来なかったか? ……って、何やってるんだ、お前ら」

「これ……は、その」


 二人の様子に固まる養護教諭。蒼白になる陽。朔夜だけが何事も無かったかのように、しれっとしていた。


「日向君が目を覚ましたようなので、様子を見ようとしたら、躓いてしまいまして」

「ああ……冬月は足を痛めていたんだったな。気を付けろよ」

「はい、すみません」


 ホッとした顔の養護教諭に、申し訳なさそうに返す朔夜。何とか誤魔化せたようだが、陽の心中は穏やかではなかった。


(全く、冬月と居ると、心臓に悪い……)


 こちらの気も知らずに……いや、知っているからこそか。目が合うと、朔夜は悪戯っぽく微笑(わら)ってみせた。



   ◆◇◆



 その後、教室に戻った二人は、驚愕の事実を知ることとなった。


「えっ!? 引き分け……で、二人共、姫!?」


 あまりのことに絶句する陽に、クラスメイトが説明を加える。


「いや、あの後さ……」


 陽と朔夜が保健室に運ばれていった後、体育館内に残された生徒達の間には、盛大に動揺が広がっていた。

 あちこちで交わされる声、声。


「ハル姫が……お姫様抱っこ……」

「結構、力持ちだよな……」

「……うん」

「……でもさ」

「……うん」

「やっぱり優しいよな、ハル姫」

「それな~!」

「おれ達が誰も動けずに居る中、真っ先に駆け付けてったもんな」

「相手、敵なのにな」

「そうそう、敵なのに関係なく助けようなんて、マジで優しい」

「女神」

「思ったんだけど、ハル姫、わざと負けようとしてなかったか?」

「それ、思った」

「自分よりも相応しい相手が居るなら譲るって言ってたじゃん? そのつもりで、相手を勝たせる為にわざとあんな風に振舞ってたんじゃないか?」

「有り得る~! てか、それじゃね?」

「ハル姫、控えめだからな。自分なんかより……って思っちゃったんだろうな」

「何だそれ、いじらしい!」

「守ってあげたい!」

「てかさ、どっちかを選ぶ必要なんてあるか?」

「え?」

「元々、カオル姫の引退で姫枠一人欠員出てたじゃん? なら、いっそのこと二人共姫でいんじゃね? もう」

「おぉ……!」

「確かに!!」

「どっちかを選ぶ必要なんてなかったんだ! 二人共姫でいこう!」

「おお〜!!」

「これ、もう投票装置要らねーな。皆の気持ちは明白だもんな!」

「そうだな! 今更投票する必要も無いな! ってことで、決定!」

「サクヤ姫誕生、そしてハル姫継続、だーっ!!」

「わぁあああっ!!」


 …………。

 ……………………。


「と、そういった流れで姫MATCHは終了しました!」


 キラキラと目を輝かせて報告するクラスメイト達。茫然とそれを聞いた後、陽はがっくりとその場に(くずお)れた。


「う、嘘だろ……」


 流石の朔夜も同情の眼差しを向けてくる。


「は、ハル姫!?」

「大丈夫ですか!? まだお身体の調子が!?」

「大変だ! 保健室ーっ!? いや、救急車!?」


 周囲が勘違いでわたわたと陽を取り囲んで心配する中、昼休み開始のチャイムが呑気に校内に鳴り響いた。

 残暑厳しい九月の教室。姫の任期は当面一年間。陽の苦悩は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ