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義姉の物を全て奪ってやったZE  作者: 大鎌マニア
1/4

1.欲しがり義妹

 「お義姉様、私どうしてもお義姉様が付けてるその可愛い髪留めが欲しいの・・・。」

薄汚れて汚い硝子の留具が外れそうになっていたアクセサリーを眺めてメロウは悲しげに囁いた。


「ナタリーはお姉さんでしょ!?妹のメロウに譲ってあげなさい!!」

有無を言わせない声で母親のジュリアはナタリーの髪からヘアーアクセサリーを引き千切った。


「でも、これは・・・お母さまから頂いた最期の・・・。」

ナタリーは懸命に返して貰おうと懇願するがジュリアは振り向きもせずメロウに渡す。


「それがどうしたって言うの!?今は私が母親でしょ?!まさか私への当て擦りなのね!なんて厭な子なの!!」

母親は如何にも憎らし気に顏を歪める。


「こんな腐ったばっちいのよりもお父様に沢山宝石が付いた髪留めを買って貰いましょうねメロウ。」

ジュリアはメロウに殊更甘い、何故なら実の娘はメロウだけだから、この母娘は後妻としてこの屋敷、つまりナタリーの父であるスティングレイ子爵と再婚を果たし最近引っ越してきたばかりなのであった。


「ううん、これが良いの、これじゃなきゃダメなの。」

髪留めを受け取ってメロウはナタリーに話かけた。


「お義姉様、今まで沢山良い物を沢山持ってたのよね?羨ましいな、私、ずっと平民だったから何も持っていないの。」


淋しい顏でナタリーはメロウを見つめた。

メロウ母娘は平民で酒屋の仕事を手伝いながら生活をしてきたがジュリアが年若い頃にスティングレイ子爵のお手付きとなったメロウが生まれてからは子爵家に戻るのをロア・スティングレイは疎い、ナタリーの母親であるユフィア夫人とは名ばかりの冷めた関係が続いていた。


「これからはお義姉様の持っている物全部!ぜ~んぶちょうだい!?」


ナタリーの母親は1人で子爵家を切盛りしていたが、元から病弱であった為無理が祟り昨年身罷った。

1年も経たずにメロウ達がこの子爵家へ上がり込んできたのだから醜聞も如何程だろうかと社交界では囁かれるであろう。

母親のジュリアからすれば自分を貴族にとスティングレイが望んだ事だから、それはもう愉悦を含んでナタリーを蔑んだ目で見据え如何にも自分が優位であるかと振舞った。


「メロウの言う通りにしなさい!ナタリーはお姉さんで年上でしょ?分かっているわよね?」

子爵夫人と云うお誂えの席が空いた今はジュリアにとって天下である、有頂天を極めていた。



「・・・はい、お母さま。」15歳のナタリーの顔に諦念が浮かぶ幼いが利口な娘は逆らう事を諦めざるを得なかった。

その横をメロウは通り過ぎる際に小さい声でナタリーにだけしか聞こえない様に囁く。


「お義姉様、安心して?お義姉様の物を全部奪ってあげる。」


メロウは天使の様にニコリと微笑み、母親のジュリアの後を追って2階へと上がって行った。



「ねぇ、貴女はナタリーお義姉様の付き人の方よね?」

「は、はいソアラと申しますが・・・。」

「今日からメロウの・・・私の付き人になって手足となって私に尽くして欲しいの。」

「スミマセン、それは・・・。」難色を示す、それはそうだ長年ナタリーを可愛いがっていたメイドだからナタリーにとって唯一この屋敷の味方であろう事が察せられた。


「拒否してもいいの?ナタリーお義姉様がもっと酷い目に合っても?」メロウは半分脅しを掛けてソアラをナタリーから奪った形となった事実上この屋敷はジュリア母娘が取り仕切る形になる始まりであった。


「それから、コレ汚いから何とかして!!」

留め具が外れた髪留めを放り投げる様にソアラに渡す。

「こ、これは!亡きユフィア様がナタリー様にプレゼントした物です!!」語調を強めてソアラは述べる。

「ふん、知ったことではないわ、それ、見たくないのよ!売るなり、あげるなりしてどこかに処分して!いいわね?!分かった?!」

メロウはさも見たくないと手を振り言い付けた。

見たくないなら何故ナタリーから奪ったのかとソアラは咎めたくなったがメロウは矢継ぎ早に言う。


「早く、7街区の外れに寂びた商店があるからそこへ持って行って!」

「は、はい、畏まりました。」やたらと具体的に言われてソアラは慌てて街へと出掛けた。


◆◇◆◇◆◇



「まぁ!お義姉様ったら!!素敵な食事を1人でされてるんですね?ドブのスープですか?」

「え・・・。」ナタリーは苦い顏をして冷えた皿にカトラリーを入れていた。

食が進む訳もなく俯くナタリーの姿を年若いメイド達がクスクス笑いながらみている。


「羨ましいわ、私にも分けてよ?お義姉様。」

「だ・・・ダメよメロウ・・・。」

「何故よ?!ケチね!私を馬鹿にしてるの?!酷いわ!!」

ガッと皿を引っ掴むと思い切りよくナタリーの小汚いスカートにドブスープを零した。

「うわ~お義姉様ったら汚い~!濡れネズミみたいね?そこのメイド!笑っていないで片付けなさい!」

一緒になって側で声を出して笑っていたメイドを指差して命令する。


「私のスカートにも掛かったじゃないの!!こんな臭いドブスープ誰が作ったの!?料理長は首よっ!!」

メロウは癇癪をおこし怒鳴り散らす。


「お、お許しください、申し訳ございませんでした。」

メイドは震える手で皿を片付けだすがメロウの怒りは収まらなかった。

「この小汚い部屋も貴女が丁寧に磨いて綺麗にするまで許さないわ!もしさぼったら首よ!この小汚いスカートも捨ててよね!」ナタリーのスカートを引き裂きメイドの顏に被せた。


「ソアラ!!ソアラどこなの!!」メロウは大きな声でナタリーの腕を掴んで歩き出す。

「え?え?メロウ・・・ど、何処に行くの?」ナタリーは戸惑いながら下着姿のまま引き摺られていく周囲から見ればまるで酷い虐待後の様に見える、メイド達はその光景に震えサッとその場を引いて行った。



「お義姉様を今から熱い湯で甚振ってあげるわ!臭くて汚い体にキツイ油と前が見えないくらいの恐怖の泡に沈めてやるからね!ほほほほ!」さも意地悪を愉しむ様にメロウが声を大きくしたそれは階下迄聞こえる騒ぎにジュリアはほくそ笑んで「メロウ手加減しなさいね~」と言った。



「まぁまぁまぁ、なんてお姿にナタリーお嬢様!!」

ソアラはあられもない姿に涙を浮かべながら浴槽までナタリーを連れて行こうとするとメロウは立ちはだかり腰に手を宛てて笑った。

「これから毎日ナタリーお義姉様に嫌がらせをしてあげる!ちゃんと言う事を聞きなさい?」

「そうね~今からお義姉様の顔に泥を満遍なく塗ってやりなさい!全身泥まみれにするの!嫌だって言ってもやるのよソアラ!分かったわね!」

「は、はいっ!」沈痛な面持ちでメイドも頭を下げている。


「ふふん、最後はお義姉様のそのバサバサの髪にヘドロの様な油を塗りつけてやる!このどぎつい血の赤の様な油でね!」小瓶を取り出し嬉しそうな顔でニヤニヤしながらメロウが続ける。


「まだまだよ!お義姉をただでは寝かさないわ!!お義姉様が大切にしている庭の草を毮りまくって湯に溶かして寝る前に無理矢理飲ませるのよ!虫が集めたネバネバの茶色い液体も混ぜてねっ!!」


「はい・・・?畏まりました。」ソアラは頭をさげたまま返事をした。


「あとは~~~そうね、嫌がらせに今寝ている布団を全部捨ててやるわ!!獣の羽根が入っている布団の中にお義姉様を無理矢理押し込んで明日にはお義姉様は羽まみれね!いい気味。」


「メ…メロウ??」ぐいぐいと浴場に押し込まれたナタリーは首を少し傾げて義妹を見る。


「ふふーん、どんなに言ったってお義姉様の布団は返さないわよ!ほほほ!」舌を出しながらきゃっきゃと笑いメロウは部屋を出て行った。



こんな感じで義妹のメロウはとことんナタリーの物を欲しがり思いのまま奪い尽くした。

ナタリーは義妹の勢いに翻弄され物に頓着が無かった為気がつかない内に殆どをメロウにあげていた。

本来の穏かな性格も相まって好き放題にされてもメロウに対して口元を綻ばせたりするので益々我儘放題に増長していった。



気ままな母親のジュリアとメロウはナタリーだけを置いていき街に出かけた。

「そうだわ!お義姉様の部屋をこのカビた古臭い本で埋め尽くしてやるのも良いかも!もしかしたら真新しい先の尖った新刊本なんかで小指を切るかも知れないわ!」と父親に貰った宝石を売り、本に替えて山程抱えてナタリーの部屋に突撃した。

ナタリーは自分の背丈程積まれた本にあっけにとられていたが、お気に入りの小説の新刊が紛れてあったり

書籍の中にはかつて母親の部屋にあった本が置いてあった色褪せてはいるが確かに母が良く手にしていた本だった。


「これは・・・この本は、お父様が手放した書籍よね?」ソアラにふと聞いてみた。

「それが、メロウお嬢様が・・・ナタリー様を困らせてやるからと・・・」

「まぁ、あの娘ったら・・・。」

「本当におかしいんですのよ?ナタリー様にと書籍をこれもあれもと、重いのに山ほど抱えて汗だくになって顏を真っ赤にされて運ばれてましたわ。」

「そうなの・・・嬉しいわお礼のお手紙でも書こうかしら。」眉をハの字に下げて愛し気に本を撫でた。

「それが良うございますよナタリーお嬢様。」ソアラはにこやかに微笑みレターセットを渡した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「メロウお嬢様は本当にナタリー様の物が良いんですね。」お茶を注ぎながらソアラはメロウに尋ねた。



「当り前でしょ!ジュリアお母様に頂いたスカート(小汚い)、お父様がお義姉様の為だけに用意した部屋(物置部屋)にベッド(ボロ巾)お布団、料理長がお義姉様仕様にと作ってくれた(ドブ)スープ、お義姉様には勿体無いわよ!あげるもんですか!私はもっと欲しいの!!」


「今度はお義姉様をどう困らせてあげようかしら?ワクワクするわ」

ナタリーが対面の長椅子に腰掛けている姿を眺めながらメロウの瞳はギラギラしている子猫の様だった。

茶器を静かにテーブルに置くといつもの困った顔でナタリーは呟く。

「メロウったら、もっと品の良い物を持っているのに、私の持ってる物なんて壊れた物ばかりよ?」

「お義姉様はそんなに私に取られるのが嫌なのね?フフフ。」


「それならもっと嫌がらせをしなきゃ!!お義姉様をおデブにしてあげる!お口を開けて!!もっともっとお菓子をたべさせてあげるからぽっちゃり令嬢になるがいいわ。」

午後からの勉強休憩の合間にメロウはナタリーの部屋に沢山のお菓子を持って来ていた。

色とりどりのマカロン、イチゴタルト、チーズケーキ、マロングラッセを矢継ぎ早にナタリーの口元へと進めていく。

ぽっちゃり令嬢とは程遠い薄い身体に、最近漸く手入れを丁寧に仕上げるメイドが付いた為ナタリーの茶色の髪は流れるキャラメルの様に艶々として天使の輪が出来ていた。


「ふん、やっとお義姉様も令嬢らしく見えてきましたわ!」とメロウが毒づく。

「はい、お口開けて!あ~ん。」

「じ、自分で食べられるわよ、メロウ・・・。」恥ずかしそうに口元を隠す。

「ダメよ、私がお義姉様をぽっちゃり令嬢にするんだから。」

「メロウ・・・一遍には、無理よ・・・モグモグ。」

「うふふふ、一杯口に入れてシマリスみたい、次はイチゴをあーん!」

喜々としてメロウが運んで来るカトラリーをナタリーは素直に口にいれた。



「ナタリー様!!アントニオ様がご訪問していらっしゃいますのでご支度をお願い致します。」

突然のメイドからの報告にナタリーは虚を突かれ慌てて立ち上がった。


「・・・・・・大変、知らなかったわ、直ぐに参ります。」


一体いつから来ていたのかさえ報告が入ってこなかった。

若いメイドがナタリーの婚約者の名前を告げ、急ぎ促そうとナタリーの背中に手を添えた。


「ちょっと!待ちなさい!私の用事が済んでいないわ!勝手に連れて行かれると困るのよね。」

メロウは不快を露わにしメイドを睨みつける。

「で、・・・ですが、ご婚約者様のお迎えのご用意をするのがナタリー様のお努めでございます。」

「そんなの知らないわ!貴女は下がりなさい!」

無茶な返答な上に一喝されて、不満げにメイドが下がって行った。


「ナタリーお義姉様を私が今日は着飾ってあげるわね、ソアラ手伝って頂戴!」

言うが早いかメロウはさっさと支度に取り掛かる。

「メロウ・・・い、いいわよ侍女みたいな事しなくても・・・。」

「フフフ、残念ねお義姉様、アントニオ様はお義姉様とは不釣り合いよ、私に頂戴?」

「え?・・・メロウ・・・まさか、冗談よね?」

「いいえ~?私は本気よ!?アントニオ様を奪っててあげるからね?」

またも天使の様にメロウが笑った。



◆◇◆◇◆◇



 「いつまで待たせる気だ!!」開口一発ナタリーを睨み舌打ちをする。

「長く待たせた癖に謝罪もなしか!?冴えない老婆みたいな服を着やがって俺に嫌がらせのつもりか!?」


 赤い短髪に黒い目が似合う少し神経質そうな高い鼻をフンと鳴らす。

アントニオ・ギブソン男爵令息(17歳)

女に侮られたり舐められたりするのを殊の外嫌う高圧的な男であった。

ナタリーの母親が亡くなった事により子爵家の経済事情が悪化する一方だった為、ナタリーの父親が支援を取り組む政略結婚を異例の早さで結んだ婚姻だった。

ギブソン男爵は二男のアントニオを子爵家に婿養子に入らせ子爵家は潤沢に回っている男爵の海の交易ルートの確保を約束されたモノであったが、アントニオには悪癖があり、気に入らない事があれば直ぐに激高し、ナタリーの頬を打つ癖があった。


「何故そんなに汚らしい恰好で出てきた?!身なりも整えもせずによくも俺の前に出て来れたもんだ、醜女め!こんな女が俺の婚約者だとは最悪だ!」

あからさまな強い罵りを発してナタリーを蔑む。

こないだ無理矢理キスを迫ってきたアントニオを拒んだ為に平手打ちを2回も浴びた為にナタリーは萎縮しビクッと肩を震わせる。

身形を整えたのはメロウとソアラだが、この風体はきっとアントニオが嫌がるのを知っていてわざと着せたのだろうとナタリーは思ったメロウが執拗に綺麗に整えるのを抑え、付き人のソアラも黙って思案しながら一緒に着せたのだった。

(アントニオ様は怒り心頭だわ・・・また私を打つのかしら、怖い。)


怯えるナタリーのその姿に気を良くしたアントニオは嗜虐的思考を持つ下卑た顏をしてナタリーの腕を掴んだまま顔を近づけ様とする時に声が掛かった。


「アントニオ様?初めまして、私はメロウ・スティングレイと申します。」

「ナタリーお義姉様の妹になります、どうぞお見知りおきを宜しくお願いしますわ?」

2人の間を割って入るかの様にメロウは勢い良く挨拶をして見せた、ピンクのフリルがふんだんにあしらわれたスイートピーの様な可憐なドレスに髪を花で飾りたて、蠱惑的な上目遣いでアントニオに近づいた。


「はっ、君は妹御?・・・そ、そうかこちらこそ宜しく。」


アントニオは一瞬怯んだが、メロウの可憐な出で立ちと胸に光るビジューがキラキラしているのを見て機嫌が良くなる。

「お義姉様から素敵なご婚約者のお話をよく伺っておりましたのよ?本当にアントニオ様は素敵な方でいらっしゃいますね?お義姉様がとても羨ましいわぁ。」

瞬きを激しく繰り返してメロウの大きな瞳がアントニオを捉えている。


「ああ、そうかナタリーから聞いたのか。」たちまち上機嫌でアントニオは鼻の下を伸ばす。

「えぇ、お会いしてよく分かりましたわ!美丈夫で、逞しくて、こんなに格好良い方が婚約者様だなんて~全然知らなくてズルいですわぁ。」

初対面であるにも拘わらずメロウはアントニオの腕にソフトタッチをしてみせる。


「私、もっと早くにアントニオ様とお会い出来ていたらなぁって考えてましたの、今日やっとお会い出来て僥倖にございますわ。」

天使の様にジュリアお墨付きの微笑みをアントニオの鼻先で披露する。

少し開いたおちょぼ口からピンクの舌がチロっと見えて官能的だ。


「はは、メロウ令嬢はなかなかお上手だな。」


アントニオは陥落寸前で脂下がっていた、メロウはグイグイと近づいて話し掛け、とうとう肩口にまで近づき甘くとろける様な目をしてターゲットを捉えれば残り数センチ程で唇同士が引っ付きそうな距離になり最早、恋人同士の様な世界が繰り広げられる。


ナタリーはその様子に呆気に取られているが、お茶の用意をするメイドの手がブルブルと震えている事に気がつき尋ねようと思った矢先にメイドはカップをテーブルに乱暴に置いた。


「あらぁ?貴女なぁに?!」メロウは挑発的な口調でメイドを睨めつけた

「アントニオ様!酷いっ!!あんまりです!私、・・・わたしっ!こんなの見たくない!」

メイドの目からボロボロと涙が零れている。


「ナタリーならまだしも!!こんな平民女を相手にするなんて、私だけを愛するって言ってくれてたじゃないの!!何なの!!?」

「な、なな、何を言っているんだこのメイドは!?」アントニオは眉間に皺を寄せて強く否定する。

「アントニオ様?!どうしてそんな冷たい言い方するの!?2人きりの時には真実の愛は私にくれたのに!」メイドは自尊心を傷つけられ泣き喚いた。


「ちょっと!平民は貴女でしょ?!身の程を弁えなさいよ?没落令嬢のくせに!!」

メロウは火に油を注いだ。

「うるさい!うるさい!この泥棒猫!阿婆擦れ!あんたなんかアントニオ様は本気にしないわよ!!」

「あはは、貴女だって遊ばれてるじゃなぁい?!ナタリーお義姉様の婚約者を奪ったメス豚のくせに!」口元を歪めて罵る。

「メ、メス豚ですって?!黙れこの売女ぁぁ!!」金切声で鍔迫り合いが始まる。


「ちょ・・・ちょ・・・やめないか!!」

騒ぎを起こされると不味いのでアントニオが仲に入る。

ナタリーはこの修羅場と怒号が飛び交う状況に付いていけずメロウの傍でオロオロしながら手を握り締めるしかなかった。


 「どうかなさいましたか!?」家令のトマスが来客室に入って来た。


「トマス、このメス豚メイドからアントニオ様との不貞の報告が入ったのよ、事実かどうか確かめて頂戴。」メロウは溜息を一つ零すと冷静に事を告げる。


「なっ!!メロウ嬢、このメイドは噓を吐いているんだ!私は不貞などしていない!」

アントニオは顔色を変え慌てふためいて否定をする。


「あら、そうなんですの?でも契約書類と事実関係は改めて確かめなければなりませんわ。」


「そ、そんなこのメイドの世迷言を信じるのか?!」

「信じるも何も、貴族間の契約はお家同士の大切な誓約ですから事実か否か、誤魔化されたりされますと子爵家の沽券に拘ります、貴族であるアントニオ様は十分ご理解されておられるはずですわよね?!」有無を言わせない迫力でメロウは理詰めに話しかける。


 女性だけに純潔を強いている癖に男性は不貞を働いても良いという事にはならない。

厳しい契約で政略結婚であるからこその誓約なのだ、不正や不誠実は貴族の商いでは最も嫌う所業である。

周囲の言質と摺合せの上、事実と無実を両家で判断しなければならない、それでも食い違えば裁判となる、貴族同士の裁判沙汰となれば大きなニュースになってしまうであろう。

先程の甘い雰囲気が霧散されたかの様なメロウの義務的な態度にアントニオは青くなり拳をブルブルと震わせた。


「では報告は子爵家から連絡致しますので建設的な話題になります様、願いますわ。」

「さぁ、ナタリーお義姉様参りましょ?」

「あ、そ、そうね・・・落ち着いて後日話を致しましょう。」安堵したナタリーはメロウの手を握った。

「トマス、そのメス豚メイドとギブソン男爵令息の事情聴取をお願いね。」

「はい、メロウ様、しかと賜りました。」

トマスが丁寧にお辞儀をした。


「ま!待ってくれ!!違う、違うんだ、これは間違いなんだ!!ナタリー!」

アントニオの手がナタリーの肩に触れようとした瞬間に大きく弾かれた音が来客室に響いた。



「ナタリーお義姉様に触るな!!」


 燃え上がる様な強い碧の瞳でメロウはアントニオを睨み付けその手を扇子で力一杯大きく弾いたのだ。

いつもの癇癪ではなく、不誠実で嘯くこの男に対しての最大の嫌悪を全面に出して拒絶する。


「貴方がお義姉様にしてきた仕打ちを知らないとでも?!このままでは済まさないから!」

「な、なんだ!き、君も懸想して姉から俺を盗りたかったんじゃないのか!?」

「そうね、お義姉様のモノなら何でも欲しいけど・・・。」


「メス豚メイドのお下がりなんて死んでも御免よ!!」


その後、家令のトマスが有無を言わさぬ力でメイドとアントニオを静かに来客室から連行して行った。


数日後に正式にギブソン男爵からアントニオ有責の元、婚約解消の連絡が入った。

メイドとの不貞が明るみに出たアントニオに対して家族からの苦言としてメロウが申し上げたのが効いて、父親であるロア・スティングレイ子爵が直接ギブソン男爵家に契約違反を呈した。


アントニオは、ナタリーに対して暴言だけではなく暴力を振るっていた事も露呈し、メイドとの関係等も赤裸々に暴露されて十分にギブソン男爵家の醜聞となった。

どうやら鼻の利くパパラッチがいて貴族ネタを探していたらしい。


しかし父親であるロア・スティングレイ子爵はナタリーを今迄蔑ろにし、幾度か申告にも耳を貸さずに来たことが召使達が子爵家を軽んじる発端としていた為今回も危うくメロウが騒ぎにしなければ握り潰される所であった。


「あのメイド、ナタリーお義姉様の前で堂々とギブソン男爵令息ではなく“アントニオ様”と言っていたわ、召使いの分際で誰のお屋敷で使われているのかも判断できないなんて!」

メロウは自分の事は棚に置いてナタリー付きのメイドを又1人首にした。


「アントニオ様との婚約が潰れて本当に良かったですわ!そうだ!!私がナタリーお義姉様の結婚相手を探して上げますから!そうだわそうしましょ!」


「いいのよ、暫くはそんなに婚姻の釣り書きも来ないと思うからお父様も吟味して下さるわ。」

「いいえダメよ!お父様に任せていればロクな事にならないのよ!ジュリアお母様もね!!」



自分の人生が掛かっているであろう局面で諦念した顏の義姉をみてメロウは薄い唇を嚙み締めた。

ナタリーは諦め過ぎている、この家の跡取りが自分であり父親は婿養子で子爵家を後継出来ないのである。

それなのに早々にナタリーを追い出そうと画策している。

メロウは断言する、この子爵家をあの2人に任せてしまえば5年と経たずに没落するであろう事を。


「私があの2人からも奪ってあげなくちゃ!」メロウは口元を吊上げ不敵に笑った。


1年前に登録したまま投稿始めて3ヶ月・・・ド素人ですが、よろしくお願いいたします。

あとがきは時々追記したりしておりますスミマセン。

書き損じとかやらかしております(゜_゜)

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