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勇者レイ

魔王城で勇者である俺が、仲間の力を借りて魔族の王である魔王を討伐した直後の事だった。

勇者の俺レイは血塗れの治癒術師のアリスを治療していた。


俺は魔王にあと一歩のところで追い詰められ殺されそうになった時、彼女が庇ってくれた。


ただ皮肉にもその一瞬予想外の状況に魔王に隙ができ、それがきっかけで討伐できた。


しかし魔王の攻撃をもろに受けた彼女も、瀕死の重症を負ってしまい、何とか治療を続けるも意識が戻らない状況だった。


「どうして…血は止まったのに…」

「目を覚ましてくれよ…また、俺は…」


あの後、すぐに回復魔法をかけたおかげで、出血は止まった。


でも一向に意識が戻らない。

俺の中で焦りが生まれ、最悪の想像が過ぎる。


「嫌だ…絶対に助ける…!」


彼女は魔王討伐に参加したパーティーの最後の生存者。

他の仲間は魔王との死闘で跡形もなく消し飛ばされてしまっている。

そして将来を約束した人でもある。


だから俺は何とかして彼女を…


いや何としても彼女を助けるために、残った力を全て使い彼女に回復魔法をかける。


彼女の全身が柔らかい光に彼女が包まれゆっくりと傷が塞がっていく。


「ゲホゲホ…ハァ」


すると血を吐き出しながら、うっすらと目が開く。


「アリス?!」

「俺が見えるか?」


「レイ…くん?」


どうやらちゃんと見えているらしい。

良かった…本当に良かった。


「そうだ…本当に良かった…」

「後は故郷に帰るだけだぞ…!」


それを聞いて彼女は穏やかな表情を浮かべる。

そして…


「ねぇ…私何だが寒いんだぁ…」


彼女は寂しそうにそう呟いた。


俺はその言葉である事に気が付き背筋が凍り付く。

冷や汗が止まらない。



治癒魔法には2つある。

1つは、肉体の傷のみを癒す簡易治癒魔法。

もう1つは治癒術師の才能がある者だけが使える、体の異常全てを癒す治癒魔法。


俺が使える簡易魔法では失った血や体力、病気何かは直せない。


そしてボロボロになった床を見ると血溜まりが出来ている。

本来なら既に失血死しているレベルの量…


「どうして…」


動揺する俺に彼女は優しく絞り出すように呟く。


「私ねぇ…夢が…あるんだぁ…」

「平和になったらねぇ?何処か穏やかな所で…一緒に暮らすの…」


「そうだな…後もう少しで…叶うぞ…!」


本当にあと少しなんだ…

魔王は倒した。

後は帰るだけ…


なのに…


目頭が熱くなる…

あぁ…ダメだ…


「でも…ものすごく眠いの…」

「今眠ったらその夢…見れるかなぁ?」


そう言いながら彼女は穏やかに笑う。


「ダメだよ…それは、夢は…起きて見ないと…」


彼女は悪戯っぽく笑う。


「ふふ…そうだね…」

「でもどうしても眠いの…だからね?」

「弟に…フィンにごめんねって伝えて…」

「そして、私は…」


そう言いながらゆっくりと彼女は…最愛の人は永遠に眠ってしまった…


「あ…あ゛あぁ…!」

「また…まただ!」

「お前は本当に弱いなぁ!」

「好きな女も守れずに何が勇者だ…!」

「死んじまえ…!」



今まで我慢していた感情が一気に吹き出し慟哭がこだまする。

でも…その声に答える者はもう誰もいなかった。





どれくらい経っただろうか。


気が付くと手の中には冷たくなりながらも穏やかに微笑むアリスの姿があった。


それを見ると堪らず涙が溢れ出す…


いっその事…

一瞬良からぬ考えが頭によぎる。


だけど…

それは違う。


「ダメだ…」


言い聞かせるように呟きゆっくりと立ち上がる。


「帰らないと…」


帰って皆の生き様を伝えないと…

それが俺が残った…最後に残された責任だから…


俺は眠ったままの彼女を背負いゆっくりと重い足を踏み出した。





―――――――――――――――――――






「はっ…!」

「夢か…」


目を覚ますと。

全身嫌な汗で濡れ冷たくなっていた。


アレから1年

俺は魔王討伐の褒美に一生遊んで暮らせる程の金を貰い、その金で山を買い引きこもっていた。


本来なら、魔族との戦争で被害を受けた街の復興作業があるのだが無理を言って休ませてもらっていた。


「う…」


俺は夢の内容がフラッシュバックし吐き気に襲われ洗面所に走る。


「うおぇ…」

「ハァ…またか…」


俺は仲間の死、特にアリスの死がトラウマになっていた。

未だ、昨日のように彼女の死に顔が目に浮かぶ。


「ハハッ…ほんっと…なんで俺だけ生き残ったんだろうな…」


あの戦いで生き残ったのは俺1人…

今はもう苦楽を共にした仲間は居ない。


ふと洗面所の鏡を見るとそこには、やつれて生気のない白髪の男がいた。


「もう…これ以上は…」


涙が流れる。

正直限界だった。


最初は何とか先に逝った彼等の分までと思って生きてきた。

でも、今はそれすらもつらい…


「終わらせよう…」


言い聞かせるように呟きながら寝室に戻り、ベットの横に立てかけている剣を手にする。


「……」


無言で鞘から剣を抜き首に刃を当てる。

後は思い切り引くだけ。


なのに…さっきの夢で見た血溜まりが頭をよぎってしまう。

手足が酷く震え冷たい汗が滲む…

動悸も激しくなる。


しまいには

カタカタッ

と音を鳴らし始める。




結果

その刃が血に染まることはなかった。





―――――――――――――――――――






それからしばらく、俺はベットの上に転がっていた。


「旅にでも出るか?」


ふとそんな事を思い付く。

正直ここに居ても死ねる気もしない。


と言うか自死が無理なら定期的に王都から俺の様子を見に来る様になっているせいで死ねない。


なら、各地の視察と復興と言う名目で旅をするのがいいかもしれない。

それなら道中思わぬ事故にあったり、魔王軍の残党から襲われたりして死ねるかもしれない。


他にも難易度の高そうな魔物の討伐依頼を受けるのも良いだろう。


正直今の俺はアリスを助ける為に力を使い果たして魔力が無い体になっている。

おかげで全盛期よりはかなり弱い。


つまり、そこそこの相手がいれば死ねる可能性が高い。


「そうと決まれば準備をするか…」


俺は久しぶりに能動的に行動をするのだった。

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