72 戦闘外装
──BEEP、BEEP、BEEP。
ん……。
電話……?
私は片目からゆっくり開けて、ゴロンとベッドで伏臥位になると、枕元のスマホを見る。
そこに表示されていたのは現在時刻が深夜三時半であるということ、そしてその相手がキュクロプス寮の十四年生、鉄床コタツ先輩であるということだった。
私は電話に出ることにする。多分無視したら永遠にかかってくる。
「はい、もしもし」
『おー。このスマホってのはほんとに便利だなガラス!』
ガラスくん先輩──そういう呼び方がしっくりくる──も居るのか。というかスマホ使ったことないのか……。
「どうしたんですか? 緊急ですか?」
『いや、声が聞きたくなってな!』
付き合いたての彼女かよ。
「切りますね」
『だあー! 待った待った。違うんだよ。あんたの戦闘外装、最終調整してんだけど、依頼人がどんなヤツか、もっかいちゃんと把握しとこうと思ってな』
最初からそう言おうね……。
『機能面に関しては、定期試験の中継見ながら作ったからいい感じになってると思う。だけど、最低一回は適合してるか見たいから合わせたくてなー』
「なら直接行きますよ。電話だと限界あると思いますし」
『お、そう? あー、勉強で忙しいと思ったけど世間は夏休みか!』
コタツ先輩、世間と時間ズレてるんだろうな……。
『じゃ、今日のうちならいつでもいいから、待ってるわー』
「はい、ありがとうございます!」
──ツーツーツー。
うぅ、目が覚めちゃったぜ。
ちょっと早いけど走ろうかな。それから二度寝して、食堂へ行こう。
私はパジャマを脱いで、運動用の軽装に着替えた。
***
その日のお昼頃。
私はリオン先輩との午前スパーリングでボコボコにされたあと、シャワーを浴びてから第一校舎第二塔へと向かった。
なんだか、身体が軽い。なんでだろう。
ふと登ってきた螺旋階段の中を覗く。そしてわかったのは、数百段あっても大丈夫なのは、身体が育ったからだということ。
ふふん。嬉しいや。
それから扉を叩くと、ガラスくん先輩が出迎えてくれて、奥には布が覆い被さったトルソーが置かれており、隣にコタツ先輩が居た。
「いらっしゃい」
「それが……私の……」
私がふらーっと近づこうとすると、突然、ガラスくん先輩に両肩を掴まれる。
「ん?」
そして。手をわきわきさせながら近づいてくるコタツ先輩。え、なんですか、そういうやつですか!? こ、この変態!
ぺたっ。
彼女は私の墨色の肌に触れて、そこについた稲妻が走ったような傷跡をそっと撫でる。私は拍子抜けした。
「これ、痛くないの?」
「え? あ、はい。もうその形で治っちゃったので」
「ごめんね、もうちょい触るね」
コタツ先輩はペタペタと傷跡を見て、なるほどと呟いて見まくった。
「私が思うになんだけど。『終わりのない衝動』は感情を魔力によってエネルギーに変換する効率を最大限に引き上げるものだと思うんだ。だけど、それが射出されるのは手のひらの数センチ先とかじゃない。起爆点は恐らく腕だ」
「確かに……肘めっちゃ痛かったです」
「亀裂が肘に向けて走っているのではなく、肘から腕にかけて走ってるからね。──機構は銃と同じだ。砲身に熱がこもれば連射は出来ない」
「でも一撃必殺系の技なので、連射って……」
ぴこんとデコピンされる。
あいたっ。
「戦場で一発打ってはいさよならという訳にはいかないでしょーが。最大火力が必要な場面なんて、実は少ない。だから、少ない火力でいいからちゃんと継戦できるように練習しなね」
不刃流はこれまで定期試験のためにしか運用を考えてなかった。でも、将来を考えるのなら、これを武器にしない手は無い。
身体への負担を減らしつつ、継戦能力を高める。
なんとなく、次に私が何を目指すべきなのかがわかった気がする。
「コタツ先輩。ありがとうございます。私……目先のことで、本当にすべきことを少し見失っていました」
「素直な子は、好きだよ。……理解屋なんて素直さの欠片もないんだから」
?
「ま、ともかく、もうちょいオーダーの確認しよう。前に来た時より成長してるだろうから」
「それは……胸部も……?」
「いや、むしろ痩せてる」
私は絶望した。
「はははは。お年頃だねぇ。だけど感情を武器にする以上は、きっとそれが正しいんだ。あたしらにはあくまで武装で、お手伝いをしてやることしかできない。だから、ちゃんと強くなりな」
「はいっ!!!」
コタツ先輩、伊達に十四年生じゃないなぁ。そう私が感心していると……。
「じゃ、脱ごうか」
「え?」
「ガラス。拘束具」
「ん?」
「完全なモノを作るには、完全な採寸が必要、だからね……」
げひひひと笑ったコタツ先輩は私を剥いて音速の採寸を始めた。
やっぱ創造視紋って変な人しか居ないわ!!!!




