37 決戦前夜
1年生の試験本戦の前日までには全校にアナウンスがあったが、詳細はやはり語られることは無かった。
眼帯先生曰く、乱数特異点の異常活性ということになっているらしい。
確かに今、十三獣王の三柱がこの学園に関わってるなんて知られると割ととんでもないかもしれない。
国に見つかったら……解剖とか……されるのかな……監禁とか……。
そういう不安はやっぱりどうしても拭えないけど、今は幼女学長の言うことを信じて、今できることに専念しようと思う。
折紙アレンと不刃流でぶつかること。
東雲スズカを本気でぶちのめすこと。
そして、優勝すること。
自分の力を認めて、受け入れて、ちゃんと使ってあげること。
それらをちゃんとやること。
今の私にできることはそれだけだ。
「シオン大丈夫?」
はっとして、私の胸を揉んでくるナズナを見つめる。何してんだてめぇ。
「ごめんちょっと考え事してた」
ひとりがけソファに無理やり座ってきたナズナ。うーん、暑い! ただでさえこの子体温高いのにお風呂上がりだからさぁ! いい匂いすんだよね!
「最近、色々ありすぎたもんね」
「でも、ちゃんと清算するつもりだから、安心して欲しい。私がちゃんと──」
すると彼女は腕をにゅっと伸ばして私の頬を握った。むにぃっと伸ばす。
「なによ」
「無理しないでね」
「でも、それしかできることないし」
「あたしね、シオンが好き」
今好きって!?!?
「憧れなの。入試で初めてあなたを見て、あたしは今まで何かのためにここまで全力出したことあったかなって思った。それで、今度はあたしも頑張れたの」
「そっか」
「うん。そうなの。あなたはあたしの憧れで、いつもハチャメチャに頑張るところが大好き。でもね、きっとそれには限界がある」
「限界、かあ」
そ、と彼女は優しい声で言った。
「あたし、シオンよりシオンのこと大事に思ってる自負あるよ。自己犠牲は、素晴らしいことかもしれないけど、必ず答えになる訳じゃないと、あたし思うんだ」
「どうすれば、いいかな」
私はただの日陰者で、魔剣師オタクで、頑張るしか能がない、そんな自己評価は今も変わらない。
きっとトーナメントでも、窮地に陥ったら、なんだかんだ言って、自分の身体に無理をさせるのかもしれないとは思っているし、それを良しとしてしまっている節もある。
けれど、それはダメだよと私の親友は言ってくれる。私より私を大切に思ってくれる、そんな親友が。
「シオンは賢いのにおバカだね。賢いんだから、自分で考えなきゃ」
「……うん。そうだね。そうする。考えてみる。ちゃんと」
そしてでっかい犬のような彼女はわしゃっと私の髪に顔を埋めてきた。ええい鬱陶しいな可愛いなちきしょう。
「おい、公共の談話室でイチャイチャすんなよ。勉強が捗るだろうが」
姫野に文句をつけられる。部屋でやれ部屋で。
「いやー、部屋で折紙がずっと真言唱えてんだよ……。怖くて勉強もくそもねぇ」
「なにそれこわい」
やっぱり私は暑くなったのでナズナにソファを譲り渡し、食堂へ向かう。冷蔵庫からサイダーを3本持って談話室へ戻った。
「は? 気が利くよなお前最高かよ」
「ありがとう〜!」
「チアーズ」
3人で乾杯してしばらくくだらないことを話した。学長が言っていた。青春しなって。だから、してる。そうでなくても、するけどね。
「この前の前夜祭、楽しかったねぇ」
「あー、サイダーで思い出すよな」
「ナズナが牛乳で酔っ払ったのもね」
「なんで牛乳で酔えるんだよ……」
「キューブリックのせいだもん!」
わからん。
「それでね、後夜祭したいの。あとは女子会もしたい。夏休みに入ったら合宿とか。いっぱいしたい」
「いいな、オレも女子会参加したい」
「黙れ」
しゅんとする姫野は放っておいて、ナズナが続けるのを待つ。
「もちろん、全員でだよ。ラタトスクのみんなでやるの。ひとり欠けてもダメなんだから」
「だね。私も、ラタトスクが好きだから」
「オレだけハブかよ!」
「女子会にハブなんです!!!!」
そりゃそう。
「まっ、アイツも含めて女子会やってやってくれよ。そしたらオレも安心して寝れるからさ」
「もちろん! みんなで、だもん!」
「その目のクマ、やっぱ寝れてないんだ」
「まあ、幼なじみだしさ。アイツの事だから、大丈夫だとは思うが──」
珍しく神妙な顔つきになる姫野。
「問題は兄様達が来ることだ」
東雲スズカの兄達は皆円卓騎士になっていると聞いた。それが胸糞の悪いプレッシャーを彼女に与えた。
「東雲さんはテミスが出てきて、私を守ってくれたんだ。もちろん貸し借りを気にしてってのもあるかもしれないけど、それでも、心を開いてくれていた」
それをまた閉ざされたらたまらない。円卓騎士だかなんだか知らないが、家族に高圧的なやつはろくな奴じゃない。
「とはいえ円卓騎士にたてつくとかやめろよ? あの人たち剣聖が空座だから、実質のトップなんだ」
「たてついたら、どうなるんだろうね」
そういうとげんなりする姫野。
「まあ、任せるよ。オレはアイツが素直に笑ってくれたらそれでいい。そんで、アイツが笑えるのはここだけなんだ」
サイダーの底をコツンと合わせ、飲み干す。
今日はもう寝よう。明日の決戦のために。
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