305 虚空|奸計
「それで俺らはどうすりゃいいの? 戦争終わるまで見守ったけど」
「お主。何も聞いておらんかったのか? 阿呆め」
「あほは言い過ぎだろ。てか腹も減らない眠くもならない、ここなんなの?」
「虚空としかわからぬと言っておろうが。妾達は見つけなばならんのじゃ」
「何をだよ」
「この水晶の中から、重要な記憶を、じゃ」
「ヴァニタスは結局何か思い出せたのか~?」
「──ああ」
「っておいおい。何を思い出したんだよ」
「お主、デリカシーがないのう。言いたくないことだから言わんのじゃろうが」
「でも巫女と観測者とヴァニタス。この三人が結局何のためにここに集められて、何のために見届けるのか、具体的にはわかんねぇままじゃん」
「まあ、具体的に、と言われたらそうじゃが……。観測者はそのカメラで何かわかったことはないのか?」
「カメラねぇ。浅倉シオンの人生とか、ラウラの話とか。知ってはいるけど、俺には今んとこ関係ないし。冷帝って奴が悪いってことは、輪っかの奴から聞いたな」
「ネグエルはもう来ないのかのう。妾たちはあやつの話を鵜呑みにして良いのかもわからんわい」
「──恐らく、偽典はもうこない」
「え? なんで?」
「──冷帝に迫れる最大のチャンスを逃したからだ」
「ほう、この戦争がそうじゃと?」
「確かに、最後に冷帝がロアを乗っ取った時、討てばよかったんじゃ?」
「無理じゃろ。器が壊れたとて、宇宙規模の存在に傷ひとつつかんわ」
「今ってさ、世界は三つに分かれてるよな。結局」
「そうじゃな。超大陸オラシオンに収束した『物質界』、冷帝がそのほとんどを掌握する『形而界』、そして忘れ去られた総ての可能性が漂う『虚無界』」
「それ今名付けたの? かっけー」
「うるさいわい」
「俺らは虚無界から出られないよな。ってかそこらへん浮いてるのって、他の世界の可能性か? 魔刃学園が元々あった世界とかも──消えちゃったのか?」
「浅倉シオンが一度『救済』したときとは違って、大きく分断された先に隔離された様じゃな。マルチバースは消失し、物質界が唯一の世界となった」
「なんだか悲しいな──って、浅倉シオンはまたそれを取り戻そうとするんじゃ」
「かもしれぬが、ようわからん。海上の要塞、方舟で一体何をするつもりやら」
「ところでさ。シャンバラってのは結局どの世界にあるんだ?」
「これは仮説じゃが、全ての世界の中心にあるのではないかと踏んでおる」
「ベン図みたいにした時の真ん中ってこと?」
「なんじゃ、阿呆でも理解できるんじゃな」
「おい」
「ほほほ。──ま、妾たちはここからただ見守るしかあるまいよ。ここは虚無界。声は虚空にしか届かぬ、闇の底。狭間の世界なのじゃから」
「副音声みたいな感じ?」
「なんでお主はすぐ俗っぽくしたがるのじゃ……」
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