301 世界がひとつに戻った後に
すっかり髪の毛が銀灰色になったロアは、半透明の黒目が見えるほどにうっすらと目を開いた。彼は酷い頭痛の気配を側頭部に感じたが、その実、身体における痛みなどはほとんどなかった。天井の模様に覚えがある。
「ポップの、部屋……?」
彼の想像通り、そこはポップコーンの私室兼医療部屋だった。だが、ポップの姿はなく、代わりにそこには、見慣れた女の子がいた。
「寝坊ですかロア。いい御身分です」
そんなジョークを怪我人に言えるのは、否、ロアにだけは言えるのは、一人だけだ。セナ・オーブリーはロアに向かって飛びついた。ロアに痛い所がないとはいえ、セナも人間であるし、そこそこ重く、ぐえーっと声が出る。
「今、重いって思いました?」
「思った」
「サイテーです」
くすくす笑うセナを見て、ロアはようやく、戦争は終わったんだなと感じた。その安堵も束の間、彼はデルタの事を考えていた。それがさっきなのか、いつなのかはわからないが、デルタに告白をされた気がするのだ。
「なあ、セナ。デルタがどこにいるか知らないか?」
「デルタならあなたの事つきっきりで看病して、今は寝てますよ」
おむつを替えるのもデルタがやったと聞いて、ロアはかぁっと熱くなった。恥ずかしい限りである……。
「デルタにはどうお返事するんですか?」
「考えてるんだ。多分答えはもう出ているんだけど」
「そうですか。でしたらよかったです。私の親友を泣かせたら承知しません」
「それは答えを限定しているのでは……」
ロアはたじたじするが、セナにとっては真剣なことである。ともあれ、そこまでロアを責める気でもないし、ロアがデルタをこっぴどく振るような人間にも思えないので、それはセナなりの優しさだと言えるだろう。
「じゃあどう答えるんです?」
「キミには教えない。言うべき相手に伝えるよ」
「百点の解答です」
セナはそう言うと、ベッドの端からぴょいと跳ねた。
降りて、振り返って、微笑んだ。
「終わりましたね。全部」
その言葉は、優しさに包まれていた。ゴールデンゲートブリッジでの決戦は、ようやく終わったのだ。それを改めて理解して、肩の荷が下りる。
「でも、まだ終わってない」
セナは不思議そうにする。
「僕らはまだ、シャンバラを歩いてないだろ」
そう。門を開けて、その先を見ただけなのだ。まだ、踏みしめてはいない。
「ですね。まだまだです!」
ふたりの探検家は、そう言って、拳を突き合わせ、次なる旅路を思い浮かべた。
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