300 方舟|最終方程式・後編
「動いていなかったクイーンが、躍動し始めたね」
「僕の味方のはずだけど、まるで君の味方をしているような筋だ」
「きっとそう言う事なんだよ」
ロアは目の前の少女を視た。
そこに浅倉シオンという人物がいるはずだった。だが、そこに居たのは全てだった。運命に連なる全て。ラウラ・アイゼンバーグに始まり、セナ・オーブリーに終わる、ロアという空白を埋めてくれた、全て。
同じく空白であった浅倉シオンが、彼の胸中に届けたモノ。この白い、居心地がよく、帰りたくない理想郷から、帰るために必要なのは、誰かとの思い出、鍵だった。
そう、冷帝はロアの内在世界がシャンバラであると知っていた。だが、ロアの無意識が、冷帝を理想郷に入れるのを拒んだ。その拒絶反応が、この最後の聖戦なのだ。浅倉シオンは彼の心を解きほぐすことで、この難問、最終方程式を解いた。つまり、その世界に入る為のたった一つの鍵、それを──。
「世界はそれを愛と呼ぶんだ」
目の前の女性は、ロアの事を、たったひとり、真剣に愛した少女だった。
「デルタ」
頬が赤いその女の子に、その場所を渡して浅倉シオンは世界を出る。デルタは、巨大な門を前にして、臆した。だが、大好きな男の子が、心を閉ざしている。何とかしてあげたかった。
「ねえロア」
「?」
「あたし、もっかいいうね」
「うん」
「ロアの事が、大好き」
× × ×
「シオン、シオン!!!!!!!」
外に戻ってきた浅倉シオンは自分の耳がおかしいことに気付く。聞こえが悪い。まあいい。あとは、あのデルタって子がきっとシャンバラへの戸を開けるだろう。サリンジャーからの荷物も渡した。
ロアを解読してわかったことはひとつ。彼と自分が同じだという事。誰かが苦しみ、泣き、悲しむ世界など、決して望んではいないことだ。
彼なら、愛を届けられた彼ならきっと、この世界を消滅させはしない。新世界など大仰なことを言うつもりはないけど、きっと良い未来を創り出してくれる。
きっとこのクロニクルを継ぐために、世界を、よりよく──。
祈暦の終わる時。しばらくして、一筋の光が天を貫いた。
曇天という緞帳は斬り裂かれ、そして、世界は開く。
量子レベルで世界は、作り変えられていく。
今までのすべてを無かったことにはせずに、大切に包んで、未来を歩くために、その青年は、光を──放つ。
青年ロアはシャンバラで見つけた、不定形のハコに願う。
「僕らに、黎明を──」
そして世界は、光る。
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