表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/372

296 黎明|会心の一撃②

「どう? 私の友達があなたの部下を二人殺したよ」

「否定。あれらは部下ではなく盟友」

「そ。怒る?」

「否定。そこまで親しい関係ではない。事実、我々は目的を同じくするのみ」

「あなたが一人になっても続けるの?」


 ラウラ・アイゼンバーグがティーテーブルを挟んでフロイトと話し始めて実に2000時間が経過した。──というのも、ラウラは自分と彼とを包む一帯の空間をティーテーブルという緩衝材を用いて切り取ったのだ。切り離したと言ってもいい。周囲から断絶したのには理由が二つあった。


 まず、ラウラ自身がフロイトの事を知らねばならなかったからだ。


 黎明旅団最強の支部長と名高いラウラ・アイゼンバーグだが、その実彼女は全ての判断を、極めて精緻で丁寧な計算の元行ってきた。彼女と付き合いの浅い人間、否、深い人間からも、ラウラ・アイゼンバーグは気まぐれだと思われているが、彼女は盤上の駒と形勢判断を誰よりも行っている。加えて、その計算が今まで狂ったことが無いからこそ、彼女は最強なのだ。


 故に、彼女はフロイトという脅威の対処を手掛けるにあたって、彼のことを知ろうと思い、ティーテーブルを用意した。思惑通り、彼は紳士であったので、空気全てを反物質化する攻撃は発動させながらも、ラウラの対話に応じた。ラウラはフロイトと言葉を交わして、分かったことをふと思う。


「(これはダメだ。もう狂ってしまっている)」


 時間の流れが違う断層の向こうの戦場で、臨界ゼレーナを見た時もラウラはそう感じた。まるで全ての駒がクイーンであるかのように振る舞うのだ。極東のゲーム、ショウギとは違って、そのクイーンはとっても使えない。


 クイーンは破壊と平和の象徴だと常々ラウラは思っていた。そして自分にも似ていると。破壊的な力は抑止力となり、平和を作る。故に、女王なのだと。だが、ラウラはその時点で一手負けていた。偽典ネグエルはプレイヤーとして駒を操る。当然、盤外から。クイーンという、落とす事が可能な駒である限り、ラウラ・アイゼンバーグはプレイヤーではないし、プレイヤーを倒せない。


 では、クイーンとクイーンのどちらが強いのか。


 答えはない。どちらも等しく、強いのだから。


 故に、ラウラ・アイゼンバーグは先延ばしにした。これが二つ目の理由だ。もしも黎明旅団側にプレイヤーが居ないのなら、このチェスは初めから詰んでいる、と。そして、2000時間の支払い猶予期間も、終わってしまう。


「実行、もう終わらせる」

「もう少し待ってくれないかな。ウチも人手不足でさ」

「否定。我はとても長い時を、またされた」


 席を立つフロイト。ラウラは終わったと思った。奴がこの時空断層から抜け出した瞬間に、空気中の全ての物質が連鎖爆発を始める。大気に引火する。


 だが、その一言がLegionを伝って聴こえた時、このゲームの、味方側のプレイヤーが一体誰であるのかを、ラウラは知る。


「そうか──、あいつは前のループに居なかった、唯一の人間だ」

貴重なお時間を割いてお読みいただき誠にありがとうございます。

お気に召しましたら☆☆☆☆☆からご評価いただけますと幸甚です。

ブックマークも何卒よろしくお願い申し上げます。

ご意見・ご感想もいつでもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いします!

同作者の作品

黎明旅団 ─踏破不可能ダンジョン備忘録─

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ