295 黎明|会心の一撃①
「ほらほらぁ! 殺しちゃうよ? アハッ」
流転コペルニクスは万物を流転す。故に物質を反転させ反・物質へ。その速度はフロイトには及ばないものの、実用レベルには破壊的である。シリウスは腰に付けた逆理遺物に手を突っ込んで次策を考える。
「(コペルニクスは空気中のノルニルを圧縮する速度が段違いだ。ロアには遠く及ばないが、生まれつきと言って良いほど慣れている)」
無能力者であるシリウスは、無能力であるがゆえに、視界が澄んでいる。ロアを初めてみた時に、殺さなければと思ったのは、それが尋常ではない様相を呈していたからだ。極地の底から戻ってしばらく経てば収まったが、アレをロアがもう一度手に入れ、利用するかもしれないという疑念は常にある。シリウスはロアをいつも見るようにコペルニクスを見た。まとう粒子は粒立っており、繊細に彼の指示に従う──。シリウスからすれば脅威でしかない。
だが、逆に言えばロアほどではないのだ。あの化物を相手にしろと言われたら、ラウラ・アイゼンバーグに声をかけ、黎明旅団の全兵力を投入せざるを得ないが──あくまでシリウスの評価である──コペルニクス程度であればシリウスが保有する逆理遺物でも抑えきれるのではないか。
「どぉしたの? 逃げてばっかり。その顔は次善の策を考えているねぇ。徒手空拳では到底勝てない。だったらひみつどうぐで戦うの?」
──おもちゃでボクが殺せるかなァ。
流転コペルニクスは悪辣な顔をするが、その言葉の端々にエレーナの声色を見てしまうのは気の迷いか? エレーナは死んだ。……お腹の子も。火葬をしたのはシリウスだ。毎年墓参りにも行っている。それなのに──。
あの臨界ゼレーナという女は、エレーナにしか見えなかった。
「だが」
そう。
「それが真実じゃないことくらいは明瞭だ」
俺の愛した女は墓の下だ。たとえお前がアイツのファントムだとしても、その子どもが目の前に居るとしても。
「他にも面倒見なきゃならんガキが多いんだよッ!!!!」
──殲滅の代償に俺の魂を持っていけ。その炎々で、焼き尽くせ!!
甘く砂漠を支配する者。
一瞬の内だった。
シリウスは腰から引き抜いた自動拳銃型逆理遺物70口径に自分の寿命20年を支払い、殲滅弾を装填。
引き抜いた速度・角度・位置全てが完璧に、瞬時に計算され、地獄を模した弾丸は、コペルニクスがそれを嘲笑する前に、その威力を全く理解していない流転コペルニクスの存在を消し飛ばし、それを瞬時に察した臨界ゼレーナの半身を焼き、這い出る未知の極地生物を粉砕した。
「……ほぉら、俺もやる時は、やるだろうがよ」
言いながらシリウスは倒れる。エキドナやスノウがかけ寄るも、その代償を支払った工程で持っていかれた気力で、シリウスは昏倒した。
腹の底まで冷え切った臨界ゼレーナは、もう跡形もないコペルニクスの前で泣き崩れ「殺す」とだけ呟いた。残るはフロイトとゼレーナのみ、黎明旅団の全勢力が、ゼレーナに向かう。だが、彼女の召喚した数億の蛇が、先兵を蹂躙し、圧殺した。どうしようもないその膠着のなかで、声が聞こえた。
『全員、地面から離れてくれ。地上に居たら、殺してしまうかもしれない!』
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