29 夜の会話
「だ、誰も来ないかなあ?」
心配そうにキョロキョロするナズナ。女の子が夜の森で、しかも半裸で湿布を貼ってもらっているので、そういった心配もまあ当然ではある。
「聖域魔剣を張ってるから大丈夫だよ。万が一誰か来ても、私たちには気が付かない」
そう言いながら、私が戦闘後によく痛める背中の箇所に湿布を貼ってあげる。やべ、ちょっとよれちゃった。
どうやら彼女のコピー能力は相当に精密なようで、その人の身体能力はもちろん、魔剣技や身体のフィードバック、性格までもトレースすることができるそう。
ので、私の身体をコピーした以上、私が痛める部位は彼女も痛めるのだ。私はその考えに至ってから、私が弱い背中と腰を集中的に攻撃した。
正確無比なコピーと戦えば、決着はつかない。だけど、今回彼女は私の脳みそまでもをトレースすることは無かった。
そこはあくまで自分として戦いたかったのだと思う。
私は誰より私の弱点を知っているので、勝機があるとすればそこしかないと思い、Gravityを集中的に打ち込んだ。
「うぅ……。コピーしても、その人のことちゃんと知らないとこうなるんだね……」
「それでもナズナは私の事随分知ってたね。魔剣技もすぐ使いこなしてたじゃん」
「えっとね、コピーしたらその使い方とかがズガガァンって降りてくるの」
表現力がアレンと同レベル……。
「でもほんと不思議な感じだった。シオンちゃんって素の身体能力は高いわけじゃないのに、魔剣を持たせたら動きが変わるんだ」
「身体も鍛えてはいるんだけどね……。そうそう、素が弱いから今は『構え』と『魔剣技』でカバーしてるって感じかな」
「相当訓練したんだね」
「それしか能が無いものでして……」
彼女の背中に湿布を貼りまくると、もう下着と服を着てもいいよと告げる。
「あーあ……。負けちゃったなぁ」
あの宣言の後、私とナズナはひたすら打ち合った。本物と偽物をかけて、打ち合った。
どちらも同じ力量で同じ技を使う。その戦いは夜まで続いたが、件の私の作戦によって、彼女の腰がぶっ壊れ、決着となった。
ナズナは寂しそうな顔をする。
「なんでそんな顔してるの?」
「……だって、あたしもうシオンちゃんの隣にいる資格なんて」
「えっ、なんで?」
「え? だってあたし親友を攻撃したんだよ? 最初なんて騙し討ちみたいだったし……」
「やめてやめて!? 私の唯一の親友がそんな理由で居なくなるとかやめて!?」
私が慌てると、彼女はぽかんとして口を開けた。
私は着火魔剣と細い薪や松ぼっくりで焚き火の用意をする。
その途中で、思っていることを口にした。
「さっきも言ったよ。親友ってのは、家族とも友達とも違う。どれだけ迷惑かけても良い存在なんだよ。ずっとぼっちで、親友って存在に憧れてた私が言うんだ間違いない」
「あたし、これからも一緒にいてもいいの?」
「ナズナが嫌じゃなければ、ずっと」
──BOW。
薪に火をつけ焚き火を作ると、その炎がナズナの瞳に反射してキラキラしていた。
私は今まで友達なんて、恐れ多くて望むことが出来なかった。
私はこんなやつだから。ひねくれてるし、卑屈だし、そのくせ傲慢で強欲で。
そんな私に初めてできた大切な親友を、たかが斬り合いで失うとかありえないって。
「雨降って地固まるというか、ナズナのこと、もっと知れて、私は嬉しかったよ」
「そっか。……じゃあ、今後はもっと、ちゃんと素を出すね」
「そっちのが嬉しい」
「あたし、こう見えて結構ダメだよ?」
「部屋を見れば分かるよ???」
「やーん……みないでぇ……」
ふたり笑い合う。本当はもっとシリアスな試験なのに、2人でいれば、ここはもう寮の談話室と変わらない。
「じゃあ居る」
「うん」
「シオンのとなりに、ずっと」
呼び捨てにされるとドキッとするだよなぁ。ただでさえ顔面天才なのに、声まで可愛いからさこの子……。
それぞれ落ち着いて、行動食を少し火で温めてから食べていると、ナズナがふと思い出したように言った。
「ね、今ポイントってどうなってるのかな」
「模擬魔剣自体にカウンターが付いてるから、それ見れば良いと思っ──」
私が模擬魔剣を見ると、持ち手には「-168pt」の文字が見えて、私は総毛立つ。
「あびゃぶ!」
ナズナの方も雑魚が死んだ時みたいな声を出してぶっ倒れる。
この試験のセオリーは理解したはずだった。でも、感情が先走って、私とナズナは斬り合い続けた。
斬れば1pt、斬られれば-5pt。
長期戦をやればポイントがガンガン減っていくのは必然──。
「どう、しよう」
──どうすればいい?
考えろ考えろ。お前にできるのは考えることだけだ。
ナズナと結託して何かする?
駄目だ。対人に関しての要素では互いに何かしてもマイナスにしかならない。
かと言って2人で来訪者を狩る?
不確定要素が多すぎる。駄目だ。
──なら。
「うぅ〜ん。シオンのこと見つけた時みたいにみんながどこにいるとか、情報があればなぁ」
「ん? なにそれ」
「あ、そっか。シオンあんまりネットしないもんね」
「うん……」
「この間チャットルームを見せたでしょ? あのルームあたしよく使うんだけど、そこにシオンの居る座標が載ってたんだよね」
「なんで!?」
「わかんないけど、あたしは無事会えたし。でも……あれ、確かになんでだろ」
私の情報が流れてる? なんで??
「その投稿した人って分かったりする?」
「んー、半値……ハンドルネームなら分かるよ! ニックネームとかペンネームみたいなもの」
「それでいい! 教えて!」
ナズナはオッケーマークを作るとスマホを取り出してツイツイっといじる。そしてある画面に到達すると、それを私に見せた。
「この人だね。えっと『平凡眼鏡ニキ』……さん?」
「あんのクソメガネ!!!!!」
平凡眼鏡ニキこと牧野コウタ。勘でしかないけど、多分そうだ。
今朝私に最初に接触したのはあいつなんだから。
「あれ、誰かに電話?」
私はスマホを取り出すと、連絡先の緊急連絡網のフォルダから牧野コウタを探す。登録名をひとまずクソメガネに変えてから、電話する。
しばらく待ってから牧野君は通話に出た。
『なに? 試験中なんですけど』
「牧野君、今朝私の居場所どうやって見つけたの?」
『あー、バレたかあ。まあ、簡単な話だよそれ俺のアーツだもの』
「魔剣技……」
『簡単に言えば探索系ね。応用系のひとつ』
サーチ。それはひとつの光明だ。
「──ね、私と組まない?」
『いやー、浅倉さんと絡むとろくなことにならんと今朝学んだからなぁ』
「じゃあ命令。私と組んで」
『??? なんで!?』
「私の情報を勝手に流した責任取って」
『いや、それは「理解屋」が高く買うって言うから……』
「責任を取って」
『……えー』
「責任とって」
『んー……』
「責任」
『わ、わーったわーった! わかったからその威圧的な声やめて!? 怖いから』
「ありがとう。じゃあサーチしてここまで来て」
『はいはい、ボス。あいあいさー』
プツっと通話が終わる。
「牧野君がもうすぐここに来るよ」
「あ、そうか! あたしたち同士じゃなくて他の誰かをボコボコにすればポイントざくざくだね!」
「そんな純粋無垢な瞳で野蛮なこと言わないで、怖い」
「え、違った?」
うん。違うよ。怖いよ。
「それもなくはない。でも牧野君も一応友達だし、そこまでアンフェアなことはしたくない」
「優しいねぇ」
「ち、違うんだからね! そういうのじゃないんだからねっ」
こういうのは東雲さんに向いてるんだけど。
「作戦があるんだ。誰も不幸にはしないけど、私たちが勝ち残る作戦が」
言うとナズナは私の肩にコツンと頭をのせた。
「そーゆーとこ、ほんと好き」
好きって!? 今好きって!?
完全にお疲れですね。今日はもう休みましょう。
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