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黎明旅団 ‐The Second Complex‐④

※『魔断騎士クロニクル』とは別で連載していた『黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-』を再編し収録したものです。世界観を同じくし、最終的には最新の時系列に接続するため、併せてご覧くださいませ。

 頬がつつかれる。今日は訓練も勤務もないはず……。デルタはそう思いながらふにゃりとまぶたを開く。セナがこちらを覗いている。


「その毛布って何年物なんですか……?」

「ワインみたいに言わないで~っ」


 身体にかかっていた毛布を顔まで引き上げるデルタ。セナはファントムの影響があって体温が異常に高い。そのせいで極度の暑がりだ。


 だから彼女らの部屋は常に冷房がかけられており──そこまでは夏場なのでおかしいことでもないが──その設定温度は5度である。


「(いつかあたしは冷房で凍死するんだぁ……)」


 設定温度5度の冷房を作ったのはマチネである。マチネとデルタは先輩後輩の仲だが、女の子らしい話ができる友人でもある──そのほとんどがマチネの色恋沙汰にまつわる流血事件の話──だが、この特注のクーラーを作ったことに関しては怒っていた。


 そういうことがあり部屋は寒く、彼女は毛布にくるまっているのだ。


「朝からどうしたの……? ごはんならもうちょっとだけ寝かせてね……」

「いえいえ、ちょっとしたお願いがありまして」


 セナはストレッチをしながら続ける。デルタはセナの方を向く。


「今日、渋谷大市場にロアの服や日用品を買いに行く約束をしていたんですが、ラウラ隊とサリンジャー隊の合同演習があるらしく、それを見学しに行きたいんです」


 じゃ、と言って部屋を出ていこうとするセナの腕をがしりとつかんで叫ぶデルタ。


「ちょ、ちょ、ちょっとまって、なにが『じゃ』なの! なにも伝わってないよっ!?」


「え? つまり私の代わりに市場の案内をお願いしたいんです。ロアは……正午頃にはファティマと射撃演習場に居るはずです。お願いしますね、じゃ」


 たったったと部屋を出て行ったセナ。ぽかんと置いてけぼりになるデルタ。赤毛の少女は、徐々に耳が朱に染まってゆく。それは寒さのせいではないのだ。

 もちろんセナが気を利かせたわけではない。セナの性格は真面目かつ勤勉だがどこか大味な所がある、年頃の乙女の心の機微に気付けるほど繊細な感性はない。


「わ……わわ……ど、どうしよう。なに着てこうかな……」


 びよんびよんと自由にはねた寝ぐせを手櫛で直しながら、部屋の寒さなど気にならないほど体温が高くなっていることに、デルタ自身はまだ気づいていない。


         ***


「は? 男の子とお出かけするときの服?」


 サリンジャーは眉をひそめる。


「ちっ、違うよっ。ちょっと気になっただけなの」


 ははーん、ロアだな。サリンジャーは勘が良い。だが大人としてあえてつつきはしない。とはいえサリンジャーとてまだ23歳。そういう話が気にならないわけでもない。


「でもさ、そういう相談ってアタシにするもんじゃなくないか……?」


 ぼろぼろの旅団用支給服(シーカーパンツ)に、上は汚れたタンクトップのサリンジャー。


「うっ、確かに」


 ラウラ隊との合同演習に備えて最終調整をするサリンジャー。彼女のタンクトップは少し透けて、背中に刻まれた刺青が見える。

 それはおしゃれのためなどではなく、ありとあらゆる自己強化の《定義》だ。

 彼女の能力ではインクが消えれば効力もなくなる。そのため、永続させたい定義を構築する際には身体に彫るのだ。


「ま、お前はまだロアとそんなに喋ったことないと思うが、アイツは妙なところに目ざとくて、当たり前のことに鈍感な節がある。あんまり気負わなくていいと思うぞ」


 サリンジャーは露出した内太ももに万年筆で、今日使う予定の別の定義を書きながら言った。


「そっか……。でもやっぱり素敵なあたしを見てもらいたいな……あれ、あたしロアとデートするなんて一言も言ってないよ!?」

「アタシもデートなんて一言も言ってねぇよ……」

「あぐっ」


 ──かわいい後輩だ。サリンジャーは自分にはないところを多分にもつこの少女を愛おしく思う。そして、そういった普通の幸せが世界から失われないよう、それを奪う者との戦いにも決して負けられないと改めて思った。


「大人の尻拭いを子どもにさせるわけにゃいかねぇよな」

「え?」


 デルタは不思議そうにサリンジャーを見上げる。サリンジャーはデルタの頭を撫でる。


「あ、そうだ。お前のファントムにでも相談してみたら?」


 デルタのファントム《破脚》。彼女はファントムと比較的仲が良い。


「うん、相談してみたんだけど、恥ずかしがってぴゃーって隠れちゃって」

「そうだ……お前のファントム、人見知りだもんな……」


 改めてこの艦にはろくに頼れる人間が居ないことをふたりは実感した。


         ×   ×   ×


 断続的に銃声が鳴る部屋。射撃演習場でファティマはロアの射撃指導をしていた。


「この小さい銃ですら手も肩も、節々が痛い……」


 ロアは拳銃から離した震える手を見る。


「そンな状態で《エンドレスホープ》を撃てば肩が吹き飛ぶぜー」


 ファティマは後ろの席でジャガイモチップスをかじりながらそれを見ていた。


「君は僕よりも細くて小さく見える。だが、どうしてそんなに大きな銃が扱えるんだ?」


 ロアが指した先にはファティマの身長を優に超える巨大な銃、対物スナイパーライフル型逆理遺物(パラドックス)、エンダーシリーズ06番《ワールドオーダー》が鎮座している。


 型自体は遠く古いものだったが、それはあくまで逆理遺物。使用者の感情をエネルギーに変換するというノルニルと同様の性質を持ち、その威力は減衰なく射出される。


 ロアは実際にファティマがそれを撃っている所を見せてもらったが、たった0.2%の出力で、ファティマ用の鋼鉄的が打ち抜かれた。

 それを扱うファティマは平然としているので、ロアは驚いた。しかもスナイパーライフルを立射で使うのだ。動揺したが、極地でいちいち寝転んでられるかと言われ、それはそうだと思った。


「力の分散だよ。ンま、ロアの場合は反動に対して力で応じようとしてンだ。わかるか」

「だが踏ん張らなければ吹き飛ばされる」

「ンあー。力を入れるのは間違ってないが、場所が違うのさ。丹田ってとこだ。ここ──」


 ファティマは立ち上がったかと思えばロアの元に歩いていき、下腹部を思い切りアッパーで殴りつける。「ぐぁっー!」雑魚三下のような声が漏れるロア。


「そこをよく覚えンだ。ンあ。まあ、慣れだよ慣れ。あ、もっかいやっとく?」


 スコンっと後ろからしばかれるファティマ。振り返るとそこには呆れ顔のデルタ。


「なんでこの船に乗ってる人ってみんな物理で解決しようとするかなあ……」


「同感……だ……」お腹を押さえながら地に臥せるロア。


 頭をぽりぽり掻いて面倒くさそうな顔をしたファティマはため息をつき愛銃を取りに行く。

 彼女は色恋に関することをいじって遊ぶのは好き──下衆だから──だが、それを本気で邪魔するほど野暮な人間でもないのだ。

 そう言った点で見れば15歳にして様々達観していると評価できる。


「じゃ、ロア。力の入れ方、抜き方覚えろよ~。ン、デルタは香水振りすぎな」

「なっ!?」


 ファティマは射撃場を後にし、デルタは自分の匂いをスンスン確かめる。

 ようやく起き上がったロアはよろよろと、後方のベンチに座り込む。


「おはよう……デルタ……」

「お、おはよう! ロア」


 ぎこちなくもじもじするデルタ。拳を食らってそれどころではないロア。だが、先に仕掛けたのはロアだった。


「あれ、どこか行くの? いつもより綺麗だ」


 セナなら、だったらいつもは小汚いのかとお小言を言う所だが、デルタはロアがそう言ってくれたことがシンプルに嬉しかった。


「え! あ、うん! セナがね、急用できちゃったみたいで、ロアの案内をお願いされたの。服とか日用品とかを揃えたいんだよね?」


 説明を聞いてなるほどと合点がいったロア。


「そういうことか、うん。じゃあ、案内をお願いしてもいいかな」

「うん!」


 デルタは犬歯を見せにこっと微笑んでみせた。ロアは彼女を少し犬っぽいなと思った。


         ×   ×   ×


 渋谷大市場は渋谷準極地の上にある大きなマーケットである。


 準極地とはノルニルが自然に生成されていない極地のことを指し、通常の極地に比べ危険性はぐっと下がる。

 どころか、一般人の生活区画も存在するため、極地という語を当てるのも正しいのか否かは学会でも意見が分かれる。


 セナと出店をまわった区域はやや観光客向けのきらいがあった。デルタがロアの服や様々なものを揃える為に案内したのはより深層のディープマーケットだった。


 ロアはディープマーケットという言葉を聞いて少し不安になったが、到着してみればそんな不安は消えた。


 広い地下空洞の左右に様々な店が立ち並び、陽気なアマハラ人──太平楽としていて、難しいことはあまり考えないようにしており、現状の生活に満足している働き者──がロアとデルタを迎えてくれた。


「おーい、デルタちゃん! 新しい映画のフィルムが耀国から届いたよ!」

「デルちゃ~ん! うちの肉今日安いんだけど寄ってく? コロッケつけるよ~」


 ロアは人々に声をかけるたびにころころと表情を変えるデルタを見ていてなんだか楽しかった。


 ここ数日、彼は中々気が抜ける日がなかった。特にサリンジャーとの訓練は、対人格闘と極地環境戦を想定したいくつかの厳しいものとなっていた。

 彼は一目置かれる存在とはいえ、圧倒的に経験値がない。ロアとセナはそれを分かったうえでその溝を埋めようと努力した。


「ロア? どうしたの?」顔を覗き込むデルタ。

「ううん。君が楽しそうだったから、なんだかほっとしたんだ」

「ほっとしたの? そっか。良かったっ!」


 ロアも彼女の無垢さを見習って、今日くらいはあまり難しいことを考えないようにしようと思った。


 そのあとは、デルタが先導して、ロアをいろんな店に連れて行った。服屋に入ったところ、ロアはどうしようもなく──絶望的なほどに──色彩センスがないことが発覚した。さすがのデルタもそれには苦言を呈し、後には「全身クリスマスカラーになるとは……」と語っている。


 とはいえそれを補佐するのがデルタの本日のミッションだったので、ロアは自分のセンスがないことを指摘され若干不服に思いつつもデルタにコーディネートを任せることにした。

 デルタはロアの性格から無難にシャツが似合うと思っていたので、シーカーコートの下に着るシンプルなシャツを数点、動きやすいパンツを見繕いロアに着せた。


「こんなに装甲が薄くて大丈夫だろうか。やはり赤と緑、もしくは安全のために黄色と黒を」

「もーっ! 駄目だよそんなセナみたいなこと言って!」


 ロアは「揃ってどうしようもない探検隊だな……」と思った。


 服の一件を終えても、特にデルタの想いが変わることはなかった。一目ぼれの盲目さなのか、それが彼女にとっての初めての恋心だったからかは神のみぞ知ることだ。


 それからロアに必要な日用品──ポンドとの同室生活を始めてからほとんどの品はポンドが知らぬ間に用意してくれていた──を買う為、日用品店を一通りめぐる。


 デルタは買い物かごを持ってロアの隣を歩くとき、異様に心臓がどくどく言っているように感じた。彼女はと言えば、なんだかこれじゃ夫婦の買い物みたい──などとのぼせたことを考えていた。


 それらの買い物を終えると、特に目的がなくなってしまった。でも、ふたりは直帰しようとは言わず、せっかくの機会なので楽しんでいくことにした。


 ソフトクリームなるものを初めて食べたロアは感動し、デルタの方を向いて伝える。


「冷たくて……あまい。それにふわふわだ!」

「へへ。ここのお店はこの市場の黎明期からあるの。すっごい歴史なんだっ」


 誇らしそうにするデルタ。ロアはそれをぺろりと食べてしまった。


 次に入ったのはデルタ行きつけの服屋さん。デルタはロアに服の好みを訊いてみたが、センスがないと言っておいて……と呆れられる。

 それでもデルタはロアの好みを知りたかったので無理やり選んでもらったりした。


 店を出た後は雑貨屋に行きたいと言ったデルタに付き添ったロア。


 デルタは「猫のモチーフが付いたアンクレット」か「うさぎのモチーフが付いたブレスレット」かで迷っていたが、ロアに訊くとうさぎがデルタに似合うというので、デルタはブレスレットにした。


 お店を出ると、彼女はさっそくブレスレットを紙袋から出して左手首につけ、とても嬉しそうにしている。


 デルタはとても楽しかった。なんで楽しいのだろうか、とか、なんで好きなんだろうと彼女はふと考えたりもした。でも、理由は特に見つからなかった。特別な理由がなくても好きなら、それは代替性がなくて、きっと素敵だ。デルタはそう思って、先を歩くロアを追った。


 ロアはふと立ち止まって、今週公開の耀国映画最新作の看板を眺めた。ロアは何気なく、それが気になるとデルタに伝えた。


 するとデルタは驚き、跳ねて、ロアに詰め寄った。


「映画っ……! すき?」

「や、見たことはないんだけど」


 その勢いに若干圧されつつ、素直に「面白そうと思って」と答えるロア。

 デルタは踵を返すとロアの手をひっつかんでフィルム屋に向かった。ロアはデルタに手をつながれてびっくりした。

 デルタは大胆なことをしているということには気づかず、自分の趣味に興味を持ってくれたと、嬉しくなってしまっていた。


 デルタは無類の映画好きである。極地で映画のフィルムを発見しては、それを持ち帰り、寝食を忘れて解読、修復作業をしたりする。

 彼女の研究分野は生活に直結するものではないが、楽しみが乏しい旅団の中では、とてもありがたがられる。


 そしてデルタは映画が好きな人のことも、大好きなのだ。好きな人が、大好きなものに興味を持ってくれた。それはなんて素敵なことなんだろう。


 デルタはロアやセナが今何を目的に動いているのかを知らないわけではなかった。その真剣さも思いの強さも知っている。だから、あえてでしゃばるようなことはしなかった。この想いは、まだしばらく自分の中の宝箱にしまっておくのだ。


 だが彼女はロアと一緒に街を走りながら思う。


 ──神様、それでも今日くらいは、今日一日だけでいいから、目をつむっててください。


 デルタの心は今、きらきらと輝いている。今この瞬間が、今だ──!


         ×   ×   ×


 デルタに手を引かれてフィルム屋につくと、そこは本屋のように、壁一面に映画フィルムが並んでいた。店主は新しく入った品をデルタに見せ、彼女は嬉しそうに全部買うと言った。


 ロアはその間、壁に並んだ統一言語で書かれた映画のタイトルをいくつか見ていた。どれを見ても面白そうだが、自分の記憶にはつながりそうになかった。しかしたったひとつ、目が留まる。それだけ統一言語で書かれていなかった。ロアはその映画フィルムを手にとる。


「──『Nuovo(ヌオヴォ) Cinema(シネマ) Paradiso(パラディーソ)』」


 ロアが呟くと、隣でデルタが素っ頓狂な声をあげた。


「読めるの!?」

「え、うん……」


 店主の方を見ると感心した様子でこちらを見ていた。


「坊主、よく勉強してんだなぁ。そりゃ遺物でさ、誰も読めねえってんで売れ残ってたんだ」


 デルタは慌てて詰め寄る。


「これ、古シナル祖語だよ……? えっとたしかイタリア語。英語とは少し違って……。あたしの研究分野なの。映画からひも解く古シナル祖語。大断裂以前の文明がわかるからって割と盛んな研究ジャンルで──」


「ううん、勉強したわけじゃなくて、知ってるんだ。だから感心されるようなことじゃ」


 ロアはそこで言葉を止めた。統一言語が話される世界で、古シナル祖語──大断裂以前の人類が主に使用した不統一性言語群──を難なく読めることの異常性に気が付いた。


「──じ、実は最近マゼランの北部図書館によく通っているんだ。そこで勉強して、ようやく読めた。古シナル祖語は奥深い、よね」


 ロアの訂正は苦しいものだったが、デルタにとっては古シナル祖語を難なく読めることの方がよほどおかしいので、その訂正の方が受け入れられた。


「そ、そっか。そだよね。……じゃあこの映画見たことある?」


 デルタが聞くと、ロアは首を振る。ロアは映画というものを知ってはいたが、鑑賞したことはない。すると彼女はにやっとした。彼女はもじもじとして何か嬉しそうだ。


「あたし、名作を初めて観る人のこと見るの、大好き」


 少しいたずらっぽく笑ったデルタは、店主に映画館を借りてもいいか尋ねる。店主はにかっと笑ってもちろんと店の隣に建っている古い映画館へと案内した。


         ***


 渋谷第3小映画館はスクリーンといくつかのソファが置かれたシンプルなものだった。デルタは移動の途中、いくつかある小さいシネマの中でもここが、一番音がいいのだとロアに教えた。


 『ニュー・シネマ・パラダイス』のフィルムを店主に渡したデルタは、待っていてと映画館を出て行った。

 カラメルポップコーンを近くで買ってくるという。それを見送って、ロアはソファに腰かけた。

 スクリーンには何も映し出されていない。ただ光が当たっている。


 今日はいろんなものを見た。体力的にではないが少し疲れている。でもとても楽しい。ロアはその心地いい疲労感を感じながら、ふかふかのソファに身を沈める。


 すると、空いている隣の席に誰かが座った。デルタにしては早すぎると、ロアは不思議に思ってそちらを、見る──。


 そこには何かが居た。ロアは目を見開いて口を閉じ、言葉を失った。


 それは一本指を立てて口元に当ててみせる。


『映画館ではお静かに。マナーですよ、ミスターロア』


 そこには男が座っていた。純白のスーツに身を包んだ男が脚を組んで座っている。


 天使の様な汚れなき白の翼を携えて、頭には歪な光を放つ光輪を頂いて。


 そして、顔にはガウスがかけられたように霧が立ち込め、ぼやけている。顔だけが見えない。


 ロアが目を見開いたのは、その異形の存在がが紛うことなきファントムだったからだった──。


         ×   ×   ×


『映画館ではお静かに。マナーですよ、ミスターロア』


 そこには男が座っていた。純白のスーツに身を包んだ男が脚を組んで座っている。


 天使の様な汚れなき白の翼を携えて、頭には歪な光を放つ光輪を頂いて。


 そして、顔にはガウスがかけられたように霧が立ち込め、ぼやけている。顔だけが見えない。


 ロアが目を見開いたのは、その異形の存在がが紛うことなきファントムだったからだった──。


 その頃には、ロアはもう乖離等級を肌感である程度は測れるようになっていた。今なら灰塵(かいじん)ローレライがどれほど危険だったのかがわかる。


 そして、隣に座る男が灰塵ローレライなど比にならないほど凶悪な何かを孕んでいるということも。


 だがロアは冷静さを欠くことなく叫びはしなかった。万が一ここで戦闘が起きれば、市民が行き交うこの街が戦場になる。極地とは違う。危険なのは自分だけじゃない。


『その冷静さをとても高く評価しますよ。ここで動かないのは臆病ではなく正しさだ』


 深く谷底から響くような声。形容しがたい、それは「遠い」としか言えない。


「誰なんだ」


『勘違いをしては危ない。問えば答が返ってくるのはいつも真ではありません』


 そのファントムからは直接的敵意は見られない。それが余計にロアを慄かせた。男はロアを脅威には感じていない。男は心の底からリラックスしていた。


『ですが……、話が進まないのは問題ですね。答えましょう』


 男は手に何かを持っていた。腕だ。それは、肩口から切り落とされた、誰かの左腕だった。生温い血液が滴る。


 ──ぽたっ、ぽたぽたっ。


 かわいらしいうさぎのモチーフがついたブレスレットを巻いた、見覚えのある誰かの左腕だった。


『私はネグエル。またの名を《偽典(ぎてん)》。──運命を司る天使です』


 ゴトリと落ちた腕から跳ねた血液が偽典ネグエルの白いスーツをピシッと汚した。


 男は気に留めはしなかった。ロアは感情が真っ白になり、それを理解するまでに少し時間を要した。


「あ、あ──」


『ご安心を。命を取ったわけではありません。あくまで対等ではなくこちらが、力においても情報においてもこちらが上の立場にあるということを示すために行ったことです。お土産ですよ』


「なんで……、お前たちは、命というものをそこまで、軽んじることができるんだ──」


 ロアは力なく言った。


『あなたはローレライに銃口(うで)を向けたとき、あるいはサリンジャーという娘がローレライを殺した時、なにかひとつでも感じましたか? むしろ安堵すら覚えたはずです』


 ロアはネグエルの言うことを無視して、今ここで《虚心》を全開放し、こいつを直ちに殺そうと思った。


 だが、彼の理性はそれを許さなかった。ここは街中だ。ロアが旅団に来た初日のように暴れれば、たとえラウラが鎮圧したとて、それまでに何人が死ぬかわからな──。


 だが、彼の破壊的で暴力的な激怒がそんな理性など喰らってしまった。


 そしてロアの《虚心》を本来抑制するはずの理性機構は吹っ飛んだ。


 《虚心》はノルニルを操作する。それは彼の内に微小量存在するノルニルを莫大な量に増加させることもできるのだ。だが、それには相当の感情が必要になる。


 そして今の彼にはそれが在った。


「──Inflation」


 ロアの内側からビキビキと高エネルギーの黒い液体が流れだす。それらは真っ直ぐ偽典ネグエルを狙いズタズタに引き裂こうと飛んでいく……。


 ──STUN。


 しかしその高密度のエネルギー体は偽典ネグエルに触れることさえできなかった。


『闇は光には勝てない、そういうただ一つの事実です』


 《虚心》はネグエルに触れる前に蒸発させられる。ロアは何が起きたかわからない。


 偽典ネグエルはすっと手を伸ばす。映写機からスクリーンに向かって伸びる「光」を掴んで、手でなぞり槍に成形すると、それを思い切り、ロアの太ももに突き刺した。


「──がッ!」絶叫する。


 ロアはソファに文字通り釘付けにされた。激痛で動けなくなる。


 光がロアの傷口を絶え間なく滅茶苦茶にする。ネグエルは見えない口からふうと息を吐き、乱れたスーツを整える。


『残念ながら、実像は虚像を大切に思うことができない。同様に、影は実像を大切に思えないのです。わかっていただけましたか。それと、人の心配をしている場合ではないということも、ご理解いただけましたでしょうか』


「……──僕の大切な友人が今も生きていると、神に、誓え。誓えッ!!!」


 ロアは自分の中に充満する痛みから目を覚まし、友人のことを思った。


『神などいません。ですがあなたには誓いましょう』


 偽典ネグエルの丁寧な言葉は、ロアの持つ価値観とは相容れない。


「僕はいい、彼女は──」


『何か勘違いされているかもしれませんが、あなたが私を説得することは無理なことです。それはあなたの持つ正義という名前の心臓と、私のそれは違うものだからです。私はローレライが先走ってしまったことを謝罪こそすれ、あなたをもう一度勧誘しようなどとは思っていません』


 偽典ネグエルの見えない目が冷たい。ロアはただ痛みに耐える事しかできなかった。


『はっきりさせましょう。私は人類の敵ですよ、ミスターロア。勘違いなさらぬよう』


 それは明確なる宣戦布告だった。


         ×   ×   ×


『はっきりさせましょう。私は人類の敵ですよ、ミスターロア。勘違いなさらぬよう』


 きっと誰かの心から生まれたファントムは、心無く、心からそう言った。


「敵──」


『……しかしあなたは何かの鍵だ。今はその鍵穴を探している途中です。錠が見つかればまたあなたが必要になるでしょう。シンジケートは差別をしないことを信条としています。いつでもお待ちしていますよ』


 ロアは口汚くネグエルを罵った。だが、ネグエルは我関せずと別な話を始める。


『ひとつお話をしましょう。真理の話です。あなたは多元宇宙論(マルチバース)をご存じですか』


 答えないロア。


『世界はこの世界だけではない。いくつもの可能性が生まれては消えを泡沫のように繰り返しています。それは誰かの選択の結果として行われている。そしてそれは真です』


 偽典ネグエルの声は変わらず平坦だ。


『では、それは誰の選択に因るのでしょうか。いったい誰の選択を参照している?』


 わざとらしい話し方には反吐が出た。


『ここですよ。この世界線ROOT-01。誰かが朝食に林檎ではなく檸檬を取った時、林檎を選んだ世界線は弾けて消える。その唯一の参照元が、この世界線なのです』


 ロアは目線を上げ、疑念を向けた。


「いったい何の話だ……?」


『今は世界の真理の話をしているんですよ』


 偽典ネグエルはロアの太ももに刺さった光を引き抜いた。ロアは痛みに叫ぶ。ネグエルは気にせず血を払って成形する。ホログラムの様に形を作り出す光。


 それは単純な樹形図だった。


『これが宇宙です。樹の幹はこの世界線ROOT-01。枝葉は別の世界。全てのファントムの故郷です。ファントムとは虚構でも偽物でもない。ただ本物に選ばれなかっただけだ。ファントムとは、実在する別の世界の自分のことですよ、ミスター』


「わけが、わか……」


 灰塵ローレライの言葉を思いだす。


『私は煤に汚れた街の路地で産まれ、母親の乳も知らずに、気が付けば労働を強いられていた。なんで私ばかり。何が違うの? 本物も偽物もないのなら、私がそこにいてもいいじゃないかっ!』


 そのつながりに気が付きはっとするロアを見ていた偽典ネグエルは見えない口を開いた。


『ROOT-89の世界でローレライは生まれました。産業革命期のアンテケリア。ストリートチルドレンだった彼女は妹弟を養うためにたった7歳のころから厳しい肉体労働をしてきました。14歳になったとき借金が膨らみ、身売りを余儀なくされました。そして全てを失ったとき、彼女は街の全てを文字通り灰塵に帰したのです。その砂漠を歩いていた彼女を私が拾った。そしてこの世界へ来たのです』


「……そんな話を信じると思うのか」


『あなたが信じるかは関係ありません。我々は鍵がなくとも「不履行(デフォルト)」は起こします』


 そう言って偽典ネグエルは懐から古めかしい鍵を取り出した。複雑な縞模様が特徴的な銀色の鍵だ。


『私はこの《シュレディンガーの銀鍵》でありとあらゆる世界を巡りました。その結果たどり着いたのが、この傲慢で停滞したオリジナルの世界です。この世界がある限り、他の世界に起きる理不尽は避けられない。──シンジケートは遍く多重平行世界(マルチバース)を守る為に作ったのです』


「何を言ってるんだ……」


『全ての願いを叶えるという場所シャンバラへ向かう。そしてこのROOT-01を元からなかったことにする。そうすれば、全ての無為になった世界線たちは解放される。それが私の最終目標、不履行(デフォルト)ですよ』


 ネグエルは徐に立ち上がった。そしてロアの太ももの傷に指を挿す。


『そのシャンバラへの手掛かりがあなたなんです。ローレライは急いで説明を省いたようですが、私があなたをシンジケートに迎えようとした理由を教えましょう。なぜあなたなのか。それは他のどの世界にも、あなただけがいないからだ』


 ロアは苦痛に耐えながら、ネグエルが垂れ流す情報を逃さないようにした。


『数多ある宇宙群にたったひとりのあなたが、きっと鍵になる。その時がまだ来ていないだけで』


「僕は手伝ったり……しない」


『ええ、ですからそのつもりで来たわけではないのです。敵役が意味もなく己が思想を語るでしょうか。いいえ。あなたに世界の真実を伝えたのは、ただ疑念の種を植える為です。──信じてもらう必要はない。ただ疑え。二度勧誘はしない。心向きが変わったら、自らの意思でこちらへ来い。我々は拒まない』


 口調と声色が変わり、偽典は冷徹さを見せる。


「本当に僕が行くとでも思うのか──」


『ええ、思います。では、あなたはこれからも信じられますか、この世界の真理を知っているにも関わらず、誰にも明かしていないラウラ・アイゼンバーグという化け物を』


 ──ラウラ……?


 偽典ネグエルは立ち上がりさっと腕を振る。すると地面に転がっていた、切断された腕が明滅して消え、それが光で出来た幻影(ホログラム)だったことに気が付く。その斬られた腕は偽物だった。


『話を聞いていただく必要がありました故。この悪趣味なショー、誠に失礼しました。それと、目的地はアメリア、ロサンゼルスで問題ないとラウラ・アイゼンバーグにお伝えください。「鍵」に続き、ふたつ目の《魔鍵》を取りに行くとね。では、かの地で逢いましょう』


 ネグエルはロアを置いて部屋を出ていく。耳元に冷たい声で言葉を残して。


『──忠告だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言って去ったネグエルへの憎悪は、どこか違う感情に置き換わっていた。それと共に激痛が戻ってくる。


 だが、ロアはちょうど部屋に戻ってきた、カラメルポップコーンを抱えたデルタを見たところで、全ての不安がなくなり、安堵に落ちて気絶した。彼女は無事だった。


「よかっ──」


 意識の最後に覚えていたのは、デルタが悲鳴をあげて、ポップコーンバケツを落とし、急ぎ通信チョーカーでLegionに向け、救援要請を叫んだところだった。


         ×   ×   ×


■シーカー調査ファイル:ポンド

所属:第9支部、ラウラ隊だぜ

本名:ユージーンってんだ。ユージーン・ウォーカー

性別:男だぜ

年齢:18歳だな。祈暦1066年11月25日生まれ

出身:トロピカランドのアスラスラムな。クソデカスラム

身長:165㎝……。170㎝無いのコンプレックスなんだよ

体重:標準体重だぜ

配偶者:欲しいな

乖離等級:19等級だ!

階級:専門級になってもう2年くらいだなー

役割:交渉者やってんだ。口は上手いぜ

性格:割と好き嫌いはっきりしてるかもな

特徴:赤髪短髪! あといつも黒いマスクしてるぜ

能力:《同期》は色んな物質と身体を同化出来んだ

研究分野:体系言語学、言語史、ロストランゲージ

家族:スラムにはいっぱいいるぞ~。親の顔は知らん!

友人:旅団のみんなダチだぜ。これマジな

目標:スラムのみんなにまともな仕事をやることかなー

好きな人:何この質問!? いや、まあ。……サリンジャー

一言:デルタ~。デートにおすすめの映画教えてくれ


         ×   ×   ×


■シーカー調査ファイル:デルタ

所属:第9支部、所属はフリーです

本名:オリヴィア・レインハートって言います

性別:女性です

年齢:えと17歳です。誕生日は祈暦1067年2月14日

出身:アメリア共同体のボストン第2区画です

身長:160㎝なんだけど、成長期です

体重:や、やだ! 言わないもん

配偶者:まだいません

乖離等級:一応19等級だけど、暴走があったからなぁ

階級:専門級です

役割:あ、めっちゃ前衛です! 任せて!

性格:うーん、結構悩み症かも……

特徴:生まれつき赤毛なのっ。今はお団子ショート!

能力:脚の超強化ができる《破脚》って能力です

研究分野:文化風俗史、言語先端研究、ロストランゲージ

家族:両親と弟を重力津波で亡くしました

友人:同期の子は特に仲良しです。あ、あとロアくん

目標:みんなが幸せになることです

好きな人:えっ、何この質問!? な、ないしょだもん!

一言:ファティマへ。あたしのスニーカー履いたでしょ


         ×   ×   ×


『はっほー! 毎週金曜日の退勤ブチアゲのこの時間帯にお送りする、ユンたゃによるオマエらの為のラジオ番組「だんじょんレイディオ」!! 今週のゲストはネー、ロックウェル隊第2中隊長で腹筋バッキバキなのにも関わらずおっぱ──』


 ロアは館内放送のラジオを消して、すーすーと静かに寝息を立てるデルタの顔を見守っていた。泣きはらした目をこすったのか、まぶたの周りが赤い。


「この子、繊細な子なんです。それに優しい子で、私が同期と一緒に専門級(エキスパート)に上がれなかった時もシリウスに直談判してくれました。私より悔しがってくれて、一緒に泣いてくれて、次の日には熱を出して……」


 ロアが準極地から観測船マゼランに搬送されてから、ずっと付きっきりで傍にいたデルタは丸48時間以上起き続け、ついに限界がきてくたっと眠ってしまった。そして酷い熱を出して、それは今も続いている。


 眠ったデルタと入れ替わるように応急処置を終えて目を覚ましたロア、事情を伝えたセナはデルタの看病の為、そして情報を整理する為に彼女らの部屋に来ていた。


 夕暮れの日差しが窓から入りセナの顔にかかる。彼女がカップに入れたココアを持ってくると、ロアは感謝を伝えて受け取った。ロアは重篤な怪我の治療中で、あまり動けない。


 旅団が守る都市の中心に、短期間で二度もファントムが襲撃を行った。それも明確な敵意のある、高等級のファントムだ。


 その厳戒態勢の中、サリンジャーの《定義》を総てロアに割く余裕がなかったため──サリンジャーはロアを治させろと言って聞かなかったがポップコーンが彼女を落ち着かせてロアの処置を引き受けた──現在はポップコーンと共にリハビリを行っている。


 あの日、切り落とされたと思ったデルタの腕は、偽典ネグエルが光で作り出した幻影だった。


「……僕はデルタが襲われたと思って、我を忘れてしまった。安易に手を出してはいけない力を使おうとした。それがもし敵の狙いだったなら。僕はなんて馬鹿な奴なんだ」


 セナはデルタのおでこや首筋の汗を濡れたタオルで拭いながら、少しだけロアを見て言う。


「あなたにとって旅団が大切なものになって、良かったです。……それと、私の大切な親友の為に怒ってくれて、ありがとう」


 セナは怒っていた。ロアを刺したこと、彼を馬鹿にしたこと、挑発に親友を利用したこと、幻影だったとしても親友の腕を切り落としたこと。


 偽典ネグエルというファントムは旅団との敵対を布告した。ならばそれが大義名分だ。


 セナの目の奥で、バチバチと何かが何かに引火した。


「だが、偽典ネグエルの言っていたことはあり得るのだろうか。この世界の他に、枝分かれした無数の世界があるなんて」


「その話を初めて聞いた時、ある仮説を思い出しました。ノルニルを使用した人間はなぜ能力(アーツ)を得るだけではなく、他の世界の『夢』を見るのか。それは本当にその『別の世界』が存在するからではないのかと」


「証人に訊こうにも、君のファントムは荒々しいんだろう? とても問答できる様じゃないって。それにファントムがそれを自覚しているとも限らない」


「ですね。それに《紅蓮》とは今、あまり話さない方がいい気がするんです」


 暗い雰囲気になってしまい、ふたりの間を沈黙が流れる。ロアは極めて不自然に、ユンのうるさいラジオを流すことにした。スイッチをひねる。


『ちゅーことで、今回のゲストはロックウェル隊のソワカ氏だったネ~(ぱちぱち)。じゃあオマエたち~らいしゅーも聴いてくれよナ~! ばいちゃっちゃ~(ぴーすぴーす)』


 あっ、ちょうど終わっちゃった……。ロアはその空気に耐えられずココアに手を付ける。


「ずずっ……」

「……」


『オマエたち、なに熟年カップルの倦怠期みたいな空気出してんネン~(草ァ!)』


 びくんっとふたりは肩を跳ね上げ、目を見開いて部屋の入り口を見やると、そこにはふわふわと地面から3㎝程度浮遊した、白のビキニにビビットカラーのオーバーサイズジャケットを羽織った女の子が居た。

 短いボブで水色の髪に紫のインナーカラー。そしてあのでっかいヘッドフォン……。


         ×   ×   ×


「ユンの……幽霊……」

「珍妙な格好の幽霊……」


『なんでやネン、脚あるやろがい!(よっ、美脚)』


 そこには端末のディスプレイからそのまま飛び出してきたようなユンが居た。紛れもない本物だ。セナは真剣な顔で聞く。


「……ユンっていったい何者なんですか? そういうアーツなんですか?」


 決め顔をするユン。


『ふっふっふ、ついに正体を明かす時が来たネ。実は~っ! この、世紀の大天才人間国宝アイドルウルトラ世界遺産テラカリスマガールであるユンたゃは~──《ファントム》なんだよネ~っ!!(いえーい)』


 その単語にセナとロアは動揺する。ユンがファントム?


『ほらほら吹き出しが「」じゃなくって『』でしょ~! あ、オマエらには見えないか。んで、普段はAIとか電脳体になれるアーツを持ってンだとか言ってたんだけど~。敵側のファントムたちの動きがヤバ気味だもんで、ユンたゃは旅団の敵じゃないよーんって明かすしかないと思ったんだ~! もうしょうがないネっ』


 ぴーすぴーすと宙を自由自在にくるくる回るユン。ロアは真剣な面持ちになる。


「あの、聞いてもいいか」

『いいよ! ファントムの特性とか、ユンの正体についてなんでも答えるネ!』

「……なんで君はいつもビキニなんだ?」

『かわええからやろがい!! ってか今は世界観に関わる重大なこと聞くとこじゃネっ?!』


 ロアはつい勢いで気になっていたことを聞いてしまった。


「……かわいいのはスタイルが良いからですよ、むかつく」ぼそっと呟くセナ。


 えぇ……と懐疑的な目を向けるユン。セナは細身なので色々コンプレックスがある。


「まあ、冗談はさておき」

「私は本気なんですが?」


 ロアはジトっとしたセナの目をささっと避ける。


『ユンはセナ氏のスラッとしたとこ好きだぞ~。腹筋も割れてるじゃん。あっちょ、投げないで! 物を! 投げないで! 透き通るから痛くはないんだけど心が痛いネっ~! もう……! 人間って面倒くさいネっ』


「すまない、僕らは君と話すのが好きなんだ。それで、改めて説明をお願いしてもいいかな。君がファントムだっていうのはどういうことなんだ?」


 ヘトヘトのユンは無い襟を正し、んんっと咳ばらいをする。そしていつになく静かな顔をした。


『ユンは極地で旅団に拾われたネ。生まれた場所の記憶もあるアル。ユンのいた世界はROOT-616。「大断裂」が起きなかった《西暦》の世界アル。その世界とこの世界が同一線上の分岐変化の先だということも知ってるネ。ま、それを知ってるのはこの眼によるモンだけど』


「じゃあ本当に──」セナは考え込むようにつぶやく。


『まっ、ユンたゃは引きこもってパソコンいじいじするのが好きだったから、今の生活に不満はないんだ~! 多重平行世界(マルチバース)うんぬんに関しては、ぶっちゃけよくわからんけど、少なくともこの世界は単一の世界じゃないネ(激むず)。ん~、いくつかの糸が寄り集まってて、その中心にあるのがここ? みたいな?』


「ファントムは他の世界から来た──。嘘じゃないのかもしれない……」

「ではそれを信じるとして、なぜ偽典ネグエルはこの世界だけを狙うんでしょうか」


 ロアはネグエルに言われた、彼がこの世界にしか存在しないという事実を伝えるか否か迷った。


 その情報だけは確証がない。彼がこの世界にひとりしかいないというのを明かすのは悪魔の証明だ。ネグエルが言ったことだ、根拠もない。それがわかるまでは、その情報について伏せておくべきだと、ロアは考えた。

 だが、それには保身の気持ちもあった。もうバケモノとは思われたくない。


「──……」


 セナに隠し事をするということに、胸が痛んだ。


「ユン、話してくれてありがとうございます。この事実はどうしましょう」

「まだ情報が少ない。真実と確定していないことを流布するのは避けよう」


 ロアは消極的にそう言った。「ロア?」


 セナは基本的に人の感情の機微に疎い。だがここぞということは、大切なことには気が付ける。ロアが何かを迷っているとセナは感じた。それでも、セナはパートナーを信じて、その偽りを受け止めることにした。


 ──彼が今話すべきでないと思ったのなら、きっとそうなのでしょう。


 セナはそう思って、壁に背をつける。


『ひょえ! ユンの言ってることが嘘言うアルか!』


 空気の読めない女ユン。


「違うよ。君の存在が危険視されるといけないから、隠すんだ。君を守るためだよ、ユン」

『なにネそれ! 感動したネ~! やっぱいいオトコアル~。結婚しよ~っ』


 ユンの投げキッスを避けるロア。ロアは口からでまかせを言うのが上手くなっていた。


「それは別としても、なぜユンは私たちに告白してくれたんですか?」

『あ~、それはラウラ氏が「そろそろかな」って言ってきたからネ~。そ・れ・に、オマエたちがちょーどそういう話をしてたからネ』


 セナはふぅんと頷いたが、ロアにはある疑念が芽吹いた。そして彼が何かを考えこもうとしたとき、布団のなかでデルタがもぞもぞと動いた。ユンはそれを見て『騒ぎすぎちった』と言って、ばいばいちゃーんと艦内の電線を伝い部屋を後にした。嵐の様な奴だ。


「……ふあ~。セナおはよう~」

「よく眠れましたかデルタ」


 セナはデルタのおでこを拭いてあげる。


「んっ。そうだ、うん、夢を見たの。大好きな人と一緒にね、映画を見る夢なの……」


 よかったですねとほっとした顔を浮かべるセナ。彼女は心から親友を大事に想う。


「もう具合はいいのか?」

「うん、ありがとうロア……。……。……。……。──。……。えッ、ロアっ!?」


 ぶっとび起きたデルタ。一瞬で顔面が真っ赤になる。そしてお気に入りのうさぎ柄毛布を顔まで引き上げて、ロアから隠れる。


「ああ、すまない。女性の部屋に、無神経だった。今外に出るよ。君が無事でよかっ──」


 デルタは顔を隠したまま、ロアの服の端をつまんで引き留めた。セナは肩をすくめる。


「うぅ……。ロアが……、生ぎでで、よがっだよぅ……」


 ずずっ、ずずっ。洟をすする音。


 セナはおやおやとデルタの頭をそっと撫でてからココアを入れてくるとその場を去った。

 ロアはどうしたものかと思ったが、デルタが泣き止むまで、となりに座って、最近読んだ面白い本の話をしてあげた。


         ×   ×   ×


 25時を少し過ぎた頃、ロアは中央エレベーターホールに向かい、そのまま地上階に行ってデッキに出た。

 まだ太ももが痛むので杖をつきながらだったが、サリンジャーが無理を通して行った《定義》のおかげで、激痛はひいていた。


 夏の夜空は、気持ちがよかった。暑さはなく、適度に風が吹く。空に2つある月が美しく輝き、デネブ、アルタイル、ベガは本で読んだ通り、大三角を作っていた。アマハラに伝わるベガとアルタイルの物語をデルタはとても気に入ってくれた。


 ロアは本を読むのが好きなことに最近気が付いた。ポンドはそれを勤勉だとほめてくれたが、単に物語やお話を読んで、その世界に身を浸すのが好きなのだと思う。


 それでも、彼がいつかの日に白い街でみた本は、図書館のどこにもなかった。


 ロアは前から読もうと思っていた『ドリアン・グレイの肖像』を抱え、甲板にきた。エルゴーの極地で見つかった遺物で、初版本らしい。


 金曜日は酒を飲んだあと、涼みたいために甲板に来る隊員がよくいる。そこでサッカーをする者もいれば、詩歌管弦に興じるものもいる。その心地よい喧騒が、読書には最適だとロアは感じていた。


 デッキ北部、秋葉原の街が見える。対重力津波用の都市構造で、秋葉原摩天楼がそびえるが、ここほど高い建物が密集するのも、オラシオンの大地では珍しいとのこと。


 ロアは良きところを見つけて座る。背を預けた壁が、ひんやりとして気持ちいい。しばらく読み進め、すこしまぶたが重くなってくる。よく考えれば、ここしばらくしっかりとした睡眠をとれていない。


 少し横になろうかと思ったとき、突然、膝にブランケットがかけられる。そのブランケットを持ってきた人を見上げる。いつだって唐突に現れるのは──ラウラだ。


 彼女はプラウディテウイスキーのボトルと2つのグラスを持っていた。


「やあ、ロア。良い夜だね」

「こんばんは、ラウラ。良い夜だ」


 目線が合い、ラウラは何を言うでもなくグラスを片方ロアに渡す。ロアもそれを受け取って、ラウラが注いでくれる間待っていた。


「これは?」ロアはウイスキーのことを聞いた。

「ポップコーンのやつが禁酒健康増進ウィークをするってうるさいからそれへの反抗」

「毛布は?」

「ポップコーン愛用のブランケットを強奪した。あいつこれがないと寝られないんだ。禁酒への反抗」


 残酷すぎる……。ロアはあの幼女──小さな医師がパジャマで泣いている姿を想像してただただ可哀そうに思った。


「ま、あいつは割と丈夫だからしばらく寝なくても大丈夫だよ」

「ほんとに寝られないんだ……。返してあげなよ……。そもそもラウラは毎日飲む習慣もないだろ?」

「それはそうだが、私は誰かに何かを禁止されるのが、あまり好きじゃないんだ」


 ラウラらしい言葉だ。これを飲んだら返しに行ってあげようとロアは思った。


「オスカーワイルドか。趣味がいい」


 ラウラはロアの持っていた本を見る。


 ロアはまた本を見る。遺物『The Picture of Dorian Gray──Oscar Wilde』。表記も著者名も統一言語ではない。


 ──英語の発音を知っている人間を信じるな、か。


「……ラウラ。なぜ英語を発音できるんだ。この世界では、英語は死んだ言葉だろ」


 古シナル祖語、大断裂以前の人類が使用した国や地域によって不統一の言語群。それを簡単に使うラウラ・アイゼンバーグという人間。思えば初めて会った時も、彼女は確かに英語を話していた。


 偽典ネグエルは英語を話す人間を信じるなとそう言っていた。


「はは、もしかして罠にかけようと思ってたの?」

「今日ここに来るとは知らなかったけど。……あなたと会ったとき、反応を見ようと思っていたんだ。ラウラ、あなたはいったい何を知っていて、何を隠しているんだ。ユンを拾ったのもあなたなんだろ? なぜ知っているのに話さない、なんで、隠すんだ……」


 ラウラはロアが膝にかけたブランケットの半分を自分の足にかけ、並んで座る。


「君と同じ理由さ」


 ロアは少し胸が痛んだ。


「君はその言葉を自分に向けているんだろう。きっと、嘘を言ったのが後ろめたいんだ」


 そして、どこから取り出したのかチェスセットをふたりの間に置いた。ラウラは微笑む。


「ロア。君が勝ったら、君の言うことをなんでもひとつ聞いてあげよう」


 ロアはチェス盤に触れる。ルールは知っている。


「なんでも?」

「ああ、なんでもさ。私のスリーサイズだって教えてもいいよ」


 ロアは少し考えてから、ふっと笑って、駒を並べ始めた。


「そっか、そうだな」

「?」

「……僕はセナに今日嘘をついたんだ」

「へえ」

「セナも《紅蓮》のことで僕に隠していることがある。ユンも隠し事をしていたし、あなたも皆に嘘をついている。でも、みんなそうだ。誰もが嘘をつき、世界は嘘で回ってる」


 ラウラは駒を並べながらグラスを傾けた。


「でもきっと全ての真実にはに知るべき時がある。その時を待つ必要もある。それでも知りたいのなら、力づくで勝ち取ればいい。それが探検家だ。……心理戦なんてもとから柄じゃない。ラウラ、さあ、勝負だ」


「ぶっ」


 ロアの言葉にラウラは酒を吹く。


「──ひーははは、ごほ、ごほ。もやしみたいな君が力づくか。……気に入った」


 ラウラはクイーンを所定の位置に置いた。


「……面白い子だ。やっぱり君には話すよ。私の知る全てを。でも君の言う通りそれは今日じゃない。いつか、その時が来たら、ね。だからそう易々とファントムの甘言に耳を貸しちゃだめだ。ちゃんと自律しなさい。約束だ」


 ラウラは薬指でロアのおでこをぴんとはじく。そして彼女は本題を告げた。


「君を私直属の記録官にする。君のことはもうただの餌だとは思わない。本気は受け取ったよ探検家」


 不思議そうにラウラを見つめるロアと、ロアを見つめ返すラウラ。そのあと、彼女はゆっくりと懐かしむように星空を見上げた。


「それでも一つ零すとすればそうだね……私は嘘つきなんだ。何もかもが嘘で塗り固められている」


 そしてポーンは動いた。


「僕は信じたい物を信じるよ。たとえそれが愚かでも」


 ラウラはグラスを傾けた。


「ふふ。その愚かさは、探検家の(さが)なのかもね──」


 夏の夜は、盤上で交わされるふたりだけの会話を静けさと共に見守っていた。


         ×   ×   ×


Rye(ライ)

極地環境再現システム。サリンジャーの定義が込められた自動思考機器を基幹部として動く。ユンが設計主任を務め、トレーニングルームとして重宝されている。特に乖離等級を設定して挑める部分に関してはユン自身アピールポイントとしている。内部には仮想極地生物としてユンが造った岩石魔人ロック・シンとアイアンジェノサイダーがいる。が、最近ロアとセナによって破壊されている


■エンダーシリーズ

対衝撃性能に優れた逆理遺物(パラドックス)。サリンジャーの結薙もそのひとつ。衝撃を100%カットできるため出力を青天井に上げることが出来る。ただし希少であるため市場にはあまり出ない


旅団用支給服(シーカーパンツ)

おしゃれなズボン。紺青と白磁色を基調とする。防刃性能が高い


■ワールドオーダー

ファティマの愛銃。エンダーシリーズの中で6番目に見つかったもの。ロアのエンドレスホープは感情をエネルギーに変換する強みがあるが、これにはそういった能力はない。代わりに必中性能を有し、威力には限界があるものの外すことはまずない(鋼鉄を貫く程度の威力をベースで持つ)。しかし扱うにはかなりの修練が必要であるため使用者を選ぶ


■準極地

ノルニルが自然に生成されていない極地のことを指し、通常の極地に比べ危険性はかなり下がる。それどころか、市民の生活区画が存在することもあるため、極地という語を当てるのが、正しいのか否かが学会でも意見が分かれている


■映画

極地で発見された映像物をもとに作られた映像群、もしくは旧文明の映像物を修復し観られる状態にしたもの。現在はエンタメ大国の耀国とアメリア共同体、そしてアマハラ自由領にて、第26次映画戦争が起きている。国際機構はこの戦争を正式な戦争とは認めておらず、軍事介入は行わないと第3次映画戦争の際に声明を出している


■トロピカランド

極西に位置する国家。世界の台所と呼ばれている。食料自給率が3000%であり、主産業は農業・漁業の産品、及び加工食品の輸出に依存している。国民は極めて明るく陽気な性格をしており「条約なき平和」を実現している稀有な国。ある経済学派はトロピカが滅べば世界が滅ぶと言う。基本的には明るく幸せな国だが、実際にはかなりの経済格差があり、巨大なスラムが形成されている場所もある。見えない貧困に関しては、国際機構も口を出せない


■耀国

アマハラ自由領の直上にある国。人口密度が極めて高く、人口そのものも多い。それは独自の都市防護壁によって国全体を覆っているためであり、重力津波を克服した唯一の国とも言われている。国民はエンターテインメントを心の底から愛しており、特に映画作りには軍事費よりも多くの予算を割いている。国民は特に辛くて熱い食べ物を好む


■多元宇宙論

複数の宇宙の存在を仮定した仮説。この世界においては《シュレディンガーの銀鍵》という存在がその実在を証明している──と偽典ネグエルは主張する。ファントムとは別世界の、別の可能性であり、ノルニルはその「のぞき窓」となっており、世界間を唯一移動できる物質である


■ROOT-01

偽典ネグエルが破壊しなければならないと考えている、全ての世界の参照元の世界。その世界には、他の世界には存在しないものがいくつか在る


■だんじょんレイディオ

ユンがパーソナリティを務める、毎週金曜日放送の生ラジオ。ユンは旅団員との賭けポーカーに負けて、メンツにいた泥酔サリンジャーに、何か面白いことをやれと言われ、渋々このラジオを始めた。なんだかんだ言って評判も良く、次回で第94回となる人気番組となっている


■ふたつの月

オラシオンから見えるふたつの月。大断裂以前には月はひとつだったと唱える学派もいるが、どちらかといえば少数派である左上側の月はやや赤みがかっている


■シュレディンガーの銀鍵

魔鍵のひとつ。不確定な世界を観測することで確定させる逆理遺物(パラドックス)。具体的には、多世界間のノルニル以外の物質移動を可能にする。見た目はダマスカス鋼のような縞柄が特徴的な銀色の鍵である


         ×   ×   ×


 甲板、南部デッキ。第2運動場。夏の日差しと大勢の隊員が見守る中、ラウラの数メートル手前でロアは這いつくばっていた。蝉の声が鼓膜を揺らす。


「出力2%を維持するんだ、少年。0.1%でもぶれれば君の身体は爆発四散する」


「わかっ……」ロアは言葉を発するのをやめて集中した。


 サリンジャーは現在、東北は白神山地──アマハラ最大規模の極地──の偵察と、本目的であるアマハラ総大将関守家への挨拶をするためにマゼランを空けている。


 今日はその遠征2週間の最終日。正式にラウラの記録官となったロアはしばらくラウラから直接の指導を受けることになった。

 記録官とは名ばかりで、ラウラ直属の雑用係の様なものである。だがそれは旅団において、彼女から認められたことを意味する。


 隊員たちは当然嫉妬の目を向けた。ロアはまだ旅団に入ったばかりの新人。皆、自分より格下の探検家が、戦略級(ピリオド)かつ支部長のラウラ・アイゼンバーグの記録官になり、あまつさえ直接指導を受けるなど見過ごせるはずもなかった──……。


「それにしても、観客増えましたね」


 サングラスをかけてズズズとジュースを吸うセナ。


「だってロア氏がぼこぼこにされるの、ごめんだけど面白いネ」ケタケタ笑うユン。


「駄目だよっ! ロアくんだって頑張っているじゃない! 応援してあげようよっ!」


 ポップコーンの言葉にセナとユンは斜め下隣を見る。ポップコーンは救急セットの箱の上に座ってカラメルポップコーンを食べていた。ロアがボコボコにされる様子をショーとして満喫しているので一番タチが悪い。


「もう! ポップまで! ろ、ロアがんばれ~……!」


 控えめに応援するデルタ。おにぎりも握ってきた。


 先述の通り、はじめこそロアをよく思わない者は多かった。だが二日、三日と訓練を重ねるたびにその風向きは変化していった。


 ラウラのアーツのひとつ《踊子》によって一度ぐちゃぐちゃに骨を折られた後、ノータイムで修復される。

 それが3日目まで寝食無しでぶっ続けに行われた。サリンジャーの定義構築と違って、状態が元に戻るだけなので痛みは累積される。

 ラウラの《踊子》ではアーツの代償で生じた傷を治すことは出来ない。それはもはや訓練というよりも一方的な蹂躙に見えた。


 その訓練は隊員たちの間に「極地で死んだ方がマシ」という言葉を生んだ。そして嫉妬していた隊員たちも、その訓練でショック死をしないロアを褒め、賞賛する様になっていった。


 だが、その訓練内容は「憎むべき敵にする攻撃を僕にもやってくれ」とロア自身が申し出たというので、隊員たちは全員ドン引きした。


 その結果、彼とラウラの訓練風景は、エンタメの少ない旅団での娯楽のひとつになった。


「しかし、ラウラのアーツを間近で見られるなんてすごい価値ですね」

「あの少年には悪いが、後学のためにきっちり見学しよう」


 ロックウェル隊隊長のエリス・ロックウェルは第2中隊長のソワカを連れて観覧している。デルタはその様子を見てぷんぷんと憤慨したが、しかしそれはロアの望んだことである。


 あとデルタは、実はロアにはサディスティックの方が効くのかな、などといった間違った方向への理解を示した。


「ロア。《虚心》を100%出し切った時、私が近くに居なければどうなる」

「人が……死ぬ……」


 ラウラは頷いた。彼女は現在、アーツ《潮汐》を使用し、極地における異常重力を再現していた。


「ルールをおさらいしよう。君は指一本でも相手に触れればその相手のアーツを無力化できる。私を無力化すれば君の勝ちだ」

「あ……あ……」


 這いつくばって集中。感情を身体に循環させる。そして増幅。振幅を一定に保つ。波動がぶれれば、観客を巻き込む惨事が起きる。ロアがセナと同等の身体能力を得て、極地踏破という長時間行動をするには2%が限界であり適当だ。


 そして2%ならばこの異常重力を突破できる。


 ロアが過ごした三日三晩の破壊と再生によって、とうに痛みの閾値は超えていた。それでもロアの身体は適応しようとあがき続ける。


「あのラウラ様……。この下賤の男をかばうわけではありませんが、そのあたりで止めてはどうでしょうか……」


 ラウラに梨ジュースを持ってきたスイレンが言う。


「スイレンが私に物言いなんて珍しいね。でも彼はこれを望んだよ」


 淡いピンクの髪をなびかせ、スーツで少し暑そうにするスイレンは少し考え、悩んだが、それでもラウラに意見することにした。


「思うに、痛みには慣れない方が良いと思うのです。痛みとは、過去を刻むもの。そして思い出すものです。確かにこの方法は合理的ですが、アマハラ的ではありません」


 ラウラはそれを聞いてふむと一考する。彼女はスイレンを一流とは言わずとも良い探検家だと認めているので、その言葉は一考に値した。

 そしてラウラは唐突に《潮汐》を解除した。反動で吹き飛ぶロア。


「じゃあ、スイレン。アマハラ人の流儀を彼に教えてやってよ」

「承知いたしました」


 瞬間戸惑うが、すぐに返事を返すスイレン。

 彼女は薄桃色の髪をゴムで縛り、スーツのジャケットを脱いで腕をまくる。靴も靴下も脱いで放り、パキポキと骨を鳴らして戦闘態勢に入る。ラウラは吹き飛んだロアにむけて叫ぶ。


「ロア! スイレンに勝てたら彼女が君とデートをしてくれるらしい!」


「なっ──!?」

「ヴっ」

「えっ!?」


 数人の異論が聞こえる。


「あなたは……いつも冗談ばかり……。だが……この勝負、僕がもらうぞ──!」


         ×   ×   ×


 ロアはただ闇雲にぐちゃぐちゃに破壊され再生されていたわけではない。


 彼はその「痛み」を重視していた。ロアの身体はノルニルの様な挙動をする。感情が出力に直結する。怒れば怒るほど100%の天井は上がっていくのだ。


 だが、問題は制御ができないことにあった。感情は数値化ができない。だが、痛みならば可能だと彼は仮説を立てる。ロアは痛みを受け、そのレイヤーを作り、痛みの度合いによって出力調整をしようと考えたのだ。


 ──上手くいくかはわからない。でも、やるだけやってみよう。


 ロアは自分の腹を思い切り殴りつけ、這いつくばる。


 スイレンはそれを見て「ああ、壊れちゃってる」と思ったが、警戒は怠らなかった。


 拳を握り、代価の「発汗」を支払う。


 スイレンのアーツは《鉄拳》。その能力は単純明快、鋼鉄をも曲げる打撃を放つ。


 スイレンは多量の汗をかき──彼女のファントムは熱血系であり汗を流すことを至上の喜びとしている──ながら拳を突き合わせ力をためる。


 ロアはゆっくり立ち上がり、その痛みの度合いを参照、この痛さは2%に値するだろうか。ロアの碧い瞳が、片目だけ白く濁る。《虚心》が発動し、彼は駆動する。


 スイレンはその唐突な変化に目を疑った。だが、ソレがまるでさっきとは違う雰囲気を放ちながら動いていることをすぐに理解し、拳を地面に撃つ。

 空に跳ね上がるスイレンの身体、一瞬だけ遅れてロアの指が空を切る。


 GRAAAAAASH──。


 スイレンはその残響が耳に届き、恐れが湧いた。

 ロアはこの時、痛みの出力を誤っていた。


 実際、スイレンの言っていたことは正しかったのだ。ロアは痛みに慣れるべきではない。それはアマハラ流とは関係ない。彼が痛みに慣れれば、調整弁が曖昧(ファジー)になるということ。


 現在彼は《虚心》を20%出力している。それはサリンジャーの放つ一撃にも比肩する。


「くっ──」


 空中で身を翻したスイレンは地上からこちらを刈り取ろうと狙うロアに向け拳を溜める。一撃だけでも当てれば──、そう思った瞬間に、それが間違いであったと悟る。


 ロアは《虚心》を解除。そして、ただスイレンに向けて手を伸ばした。


 ロアは触れれば相手のアーツを無にすることができるのだ。


 スイレンはふっと笑った。彼は正面から挑む気だ。彼女は刹那、思考を巡らせる。


 ──こんな近くでラウラ様がみている。私なんて、ただの路地裏の捨て犬だ。それを拾ってくれた人に、今の私を見せたい。私は負けませんよ、ロアさん。あなたが特別でも何でも、私には関係ない。ラウラ様の犬は、私一人で充分なんです!


 ノルニルは心の発火で爆発的な力を生じる。


「盾か矛か、やってみようじゃない」


 スイレンは両手を組み、ロアを破壊しようと身体を振り下ろした──。


         ***


「──ひ~、あっはっはっは。まさか相手のアーツを無力化したあとのこと考えてないなんて思ってもみなかった」


 ラウラは腹を抱えてケタケタと笑っている。


 ロアは無事にスイレンのアーツを無力化した。だがスイレンに触れた後、降ってきた素のスイレンに馬乗りでボコボコにされたロア。現在はスイレンの尻の下でうなだれている。


「ありがとうございました《鉄拳》。またお願いしますね」


 拳にそっと口づけをしたスイレン。彼女の頭を撫でるラウラ。犬のように喜ぶ秘書。


「というわけだロア。君はまだ専門級(エキスパート)にも及ばない。極地潜行スキルも経験も足りない未熟者だ。それでも私は君を選ぶ。君を利用するためにね。君はまだやれるかい」


 ラウラが試すように言うと、スイレンの尻の下にいるロアははっきりとした声で言う。


「違う。利用するのは僕の方だ。ラウラ、あなたは僕とセナがシャンバラに到達するまでの中間地点に過ぎない。そっちこそまだ頑張れるのか」


 私が頑張る? ラウラがそう言うと、観客から拍手や指笛といった茶化しが飛ぶ。ラウラは笑いながらしゃがみ、ロアを覗き込む。


「頑張るって言葉は嫌いなんだ。頑張りはしない。ただ、やるだけだよ」


 ロアもそれに笑って応じた。


「ああ、なら僕もだ」


 ふたりにしか通じない空気感に嫉妬したスイレン──もういい大人である──はロアに体重をかけて抗議した。


 それを見ていた隊員たちは改めてその傲慢で豪胆な新入りを迎えようと考え、見守っていたセナは彼の言葉に勇気づけられ、サリンジャーが帰ってきたら訓練を増やそうと決めた。


 ただ皆は思っていた。女子の尻に敷かれていなきゃ、かっこよかったのに、と。


         ×   ×   ×


 サリンジャー隊が帰艦した後、デッキ直上のブリッジにて会議が行われた。

 ロアとセナは当然会議に参加する階級でもないので、ロアはファティマとの射撃訓練、セナはひとりで《Rye》に籠って、仮想極地13等級に潜っていた。


「ポップコーン。ロアの健康状態はどうだ」


 ラウラが会議を始める。


 戦術ホログラムが展開されるテーブルを囲む幹部たち。ユンはモニターの中からカタカタとキーボードを叩いて画面を操作している。ポップコーンは机からおでこだけ出ている。


「ロアくんの傷はもうほぼ完治してるよっ。ラウラが無茶したから心配したけど、逆にそれがよかったみたいっ! もしかしてそれを見越していたの~?」

「ん? あー。そうそう。そうなんだ。私はなんたって最強の探検家だからね」

「んなわけがあるか。この馬鹿は自分の事しか考えちゃいねえよ」シリウスの鋭い指摘。


 その様子を見ていたロックウェルはその「いつも通りの風景」に安堵した。

 彼女は、黎明旅団第9支部は決してファントムを殲滅するための集団じゃないと彼女は思っている。

 だが、ここのところの相次いだ強襲により、ラウラやシリウスがそちらに舵を切っていてもおかしくはないと思っていたのだ。


 実際、ラウラはシンジケートを討伐目標として定めた。だが、彼女の目線はもっと遠い。


「今回の遠征の行き先は東の海の先、アメリア共同体──ロサンゼルスだ」


 ラウラがそう言うと、隣のサリンジャーはホログラムに触れながら疑問符を浮かべる。


「シンジケートの根城でも在るのか? あの極地は一筋縄ではいかないだろ」

「そうだね、あそこには別の目的がある、皆も聞いたことくらいはあるだろ《魔鍵》のこと」


 その場にいた全員がすっと息を吸って黙った。それはシャンバラと同じく、探検家の間に語られる幻の逆理遺物(パラドックス)


 当然その存在をまともに信じる者も少ない。


「──ラウラ。ヴィンソンマシフの惨劇を忘れたのか。前も言ったがそんなものは存在しない」


 シリウスが言う。彼は探検家にしては珍しい極度の現実主義者(リアリスト)だ。極地潜行も、実際的な利益がない場合は申請を却下する場合がある。


「お前みたいな偏屈がいないと烏合の衆になる。だから支部長としてそういうところは評価するけど、同期としてはもっと楽しい探検家になって欲しかったね」


 ラウラがそう言って笑う。目は笑っていなかった。


「ユン。今保有している情報を展開してくれ」

「んえっ!? マ、マジ? やっちゃうの? 誰にも内緒って言ってたじゃんネ……?」


 ラウラが再度頷いて見せたので、ユンは《魔鍵》に関する機密データをホログラムで展開し皆に開示した。それを見たサリンジャーは口を覆った。


「大まかな存在位置に……、確実に存在するふたつ……。敵の手には既に一つだって?」


「私がシャンバラの存在を本気で信じている根拠はこれさ。まず、私はこの眼でふたつ《魔鍵》をみたことがある。そしてまだ見ぬいくつかに関しても、大まかな場所の検討をつけている。──残念ながらそのうちのひとつ《シュレディンガーの銀鍵》は敵の手の内にあるがね」


 魔鍵。それは、使用者に運命を捻じ曲げる程の力を与える逆理遺物(パラドックス)。他の遺物が理に反するものであれば、魔鍵は理を作り出すもの。

 世界に7つ存在するとされているそれは、特異点とも呼ばれている。


「火のない所に煙は立たない。7つの魔鍵はきっとシャンバラにつながる。信じる価値は充分にあると私は考えているけどね」


 どこを見るでもなくそう言ったラウラに向けて、言葉を発したのはロックウェルだった。


「……乗った。敵よりも先に取ることには大きなメリットがある。──ただし、人死にがないことを約束してくれラウラ」


 エリス・ロックウェルはシリウスに似てリアリストで合理主義者だ。それでも探検家として譲れない心の中のわくわくを抑えることが出来なかった。


 堅物の彼女がそう言うので、他のメンバーも頷くほかなく、実際に彼ら彼女らも、わくわくしていた。


 最後にシリウスが諦めて頷くと、今回の遠征の許可が正式に降りることとなった。


「しかし、シンジケートの討伐と魔鍵の奪取には、具体的に何の関係があるんですか?」


 観測船マゼランの舵をとる一等航空士、操舵長のラーセルがそう質問をした。それにはサリンジャーが答える。


「アタシが奴らなら魔鍵は当然集めたい。そのために戦力の多くを割く。ならそこを叩けば、敵方の戦力の多くを削れるって算段、ってところだろうな」


「なろほど。えっと、それじゃラウラさんが知ってるあとひとつっていうのは?」


 操舵長が訊いたが、ラウラは適当な顔をしてそれを誤魔化した。


「シンジケートよりも先に《魔鍵》を回収する。それが今回のミッションだ」


 そう言ってラウラはシャツの袖をまくる。袖をまくったのを見てラーセルはぎゃっと叫ぶ。彼は質問なんてしている場合じゃないと、慌てて館内放送をつないだ。


「全艦、浮上に備えろ!! 繰り返す!! 全艦、浮上に備えろ!!!!」


 そう、操舵長にとって腕まくりは合図だ。


「すまないラーセル、今は答えられない。あいにく、時間がないんだ──」


 《Rye》が緊急停止して不思議に思ったセナは館内放送を聞く。


「緊急だ、これは訓練ではない!!!! 繰り返す、これは訓練ではない!!!!!」


 ──GRAAAAAAAAAAAAAAAAA。


 船体が斜め45度に傾いたと思ったら、元に戻り、轟音が周囲を包む。

 シリウスとポップコーンはマゼランの各部門に緊急浮上の通達。サリンジャーはデッキから転げ落ちた連中──一応重力で拾われてはいる──を救助しにロックウェルと走る。


 ブリッジではただひとり、ラウラ・アイゼンバーグが両手を伸ばしていた。指先が精緻に船を操る。それはまるでオーケストラを操る指揮者のようだ。


 ラウラのアーツのひとつ《潮汐》。その力は重力操作。極地観測船マゼランを大地の重力から解放し、上方に吹き飛ばないよう押さえつけ、前方に超重力を作り、推進。


 操舵長ラーセルは気合いで立ち、舵を握る。


 船を操舵するのはラーセルだが、この船を飛ばすの自体は技術ではなく、ただラウラの指先だ。


「じゃ、行こうか」


 ──VARI、VARI、VARIT。


 観測船マゼランはその巨躯をアマハラ自由領の大地から引きはがし、上下、左右方向に反転。その行き先をオラシオンで最も強大な国、アメリア共同体へと向けた。


 ロサンゼルス到着までは、幾日か。


         ×   ×   ×


 ロアとセナは悩んでいた。


「絶対お酒ですよ。プラウディテウイスキーにしましょう」

「あれの正規価格知ってるのか? この間ラウラの部屋で見たのは──」

「!?!? 私たちの年収じゃないですか!!!!」

「土台無理な話だ。それに、サリンジャーならあれを水の様に飲み干すぞ」

「うっ、嫌な想像ですね。でも割とその通りかもしれません……」


 セナとロアはマゼランの甲板にて相談をしていた。それは、サリンジャーがシリウスの厳格な対処も振り切って命がけで自分たちのことを助けてくれたことに対する感謝を、何かしらの方法で伝えたかったのだ。


 そこに折よく通りかかった何も知らないデルタ。


「あ、ふたりとも。おはよ~。天気気持ちいいね」


 デルタもショックからすっかり立ち直り、ロアの怪我も治った頃合い。というかロアはデルタの目の前でラウラにぐちゃぐちゃにされているので、それが元気の証左でもある。


「日差し強くないですか? 空に居るとより近く感じます」

「わかる! あ、日焼け止めクリームあるよ」

「あ、僕ほしい」

「ロアって肌敏感ですもんね……」


 デルタは顔を真っ赤にしながらロアの手の甲にクリームを出してあげる。


「ありがとうデルタ。君は救われてばかりだ」


 ロアはいちいち大げさである。


「へへ……。お役に立てて何よりだよ」


 そう言えばと思いついたようにデルタが顔を変える。


「ふたりともポップに酔い止め貰った?」

「私は前の分が残っているので」


 ロアは何のことだろうとぽかんとしていた。


「えっとね、離陸してしばらくは良いんだけど、一日経ったくらいかな。多分日差しとか気にならないくらい船酔いになるから、お薬あるといいよ~」

「ああ、それなら大丈夫だ。僕はお酒にも酔わないし、割と丈夫らしい」

「そっか! たくさん飲んでたもんね。なら大丈夫か」


 あっ、と思い出したようにセナはデルタの方を向く。


「実は今、サリンジャーにこの間のお礼をしようと話し合っていたんです」

「極地の? サリンジャーならそんなに気にしてないと思うけどなぁ」

「それでも僕らは救われたから、感謝を伝えたいなと」


 ふむふむと考えたデルタは、頭上にピコンと豆電球を浮かべ、にこっと笑った。


「手作りの耀国料理とかどう? サリンジャーの故郷の料理!」


 それを聞いたセナとロアの顔はぱぁっと明るくなる。


「それにしよう!」

「素敵ですね!!」


 そしてセナとロア、ついでにデルタは艦内市場に向かってグゥァンマン火鍋の具材を買うとそのままの勢いでサリンジャーの部屋へと突撃した。


「なんだなんだ揃いも揃って」


 筋電義手のトレーニングをしていたサリンジャーが汗を拭きつつ三人を見やる。


「サリンジャー、まだあなたに助けられたことのお礼を出来ていなかった」

「だからデルタの案を貰って、サリンジャーの故郷の料理を作ってみました!」

「えっと、あたしはつきそい!」


 サリンジャーは彼女らが手に持つ鍋を見て、耀国火鍋をやるんだなと察した。そして、少し懐かしい気持ちになりながら、ふふっと笑う。


「セナもロアのことも、アタシはかわいい妹弟だと思ってる。そいつら助けるのに、貸し借りなんてねーさ。でも、火鍋でテンションがブチ上がったから食う」


 セナとロアはおもはゆい気もしながら、それを喜んでもらえてよかったと思った。それからはデルタが持ってきた映画を上映しながら鍋を作ってつつき、匂いにつられて次第に旅団員も増え、結局酒乱による酒乱のための酒乱パーティーへと変貌するのであった。


 だが、サリンジャーにとってそれが一番の贈り物だったのかもしれない。


         ×   ×   ×


■シーカー調査ファイル:ファティマ

所属:第9支部、所属は一応司書部隊だな

本名:名前はカナメ。姓はヒミツだぜ

性別:女だぜ

年齢:15歳。祈暦1069年5月13日生まれだ

出身:生まれはエルゴーだが育ちはアマハラだな

身長:147㎝。ま、それで満足してンだ

体重:軽いぜ~

配偶者:許婚はいるけど無視してる

乖離等級:*********

階級:一応専門級だぜ

役割:後衛。狙撃部隊でもあるし狙撃教官もやってるぜ

性格:ンはははは。下衆って言われるな

特徴:黒髪、青のインナー。瞳は蒼だ

能力:狙撃かな。アーツは**********

研究分野:図書学、流体力学、先端解剖学、極地奥部学

家族:ンー。実の家族にゃ興味ないな

友人:旅団の奴らだな

目標:なんだと思う?

一言:スイレン、お呼ばれだぜ~


         ×   ×   ×


■シーカー調査ファイル:スイレン

所属:第9支部、所属は支部長秘書室です

本名:わかりません。私はスイレンです

性別:女性を自認しております

年齢:23歳です。誕生日は覚えていません

出身:アマハラの路地裏で育ちました

身長:163㎝です

体重:えっと、それはあんまり内緒です

配偶者:いません。ラウラ様にお仕えしておりますので

乖離等級:20等級です

階級:専門級ですが、潜行には期待しないでください……

役割:秘書です!

性格:んむ……。犬っぽいって……、言われます……

特徴:ずっとスーツです。淡いピンクの髪は地毛ですよ?

能力:《鉄拳》です。強いパンチ! でも多汗です

研究分野:上級栄養学、調理師免許、一級製図免許

家族:アマハラギャングの子たちはみんな家族ですよ

友人:特別分けているつもりはないですね

目標:ラウラ様の幸せです

一言:シリウスさん。カフェインの摂りすぎですよ

貴重なお時間を割いてお読みいただき誠にありがとうございます。

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