247 方舟|八神ライザという女
※以降、同作者の『黎明旅団』と合流し、交互或いは混ざりながら物語が展開されます。
八神ライザという名前に違和感を覚えたのは、自分が世界をループして、それが数え切れなくなったころだった。その頃から、たまに耳にした単語、ラウラ・アイゼンバーグ。冷帝と同じ名であり、自分の真名。
「それが果たして本当に自分なのかと最初は疑ったね。でも、こうしてあんたが目の前にいるってことは間違いなくそうなんだろう。やだな、顔そっくりじゃん。ほくろの位置まで一緒とかさ……」
私は自室に戻った時、違和感を覚えて直ぐに魔剣を召喚した。だけど、その相手へ攻撃することはなく、拮抗だけが続いた。窓際で梨をシャクシャク食べているのは、鏡写しの自分、ラウラ・アイゼンバーグだった。
「やあ、私はラウラ。《破戒》のといえばわかりやすいかな」
破戒の二つ名を冠するのは黎明旅団のいる世界、ROOT-0001のラウラ・アイゼンバーグだ。冷帝ほどでないにしろ、最強格のアーツホルダー。否、多世界の自分のアーツを使うからファントムホルダーか。
「何かを為すために他のラウラを殺して周ったって噂だけど、ほんと?」
「本当だよ。私にはそれしか方法がなかった。君みたいに冷帝が創った自動時間巻き戻し機を持っていないものでね。魔笛を使うしかなかった」
私はマクスウェルの魔笛を持っていたが、最期に浅倉シオンに託すまで使うことはしなかった。それは、水瓶座を背負う仙石ネムリの巻き戻しがあったからだ。だがラウラにはそれが無く、人の命を代償にした──。
「君が羨ましいよ。特異点を持つかわいい後輩が身近にいてさ。私達の世界とは命の重さが違う。我々はあくまで借りるだけ。本当に破戒なのはどっちなんだろうと思うね」
「ラウラ。あんたの目的は何? どうやら仲良く酒を飲もうってわけじゃなさそうだけど」
彼女は「はは」と笑った。
「私たちの世界は今戦争の最前線にある。こうして意識だけこちらに飛ばしてはいるが、本体がどれだけ《終末》を押さえられるかわからない。私はね──」
──お願いをしに来ただけなんだ、彼女はそう言った。
「それはどんな類の?」
「君の能力《繚乱》。ヘタをすれば一騎当万の最強の兵士となり得るその能力を、決して、誰にも使わせないで欲しいんだ」
「本来私と同じ存在であるあなたしか使えないでしょうに」
「そう。本当ならね。でも君は私に貸す気はないでしょ」
ああ、全くない。黎明旅団が冷帝についていないと、確信がないから。
「じゃあ誰にその力を貸した?」
「確信があるの?」
「予想だよ。でも今そいつがロサンゼルスに現れたら、ちょっと痛くてさ」
「なら教えても意味はないね。──もうすぐ、会うだろうから」
ラウラ・アイゼンバーグの表情が崩れることは最後まで無かった。ただ感情が凪いでいるようで、諦念にも近いその雰囲気が、私との交渉の一切を決裂させたと感じさせた。これでいい。まだ手を組むには情報が足りない。
「魔刃学園のラウラ。君は黎明旅団と殴り合う気はある?」
「今はない。もうひとりの冷徹な皇帝をどうにかするので手一杯だ」
私は、それに、と加える。
「私は八神ライザ。ラウラじゃない。それは、小さいことだけど、絶対だ」
年長のラウラ・アイゼンバーグは表情を特に変えず、分かったと言って消えた。それがどう影響するかはわからない。ただ、あの世界とこの世界は間違いなく近接しつつある。その境界は曖昧になり、やがて──融け合う。
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