226 西地区|永崎桐生戦・終戦
ぼろぼろになった建物、地面を横に、桐生カノンと永崎ナギサはのんきにサンドイッチを食べながら話をしていた。彼らが派手に暴れたせいで、こちらに人は来ず、悠長にしていてもさして問題ではなかった。
「俺は滋賀県の特異点を守っていた。魔刃学園卒ではないが、そこそこ優秀な自負はあったんだ。だが、剣聖はいつでも東京の守護を優先した。滋賀が百鬼夜行に遭っても、見向きもしなかった」
「──魔刃学園を恨んでいるわけでも、剣聖を恨んでいるわけでもないんでしょう?」
「なんでそう言い切れる」
「なんとなく。力を持つ者には相応の責任がある。大いなる力には大いなる責任。でも、剣聖はそれを出来なかった。シオンの時も、力を持つ者が勝手に世界を作り変えた。引っかかっているのは、そこなんでしょ」
桐生カノンは永崎ナギサと対話をする中で、確かに自分の中の感情が整頓されていくような感覚があった。大いなる力を持つ者に責任を問いたい。それは自分が持たざる者の証左であって、見苦しいとさえ言える。
だが、そんな彼を永崎ナギサは受け入れている。
「私はいつも、教室で大きな声を出している人たちに委縮して、その圧力の中で浸透し、生きてきた。だからね、規模とかそういうのは違うけど、わかるんだよ。自分が無力だと知った時、人がどれだけ絶望するのかを」
それは永崎ナギサなりの諦念であったが、桐生カノンは言い得て妙だと思った。スクールカーストの話など、どこにもつながりはないが、どこか似ている。誰かを助けるということは、誰かを助けないということ。
「その選択権が、いつだって強者にあるのが、許せなかったんだ」
「私はその心を醜いとは思わないよ」
「その為に誰でも殺すんだぞ、俺は」
「嘘だね。あなたは悪人しか殺さないはずだよ。記録みたもん」
「なに?」
永崎ナギサは浅倉シオンを狙う、つまり一枚岩から外れた人間をよく観察するようにしていた。恐怖政治や監視管理をしたいわけではなく、浅倉シオンを打倒するにふさわしいかを独断で調べていたのだ。
大義のない人間にシオンが殺されるのは避けたい。シオン以上に世界を助ける気持ちがある人間になら、構わないと彼女は思っていた。だからこそ、桐生カノンは決して悪ではないし、紛い物ではないと知っていた。
「……じゃあ、俺は初めからここにおびき寄せられてたんだな」
桐生カノンは清々しい気持ちになった。浅倉シオンには勝てなかった。外堀は深くて広い。もう任せてもいいという諦念すらあった。だが、それは悪い意味の、負け犬の諦念ではない。自分には、別のすべきことがある。
「これを持っていけ」
壱級の資格証。
「お前は表側で浅倉シオンを助けろ。俺は裏側から浅倉シオンを助ける」
「ふふ。なんで助ける側に回るの?」
「お前みたいな奴に慕われる奴なら、信頼できるからだ」
浅倉シオンがその当時の剣聖だったのなら、きっと滋賀にも急いで駆けつけてくれたのだろうな。桐生カノンはそう思いながら、気絶した。その気絶は、不思議と嫌な感覚はしなかった。
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