200 おかえり
「なんでユウリってスズカが好きなの? おっぱい星人のなのに」
「お前男子になんてこと言うんだ。このセクハラ魔」
藤堂イオリと姫野ユウリは騎士寮の談話室にてピザまんを食べながら恋バナをしていた。ちょうど東雲スズカがお風呂に行ったタイミングだったので、イオリはこれ幸いと思ったのだ。ユウリは意外とガードが堅いし。
「そりゃデカい方が好きだけどさ、好きな人のおっぱいはまた違うんだよ」
「きも」
「お前が言えって言ったんだろうが!!!!! おい!!!!」
ケタケタ笑う藤堂イオリは自由を謳歌している印象があった。前まではレーヴァテインという魔剣の「意識」でしかなかった。だが、今はもう解き放たれている。アーツ《炎獄》によって、今度はその魔剣を使う側になったのだ。
姫野ユウリはというと、依然、過去東雲スズカと恋人関係であった記憶は失ったままだ。だが、彼女のことを強く想う気持ちは消えていない。むしろ、何かを喪った気持ちがある分、より一層、彼女を大切に思っていた。
「ユウリ君そんなでっかい声出したらお風呂まで聞こえるよ……? まだマッサージチェアにいるから大丈夫だけど」
そう言って藤堂イオリの座るチェアの手すりに尻を乗せたのは綾織ナズナ。
「こういう無防備で顔がいい巨乳も確かに好きだ。でもな、それはただえっちなだけだ。好きとはまた違うんだよ」
直後二人分のビンタを食らう姫野ユウリ。元の位置に戻った二人はしらーっとした目つきで姫野を見ながらピザまんを分け合った。
「このデリカシーの無さは大断裂があっても治らなかったね」
「カスだね。死んだままの方が良かったよ」
「言っちゃいけないこともあるだろ!!!!」
だが、気配を消して隅っこで映画を観ていた牧野コウタは二人の女子に賛同した。「姫野。お前はキモイということを自覚しろ」その後またイヤホンをつけて自分の世界に帰っていったので、姫野はただただ傷ついた。
「なんだよぉ……。男子ならこの気持ちわかるだろぉ……」
「思ってもいいけど言葉にする所が駄目なんだよ君は」
風呂上がりの乙女カルラは姫野の頭をわしわししてそう言った。彼は最近めきめき力をつけて、身体も逞しくなっている。姫野はその点も加味して一層ムカついた。
「モテる奴にはオレの気持ちわかんねぇよ……! このふともも好き」
うっとダメージを食らう乙女カルラ。そう、この男、モテるがふともも好きという変態の烙印を捺されている。
「やめろ! 僕はただ太ももが好きなわけじゃない! 普段痩せたくて頑張ってるのに、どうしても太ももだけは太くて、悩んでる女子の太ももが好──」
二発のビンタを食らう乙女カルラ。どうやら女子には危険な話題だったらしい。女子は元の位置に戻るとここにはロクな男子がいないという話になった。
「え~恋バナじゃん! カザネもまーぜて!」
痩せたいのに太ももだけは太いギャルこと燐燈カザネがショートパンツにもこもこのパジャマの姿でやって来た。騎士戒律の勉強が嫌になったとのこと。そして目を逸らす乙女カルラ。カザネ以外の女子が全てを察する。
「うん、いいよ。女子寮で女子会やろっか」
「だね。それがいい。フケツな男子が居たら女子会が穢れる」
落ち込む男子。
「え~、でもアタシみんなと話すの好きだよ?」
こういう所が好きなんだ。乙女カルラは心で呟く。
「それに、みんな揃ってからの方が嬉しいな」
少し寂しそうな声で言うカザネ。それには皆も同意した。男子会はアレンのことを待っているし、女子会は、消息不明の彼女を待ち続けている。暗い雰囲気に包まれる談話室。そこに、風呂上がりの女子がとてとてとくる。
「あんた達バカね。あのバカはまたどうせひとりで抱え込んでうだうだしてるだけよ。またひとりの責任だとでも思ってるんでしょ」
東雲スズカは理解している。大断裂も、故郷を捨てることになったのも、なにも浅倉シオン一人の責任ではないことを。
「ここには沢山の業を背負った人間がいる。その人たちが、あのバカに帰れって言ってくれるでしょ。大体、そうじゃないと鐘との契約に使った『青春』が払えないし。そうは思わない?」
「……たしかに。シオン、鐘の前で会った時も悩んでた。シオン、変なとこでバカだから、思いつめちゃってるんだと思う」
「浅倉は馬鹿だからな。確かにそのうち戻ってくるだろ。馬鹿だから」
「シオンたゃはおバカだしほんと頼ってくれないんだよね~。かっこいいけど、ちょっと嫌かも~……」
「ね? そう考えると別にあんた達が気負う必要もないでしょう」
東雲スズカの声に賛同した皆でバカコールが始まる。それは愛を以て、帰ってきて欲しいという、友人からの、呼び声だった。ばーかばーか、ばーかばーか、浅倉シオンのばーかばーか!!
東雲スズカはそれを見て腹を抱えて笑った。
「ですってよ、おバカさん」
「……」
東雲スズカの後ろに隠れていたバカこと浅倉シオンは気まずそうに顔を出す。それを見て、さらに気まずくて沈黙する一同。
ホームレス生活で、心も体もぼろぼろの浅倉シオン。寮への帰還を決心して、どんな顔されるかと思い帰ってきた途端、バカと言われる始末。
「みんなにバカって言われた……、帰ろ……」
絶望顔の浅倉シオンがまた外に返ろうとすると、皆がアーツを使って彼女を抱きとめ、その場から動かそうとしなかった。皆、めいめいに言いたいことがあったが、それでも、皆同様に思ったことを、叫んだ。
「「「「「おかえり!!!!!」」」」」
──こうして浅倉シオンは自分の帰るべき場所、帰りたかった場所に戻ることが出来た。彼女の不安と、皆の不安は解きほぐされる。夜を明かす長い語らいによって、それぞれの痛みが、中和してゆく。
ラプラスの撃鐘はそれを眺め、ある問いに対する、答えのようなものを得た。そうか、これが青春というものなのかもしれない。
ようやく本当の準備が整った。世界を救い、折紙アレンを取り戻すための準備が。それぞれが次の訓練に向け、心の刃を研ぐ──。
その前に、ちょっとだけパーティーをしたのは、アレンには内緒だ。
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