184 ラプラスの悪魔
虚構剣の柄を二人で握り、刀身にそれぞれ指を滑らせる。ざっくり切れた指から、永遠を孕んだ血が滴り、それをベルに垂らす。すると、灰色のベルは、みるみるうちに肥大化していった。やがて黄金に輝いたそれは、間違いなく──。
「《ラプラスの撃鐘》……──だ」
そのナギサのつぶやきに呼応するように鐘はゆらりと宙に浮き、ゆうらりゆうらり、GOOOOOOOOOOOOOOOOOONと巨大な音を鳴らした。
ゆうらり、ゆうらり、揺れて、問う。
『如何にも我はラプラス。
悪魔と呼ぶものも居れば、
鐘と呼ぶものも居る。
アカシックレコードの番人、
そして万象の守り人。
……我を召喚し人間よ──。
我はこうなることも知っていた。
であるからして我は人間の前に姿を現した。
問うべきことがあるのだろう。
問うがいい。
世界の過去、現在、未来を知る。
生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えも知っている。
それは42だ。
だがそれ以外も知っている。
構成する何もかもを、真理を、全ての人生と感情を、この物語の結末を。
この情報空間の全てをこの身に宿す。
故に我は言葉を使う。
問え、全ての業を背負いし悪魔、浅倉シオンよ。
問え、答えを見つけし道化、永崎ナギサよ。
問え、問え、問え』
私は質問の権利が一度であることを考慮し、酷く気を使った。ここでミスればご破算だ。そして、ナギサと手をつなぐのを決してやめなかった。むしろ離したら引き裂かれる。もうそんなのは嫌だ。二人で、皆の待つハッピーエンドに辿り着く。それが私の、唯一の、絶対解答だ。
すっと息を吸って、吐いて、そして問う。
「《ラプラスの撃鐘》はこの世の全ての事象を知っている。知らないことなど何もない」
『それは問いか? ならば答えを──』
「違う。事実を話しただけ。間違っているのなら、あなたが勝手に訂正すればいい」
『なるほど、では今のその確認は問いか?』
「へえ、なんでも知っているのに、私が知っていることを知らないのか」
『否。当然知っている。
お前如き永遠崩れが知っていることは、
当然我も知っている。馬鹿にしてはならない』
「だよね。失礼した。じゃあ本題の質問に入ろうか」
「センパイ、大丈夫?」
「任せて」
私は《ラプラスの撃鐘》にそっと触れて、言った。
「第一条件、私が消し飛ばした80億人を元の環境で復活させること、この際テセウスの船みたいなパラドックスは考慮しなくていい。第二条件、浅倉シオンと永崎ナギサが永遠を失っても死なない事、また、年齢も今のままであること。第三条件、虚構剣の中に眠る人々を起こすこと、できないのなら、これは自分でやるからいい。第四条件、《冷帝》を殺すための方法を私に教えること。最終条件、これらを満たす世界の完了をお前自身が見届けること。──もしマルチバースを巡って演算しても、お前がこれを満たせないのなら、お前は全てを知っているなどと謳うな。私はお前を恨むし、贋作と呼ぶ。どうする?」
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