176 暗黒時代
◆浅倉シオンの中学時代◆
「キャハハハハ。マジでトイレでマシ喰ってるとかキモ過ぎるんですけど」
女子生徒らの嬌声が小さなタイル張りの女子トイレに響く。
「飯食ってトイレしてとか人生トイレで完結してんじゃんw」
「浅倉トイレに改名した方が良いんじゃねww」
「ヤバ! 名前からしてくさそうなんですけどw」
最近はこの程度のいじりは全然大丈夫になってきた。あんまり慣れない方が良いんだと思うけど。でも、一度慣れてしまえば痛くないから大丈夫。私ってば、頑丈なのだけが取り柄なんだ。陰キャだけどメンタルは強いもんね!
だけど、なんで涙がこぼれるのかは、わからなかった。私には、この涙の止め方もわからない。
たぶん世間的にはいじめであるこの活動が始まったのは、中学に入ってすぐだった。私は昔から陰キャで、でも明るい性格でもあったので、魔剣師名鑑を持ち歩いて、明るいオタ活をしていた。オタクが明るてもいい時代になったと思っていたのだ。
でも、私の話に延々と突き合わされた側が、どういう気持ちになっていたのかに気付けていなかった。私は、自己満足で楽しさを人にぶつけ、簡単に言えば空気が読めていなかった。
私はよく男子とお話した。男子の方が魔剣師の話はよく通じたからだ。サッカー好きな女子、野球が好きな女子、そういう子たちが男子と話が合うのは小学校の時からずっとそうだった。だから、女子が男子と喋りすぎると良くないということがわかっていなかった。特に思春期の女子は、いとも簡単に嫉妬する生き物だと、認識できていなかった。
「キモオタビッチ」
私に初めにつけられたあだ名だった。ビッチと言われてもそういう経験がなかったので、あんまり傷つかなかったけど、そこで傷ついていれば、もっといじめは早く終わったのかな。
私は次第に女子と喋ってもらえなくなり、女子からハブられている私は男子からも面白半分でハブられるようになった。私をハブることがクラスや学年で流行した。
そんな時でも魔剣師名鑑だけが私を励ましてくれた。誰と話さなくても、私のヒーローたちが心の中でいじめっ子を八つ裂きにしてくれた。今思えば、闇堕ちってこういうことなんだと思う。
でもある日から、私は憧れの魔剣師たちを、脳内で復讐するのに使うのをやめた。それは、ある人と出会ったからだ。
「ふふ、センパイ、それ超絶カッコいーすね」
多分意味もなく眼帯をしたその黒髪の女の子は、トイレで魔剣師名鑑を読んでいた私を見て言った。というか個室をのぞき込まれた。
「いやぁああああああ!!!!!」
それが浅倉シオンと永崎ナギサの出会いだった。
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