172 祈祷ヨシュア
※以降の話数は同シリーズ作品である『黎明旅団』をお読みいただきますとより楽しめます。
「あのー、大丈夫ですか?」
ゆっさゆっさ。肩を軽く揺らしてみるけれど、反応はない。え、死んでる?
こんなこといつかにもあったな。ああ、魔刃学園の入学式だ。生垣に突っ込んだまま空腹で死にかけてた折紙アレンを助けた時だ。私は死にかけてる人に出くわすことがままある。
「息はあるんだ……。うーん、どうしよ。私、神様的な力を持ってるのに、全く使い方がわかってないせいで無能すぎる。とりあえず永遠をぶつけてみる? いや、普通に死んじゃうか。だとしたら養護教諭さんのアーツで……──」
ぴくり。少女の身体が跳ねた。びくん、私の方がびっくりする。私は指先でつんつん触れてみる。すると、さらさらの黒髪ショートカットがふわりと風に揺れ、彼女のオッドアイが見えた。目があいてる!
「……──っ」
「あの、えっと、その。どこか痛みます? あの……──」
しまった、私、神様的な力を持ってるのにめっちゃコミュ障だった! これだけは治んないんだよな全くもう。けれど心配はなかった少女はふっと目線をこっちに向けると、唇を地面に擦りながらも言葉を発した。顔かわいいな。
「ここは」
ここはどこ? かな。ここがどこかわかってないということは、私が引き起こした災害の生き残りとかじゃなくて、その後にここに発生したんだろう。私は端的に今の状況を話した。
「ここは太陽系第三惑星の地球、たぶん位置的には日本。あ、日本語わかります? まあいいや、えっと、魔刃学園っていう魔剣師養成校に通ってた私が、なんやかんやあって魔剣師の頂点である剣聖になったんですけどその後なんやかんやあってその世界を滅ぼしちゃって、でも今はそれよりも《冷帝》ってやつを倒さなきゃいけなくって、同時並行で、折紙アレンっていう恋人……──あ、いや、まだ正式には付き合ってないんですけど、その人と、綾織ナズナっていう顔面優勝してる親友を助け出すために世界を巡っている所なんです。あ、もしかして王庭十二剣とか持ってたり、在る場所知ってますか? 私ってば無鉄砲なもんで全く場所とかわかん──」
「……──」
「あ、いやなんでもないです」
人間、長い間人と喋んないと寂しさでこうなっちゃうんだな。いや、私の場合は多分関係ない、たぶんただのコミュ障だ。うわ、全然端的じゃない、恥ずかしい死にたい。いやでも永遠だから死ねないわ、がはは。じゃないのよ。黒髪ショートオッドアイガールがめっちゃ困った顔してる……。
しかし私の危惧は他所に、少女はとても理知的で、自分の思ったことを本当に端的に表してくれた。
「……私の名は祈祷ヨシュア。ここではない別の世界から来た──恐らく。私は帰らなきゃいけない。皆殺しにして、世界を平和にしなきゃならない」
漆黒の右眼と純白な左目がこちらを見つめる。
……。
「と、とりあえず、お茶する……?」
コミュ障の私には一旦それが限界であった。
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