第73話 侵犯。エルネスト
宇宙海賊の本拠地施設を破壊したスカイスフィア3が太陽系、地球、圭一の屋敷の上空に帰還して1カ月が過ぎていた。
その1カ月の間に、とある星系のゲートに接近中の環太平洋防衛機構所属探査艦が形状的に宇宙海賊のものと思われる宇宙船団により攻撃を受け破壊されている。
また、ゲート通過直後に破壊された探査艦も何隻かあった。こちらも宇宙海賊の宇宙船に酷似した形状の宇宙船からなる宇宙船団による攻撃を受けたものだった。
どちらも宇宙海賊の残党なのだろうが、探査艦が破壊される前に超空間通信により送られてきたデータを解析した結果、ゲート通過後に探査艦を破壊した宇宙船団はかなり大規模な宇宙船群だった。
スカイスフィア3内の圭一の屋敷のリヴィングを模したリヴィングで、4人が集まって探査艦の喪失について話をしていた。
「まさか、もう宇宙海賊たちは復活したのかしら?」と、堀口明日香。
これに、翔太が答えた。
「いや。
ゲートを通過した後撃破された探査艦が送ってきた映像から探査艦を破壊した宇宙船団の構成艦の形状を分析してみたんだ。
基本形状は宇宙海賊と同じでレールガンを紡錘型の艦の軸線に集中させたものだったけど、アンテナの形状や、副砲の配置とか相違点も多かった。そのことを考慮すると、ゲートの先でわれわれの探査艦を破壊したのは宇宙海賊に荒らされていた側、宇宙海賊たちの起源となった宇宙文明所属の宇宙船団だったかもしれない」
「宇宙海賊に荒らされていた側が宇宙海賊の侵入に備えていたところを、われわれの探査艦が無断で侵入したってことか」
「それって、そうとうマズくない?
地球で言えば領空侵犯とか、領海侵入になるんじゃない?」
「かなりマズいだろうな。われわれの探査艦の形状は球型だし、彼らからすれば完全な不審船だ。
もしもわれわれの太陽系にそういった不審船が侵入してきたらこちらも警戒するし、不審船の送り元をなんとかして割り出して、何らかの行動をとるからな」
「敵認定されるかもしれないってことよね」
「それは避けたいところだが、こちらから申し訳ありませんでしたと菓子折りを持って頭を下げることもできない以上、今のところ何もできないしな」
「これから先、先方から何らかの接触というかゲートから太陽系への侵入があったらどうする?」
「相手次第だが、こちらの通信に答えず一方的に攻撃してくるようなら、反撃せざるを得ないな」
「言葉が通じない以上、コミュニケーションの取りようはないんじゃないか?」
「その辺は悩ましいところだな。
宇宙海賊たちは地球の言語を理解していたからコミュニケーション可能だったのだろうが、次に現れる何かが地球の言語を使えるか分からないからな」
「ねえ、宇宙海賊たちはどうやって地球の言葉を理解できたの?」
「地球から100年以上宇宙に向かって電波を垂れ流しているわけだから、その電波を拾って分析したんだと思う。ある程度指向性を持たせた電波でも光年単位の距離になるとかなり微弱になるのだろうけど、それなりの技術があれば拾えるんだろうな。事実として宇宙海賊たちは地球の言語を使ったわけだから。明らかに信号と思われる電波だから、分析を進めたんだろう。映像データなんかも垂れ流してたわけだから言語の分析も捗るんじゃないか」
「宇宙海賊たちに荒らされていた側となると、地球の電波も届いていて、地球の言葉を分析してるってことはないかな」
「可能性は十分ある」
「じゃあ、今度ゲートから何か現れたら地球の言葉で話しかけてみる?」
「試した方がいいだろうな。それで意思疎通できるようなら、平和的な接触が可能になるからな」
「今回の件とは別だけど、地球から電波を垂れ流さないようにしないと、第2、第3の宇宙海賊が現れるんじゃないか?」
「そういえば、宇宙へ通信を試みるとか言うプロジェクトがあったじゃない? あれってとんでもないことよね」
「欧米人たちは自分たちがしてきたアフリカや中南米への侵略とか忘れて、宇宙の住人がいい人前提というところが謎だよな。
自殺志願のようなものかもしれない」
「どこかの組織が今もやっていたら即刻止めさせないといけないな」
「環太平洋防衛機構に加盟している国が主体の組織なら止めさせられるが、そうじゃない国の計画だったら何もできない。
妨害電波じゃ、妨害電波そのものが灯台になってしまうからそんなことできないしな」
「あるweb小説で、事故を装って国内の邪魔者を大量に抹殺するってのがあったがな」
「できるものなら、破壊してしまいたいよな。
それはできない以上これからも何かがこの太陽系に現れることを常に想定していなければいけないってことだな」
「さしあたりの脅威だった宇宙海賊は鳴りを潜めると思うが、連中の起源となった文明からの接触の可能性が一番高いだろうな。なんとなく接触といってもあまり良くない意味での接触になりそうだな」
「うん。宇宙海賊は懲らしめただけだが、相手が本物の宇宙文明となると場合によっては本格的な戦争に発展するかもしれない。悪くすれば絶滅戦争だ。
そうならないようにしたいが、方法は今のところは分からない。われわれにできることは備えることだけだ」
「軍備の拡張?」
「そういうことになる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エルネストの母星では、コルセアのものとは考えられない球型宇宙船がゲートを越えてエルネストの領有する複数の星系へ侵入したことを重くみていた。
侵入した宇宙船はいずれも同じ形式の宇宙船で簡単に撃破できたのだが、その宇宙船には未知の技術が使われており、将来的に実用化も可能かもしれないとエルネストでも考えられていた理論上の技術も実用化されていた。未知の技術の実用化は到底できないが、理論だけでも知られている技術のうちの何種類かについては、母星が恒星を100回公転するまでには実用化できるのではないかと考えられた。
エルネストにとって誤算は、破壊した宇宙船はいずれも全く非武装だったことだ。明らかに進んだ文明に対して、明確な敵対行動をとったわけで、報復が懸念された。
幸い、理由は不明ではあるがコルセアの活動は不活発化しているため、宇宙船のやりくりには余裕があった。そのためエルネストでは、コルセアに占拠された星系の奪還ではなくコルセアとの抗争にかまけここ数百年送りだすことのなかった探査艦隊を送りだすこととなった。
先般の宇宙船を送り込んできた宇宙文明の情報を収集し、できれば潜在的脅威であるその文明に対して有利な戦いを挑み打ち負かしたいと考えていた。いかに進んだ文明であれ武装もせず宇宙船を送り出すような宇宙文明ならゲートの先を封鎖はしていないだろうし、奇襲が成功すれば十分勝算はあると考えられた。
送りだされる艦隊はエルネストでは探査艦隊と呼んでいたが、その内訳は最新鋭大型巡洋艦24隻で構成されており重武装の艦隊だった。




