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宇宙のスカイスフィア  作者: 山口遊子
第2部 スカイスフィア3
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第68話 X力場


 こちらは、児玉翔太。


 地上の建設工事が一段落し、衛星軌道上の工場も軌道に乗ったいま、翔太はスカイスフィア3の中に作ってもらった研究室の中で、X金属の新たな可能性について研究を続けていた。


『スカイスフィア3の防御スクリーンはいずれも電磁波に対するもので、物理攻撃は装甲に頼っている状態だ。砲弾により飽和攻撃を受ければ迎撃が間に合わず大なり小なり装甲はダメージを受けてしまう。物理攻撃を直接迎撃で排除するのではなく、対物理スクリーンができないか?』


 翔太は常々そう思っていた。


 X金属の生み出す推力場を翔太はX力場と名づけている。そのX力場が周辺の金属に影響し推力を与えるなら、その影響範囲を宇宙船外に作り上げることができれば、物理スクリーンになり得るのではないかとアタリをつけていた。


 そういったアタリから、翔太はX金属の生み出すX力場に指向性を与える研究を始めていた。これにより本来数センチから10数センチ程度しかない場の影響範囲を伸ばせるのでは、と考えていた。実用的には1キロは欲しいと思っていたが、なにか、新機軸を編み出さなければ、今の研究を続けていくだけでは、伸ばせたとしても1メートルがせいぜいだろうとも思っていた。


 コンピューターがらみの仕事がなくなった堀口明日香は翔太の助手として働いており、今も二人でスカイスフィア3内に構えた実験室でX力場の影響範囲を伸ばせる新機軸はないものかと話し合っていた。


「そう言えば翔太さん」


「うん?」


「キオエスタトロンの場って水を通さなかったでしょ?」


「そうだね」


「あれは、キオエスタトロンの場を水が吸収したって考えていいの?」


「反射した可能性もあるけど、反射したならキオエスタトロンの場にムラができるはずだけどそんなことはなかったから、吸収したと考えていいんじゃないかな」


「それと同じで、X金属が推力を作りだすX力場がセンチメートル単位なのは、発生した場を吸収するようなものが周りにあるからじゃないかな?」


「X金属の周りにあるのは水素ガスだけだよ。

 えっ!? まさか水素ガスが影響してた?

 しかし、どうやって検証すれば?」


「水素ガスの層を限りなく薄くしてX金属の上に流したらどうかしら?」


「水素の消費は水素ガスの流量で補うわけか。

 ドーラ、そういった試験装置が作れるかな?」


 どこというわけでもなく翔太がドーラに話しかけたら、ちゃんと返事が返ってきた。


『1時間待ってて。でき上ったら、そこの実験台の上に転送するね』


「ありがとう」


『どういたしまして』


「ドーラのおかげで、実験はスピーディーになったわよね」


「全くだ。ちょっと便利に使い過ぎているところもあるけどね」


「いいんじゃない、それくらい。装置が届くまで休憩しましょ。

 翔太さんはコーヒーでいい?」


「コーヒーで、お願いします」


「了解」


 研究室の脇にある給湯室らしき小部屋で明日香がコーヒーを2人分用意してショウタのところに戻っていった。


 二人でコーヒーを飲んでいたら、ふらりと圭一が現れた。そして、


「おっと! これは失礼。お邪魔しました」


 そう言って研究室から出ていってしまった。


「なんだ?」


「さあ?」



 ドーラに製作を頼んでいた実験機材が翔太の研究室に転送されてきた。


 送られてきたのはX金属を封入したガラス板と鋼材でできた全長6メートルほどの支柱で、支柱の中央部には、そのガラス板を挿入するスリットが空けられ、支柱固定用の金具が取り付けられている。


 X金属を封入したガラス板とX金属の間には水素ガス経路として0.3ミリ、その10分の0.03ミリ、さらにその0.003ミリ=3ミクロンの間隔を空けたもの、全部で3種類が用意されている。ガラス板の両端にはバルブがついており、バルブを水素ガスポンプに繋ぐことで水素ガスをガラス内の経路を通して循環させる。


 支柱の中央部分を固定し、X金属を封入したガラス板を中央部のスリットにセットして、X金属からの距離による推力の発生状況を調べることでX力場の影響範囲を測定することができる。


 支柱にはひずみゲージが3センチおきにマイナス99番からプラス99番まで貼られている。推力が発生すれば、支柱がたわんでひずむので、そのひずみをひずみゲージで測定し、ひずみ発生位置とひずみ量、支柱の形状と鋼材のヤング率などからX力場の範囲と強さを測定することができる。


 まず翔太は水素ガス経路厚0.3ミリのガラス板を鋼棒の中心のスリットにセットし、水素ガスチューブを接続した後、キオエスタトロンを最低強度で起動させた。各ケージにかかっている歪みは推力に換算されてモニターに表示されるようになっている。


 モニターの表示によるとマイナス83番からプラス83番までの位置でほぼ同じ大きさの推力が発生していた。


「明日香さん凄いよ。新記録だ。252センチまで伸びた」


「翔太さんおめでとう。

 0.3ミリ厚で252センチということは、10分の1の0.03ミリになると、10倍になって25メートルになるのかしら? それだと実験装置の長さが不足するわよ」


「不足するだろうけど、確認だけはしておこう」


「そうね」


 翔太は0.3ミリ厚のガラス板を、0.03ミリ厚のガラス板と取り換えて、同じ実験を行なった。


 その結果、ゲージはマイナス99からプラス99まで、全てのゲージが反応した。



「予想通り振り切れたわね。

 翔太さん、どうする?」


「測定装置の長さを片側300メートルくらいまで伸ばしてみるか」


「そんなに伸ばせるものなの?」


「スカイスフィア3の中じゃ無理だから、外で実験だな」


「外って宇宙空間で?」


「そう。いまみたいに中央部分をスカイスフィア3に固定し片側300メートルずつゲージ付き支柱を伸ばしてみればいいと思うけど。

 ドーラ、何とかできるよな?」


『問題なし。ゲージ間隔は1メートルおきでいいかな?』


「それで十分」


『30分ほど待ってて』


「了解」



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