第32話 DORA（ドーラ）回収
ＤＯＲＡをゲートの先に送り出して、スカイスフィアは待機用円軌道に入るため、加速を開始しゲートから離れていった。
加速開始後、２時間４５分が経過し、スカイスフィアの速度が秒速１１０キロとなったところで、スカイスフィアは天頂部を木星中心に向け、船内加速度１Ｇで加速することで、木星中心から半径１００万キロの円軌道を描いて１周１７時間の周回を最大１０周行う。最後の周回は１５時間４０分周回後２時間４５分かけてガニメデ＝ゲートの接線速度である秒速１１キロまで減速し、ゲート先の観測を終えて帰還するＤＯＲＡを回収する。
先方の恒星系を観測中、何らかの不具合がＤＯＲＡに発生した場合、ゲートに突入可能ならＤＯＲＡは速やかに撤退し、ゲート近傍でスカイスフィアの到着を待つことになっている。
スカイスフィアは周回中、木星本体とその磁気の影響を受けない位置にまでゲート＝ガニメデに接近したところで、ゲート近傍に向けて電波信号を放ち、ＤＯＲＡから返信があった場合は、ＤＯＲＡは何らかの不具合でゲートから離脱していた場合であるため、スカイスフィアは所定の位置から２時間４５分かけて接線速度１１キロまで減速しＤＯＲＡを回収する。
スカイスフィアは天頂を木星に向けて円軌道を描き始めて１２時間が経過した。その間各人は睡眠をとり、シャワーなどを浴びてリフレッシュしている。
真理亜を除き３人は操縦室の座席についている。
「もし、ＤＯＲＡに不具合があってゲートから出ていた場合、そろそろ電波が届くんじゃないか？」
「直線的には電波が通るが、後１時間は木星の地場と宇宙線の影響で電波は届かないだろう」
「なかなか厄介だな。最後まで何事もなく、俺たちが到着したところで、ＤＯＲＡにはゲートから現れてもらいたいな」
「それはそうだ」
スカイスフィアからＤＯＲＡに電波信号が送られると、ＤＯＲＡは電波を受信した方向を割り出し、その方向に向けて返信するようプログラムされている。
「何か起こるとしたら、あのガス巨星の周りに漂っていた大型のチリに衝突されることぐらいじゃない？」
「あとは、磁気か宇宙線か。チリの衝突なら完全破壊しない限り自力でゲートを抜けられる可能性は高いが、磁気や宇宙線で制御用のコンピューターが破壊されたら帰ってはこられないよな」
「それはないんじゃない。ＤＯＲＡからの最初の報告ではそういった異常はなかったわけだから、今回ＤＯＲＡが移動する程度で、急速に状況が悪化するとは思えないもの」
「何事もなければＤＯＲＡは向こうにいったままあと６日間観測を続けるわけだし、何かあってＤＯＲＡが向こうで動けなくなっても、スカイスフィアはあと９周木星の周りを回らないと結論は出せないから、落ち着いていよう」
「そうね。減速を始めるまでまだ２時間半あるから、映画でも見る？」
「いや、見ない。
真理亜さんのところにいって望遠鏡を覗かせてもらってくる」
僕は、リビングの大画面でアニメを見てるから」
「あなたたち、付き合い悪いわね」
……。
「ＤＯＲＡに信号を送ったら返事が返ってきた。ＤＯＲＡに何かあったみたいよ。スカイスフィアはＤＯＲＡがこれまでに集めたデータを受信してる。
みんな操縦室に集まってくれる」
『『了解』』
翔太と圭一は船内の最終見回り終え操縦室に入った。
真理亜は既に席に着いており全員操縦室に集まり、各員が座席に座りシートベルトを締めた。
「減速開始まで５分」
……。
いったん無重力状態で回頭しゲート＝ガニメデに天底を向けたスカイスフィアは減速を開始した。天底望遠鏡はガニメデを捉えている。
ＤＯＲＡからは、その間観測データがスカイスフィアに送られているのだが、強いノイズのため意味のあるデータは今のところ受信したデータの３分の１程度である。
減速を終えたスカイスフィアは、ゲートとの相対位置を保つよう見かけ停止した。ＤＯＲＡからの信号は完全に回復しており、ＤＯＲＡはスカイスフィアに向かって移動を始めた。
「今のところ分かっている不具合は観測機器が何個か死んでるところと、重心がかなり推進器のある中心からズレているため回転モーメントが働いて向かいたい方向と実際進む方向にズレが出ているみたい。少しばかりのずれならＤＯＲＡが勝手に補正するハズなんだけど、想定以上のズレが出ているようね。
それと気になるのはＤＯＲＡの加速が推進器の出力とズレてるわ。推進器の出力のデータが間違いないのなら、ＤＯＲＡの質量が２倍以上になってる」
「それが本当なら、隕石がＤＯＲＡの外殻を破って突入したものの貫通まですることなく内部に閉じ込められた可能性が高いな」と、翔太。
「それって、他星系の隕石を採取したってこと？」
真理亜がやや興奮して、翔太に聞いた。
「まだわからないけど、可能性は高いと思う」
「３分後にＤＯＲＡが格納庫に入るわ。もしうまくいかないようなら、スカイスフィアを手動で動かして回収しないといけなくなるから、航海長としての腕の見せ所ね」
「スカイスフィアはそこまで細かい動きができるのか？」
「できるできないじゃなくて、やるかやらないか。そうでしょ」
「確かにその通りだ」
「船外カメラがＤＯＲＡを捉えたわ。モニターに出すわよ」
球型のＤＯＲＡがスカイスフィアの格納庫に向かって接近してくる。今のところ外観には異常はない。
「ＤＯＲＡは回転できないから全体の確認ができないな」
「こんなことがあるとは思っていなかったからそこは仕方ない。地球に帰ってからのお楽しみだな」
「予想通り大穴が空いて、中に隕石が入っているとして、落っこちないかな？」
「回頭時、ＤＯＲＡを振り回さないように細心の注意を払うしかないな」
「それなら、任せて」
そうこう話していたところ、問題なくＤＯＲＡは格納庫の中に収納されプレスアームで固定された。その間にもＤＯＲＡが収集したデータはスカイスフィアに送られ続けている。
