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宇宙のスカイスフィア  作者: 山口遊子
第1部 宇宙のスカイスフィア
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第2話 謎の金属X、その2、試験


 隕石から採取した謎の金属を分析した結果、原子番号78のプラチナであることは確定したが、どうも中性子の数がおかしい。


 ハンドブックで調べたところ、分析結果である中性子数122と124は安定ではなく半減期は長い方でも数十時間だった。


 半減期が数十時間ということはプラチナ原子が崩壊してなにがしか別の原子に変化しているわけだから、組成が100パーセントプラチナということはありえない。


 分析機の故障? 先週も使った装置だし、その時には異常なかった。装置の不具合の可能性は低い。


 そうこうしていたら、始業時間になったので、翔太は本来業務である金属の特性の研究を再開しようとしたが分析装置に不具合があれば今抱えている研究も進まないため、まず朝方使った分析装置を使って標準試料の分析を行ってみた。やはり、分析結果は正常だった。ということは分析装置に異常はないということだ。


 隣りの研究室からの作業音はいつのまにか止んでいた。


 翔太はしばらく手を止め、理由を考えてみた。


――これは2種類の同位体が特殊な原子配列構造をすることで安定状態を保っているのではないか?


 こうなってくると、本来の研究そっちのけで翔太は新しいアイディアの検証にとりかかった。


 原子配列を分析するための構造解析装置は翔太の研究室にはなかったので、一番大きな試料の表面を研磨装置で研磨して装置のある研究室にいき、無理をいって試料を分析してもらった。分析自身はすぐに終わり、結果は翔太のパソコンに送られた。


 モニターに映し出された試料の原子配列は今まで見たこともないものだった。


 色分けされた中性子数122のプラチナ原子の層と中性子数124のプラチナ原子の層が原子1個の厚さで相互に重なっていたのだ。つまりこの物質には横方向と上下方向が存在することになる。


――こういった構造を持ったことで不安定な同位体が崩壊もせず残っているわけだから不思議なものだ。逆に考えればこういった原子の配列構造を人工的に作り出すことができれば、放射性同位元素も安定化できるはず。ノーベル賞間違いなしの研究だな。


――一生モノの仕事になるのは間違いない。


 嬉しそうな翔太だった。



「まずは物性の一つとして抵抗を測るか。今日の試料では測れないから、家に帰ってそれなりの量、隕石を切り出そう」


 いちおう区切りの付いた翔太はその日予定していた業務研究用の試験を行い、定時に帰宅した。


 愛車に乗っての帰宅途中、ファミレスに寄って夕食を済ませた翔太は、自宅に帰って玄関先に置いていた隕石にナイフで傷を入れながら、5ミリ角程度の試料を切り取った。これをティッシュに包みさらに会社から持ち帰ったジッパー付き試料袋に入れて通勤カバンに入れておいた。



 翔太は翌日も朝早く出社し、持ち込んだ試料の試験を始めた。隣りの研究室では昨日同様金田研究員が何かの試験を行っているようで、ブーンという低い音が聞こえてきている。



 今回は抵抗の測定なので試料の整形を入念に行い、直径1センチ、長さ5センチの円筒形の試料ケースにセットして、抵抗測定用試験機に挿入した。試料ケースそのものはステンレス製で、しっかりした作りになっている。


 抵抗測定用試験機は試料の電気抵抗率を測定する機械なのだが、測定開始すればすぐに測定値がデジタル表示される。


「10ナノオームメートル以下、この装置だとここまでしか計れないな。本格的な測定が必要だ。また頭を下げて測定だな。

 あれ? 急に電気抵抗率が大きくなった。100ナノオームメートルじゃないか。おかしい」


 翔太はその時ふと、隣の研究室から聞こえていたブーンという音が止まっていることに気づいた。


「抵抗値の変化に、隣りの研究室にあるキオエスタトロンが発生する特殊な場が影響を与えている? まさかな。今度あの機械が動いているとき、もう一度抵抗を計ってみるしかないな。

 これはこれくらいにして、そろそろ今日の業務に取り掛かるとしよう」


 翔太が、抵抗測定用試験機からステンレス製の試料ケースを取り出したところで、また隣りの部屋からブーンという音が聞こえてきた。


「よし、もう一度。確認だ」


 試料ケースを挿し込んで測定すると、


「やっぱり10ナノオームメートル以下になってる。うーん。

 今度金田研究員にキオエスタトロンについて詳しく話を聞くとするか。それにしてもキオエスタトロンから漏れ出ただけの場の影響でこういった効果があるとすると、キオエスタトロンが発生させる場の中心に試料を置いたらたらとんでもないことが起こりそうだな」


 そう独り言を言いながら、試験機から取り出した試料ケースを人差し指と中指に挟んでくるくる回していたら、試料ケースが指から離れて消えてしまい、研究室の窓ガラスからビシッという音が聞こえた。窓を調べたところワイヤー入りの窓ガラスに10ミリちょっとの孔が空いていた。


「いったい今のは何だ? 試料が勝手に飛んで行ってガラスに孔をあけたのか? そんなバカな」


 とはいえ窓ガラスに孔は開いているし、その孔は外側に向かって広がっている。どう見ても部屋の中から外に向かって銃弾のようなものが貫通したあとだ。


「さっきは指で試料ケースをくるくる回していた。試料の方向とキオエスタトロンの場の方向が関係しているのか? まるで見当がつかないが、未知の力が働いて試料が飛んでいったことだけは確かだ。

 こうなってしまうともう俺一人の頭じゃ無理だ。山田圭一に相談してみよう。あいつなら何かいい知恵を出してくれるかもしれない」


 山田圭一は翔太が大学時代属していたボート部へ同年入部、同期の仲間で、二人でダブルスカルを漕いでいた間柄だ。山田圭一は両親を早くに亡くしているが大資産家でもあり日本人なら誰でも知っている大企業数社の大株主でもある。現在は表立っての仕事はせず、資産運用などを地方にある自宅で行っている。このところ圭一とは年に一度、大学ぼこうの対校レースの時、レースに集まった同期のボート仲間たちと一緒に飲むくらいしか顔を合わせていないが、そういった相談には快く乗ってくれるだろうと翔太は確信している。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 窓に10ミリの穴ということは、中身だけが外に飛び出したと言う事だと思うのだが、金田が拾った時はケースに入っていてとても10ミリの穴を通り抜けることができるとは思えない。 あと主人公が同…
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