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宇宙のスカイスフィア  作者: 山口遊子
第1部 宇宙のスカイスフィア
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第18話 阿木真理亜2


 阿木真理亜を連れて翔太たちは研究所を出て組立工場に向かった。


 カーブを描く坂道を上っていくと100メートル四方の敷地に立つ組立工場、作業員の仮宿舎などが見えてきた。


「広いところですね」


「将来的には今の宇宙船よりも大きな宇宙船をここで作れるよう土地だけは造成したんですよ」と、圭一が説明した。


「そこの建屋がさっきの映像に出ていた宇宙船の組立工場です」


 組立工場正面のシャッターは下ろされているので、4人はシャッターの脇にある通用口から工場の中に入った。翔太が通用口の脇にある照明スイッチを入れると、投光器でスカイスフィアが照らされた。次に屋根の開放ボタンを押すと組立工場の屋根がゆっくり開き始め、青空が工場内からも望めた。


「凄い!」


 太陽光と投光器の光を反射する銀色の球体は、数字上高々直径12メートルだが近くで見ればかなり大きい。しかも表面が磨かれており、それがペラペラな板金製の張りぼてではなく刃金はがねを思わせる重厚感をスカイスフィアに与えている。


「今日は飛行許可をとっていないけれども、地表から150メートルまでなら大丈夫だったはず。どっかから何か言ってくれば、弁護士が対応してくれるだろうから、阿木さんを乗せてちょっとだけ上がってみるか?」


「そうだな。

 阿木さん、今日は飛行許可を取っていないので宇宙までは飛び立てませんが、ちょっとだけ上に上がってみましょう」



 4人はハッチに向かう斜路を上って、ハッチからスカイスフィアの中に入った。スカイスフィアはハッチが開くと、内部が消灯中だった場合は照明が点灯するようになっている。


 3人は阿木真理亜を伴い、操縦室に入った。


「ここに座っていてください」と、翔太が阿木真理亜に自分の椅子に座るよう言うと、


「わたしは立ってますから」と、阿木真理亜が遠慮したので、


「150メートルまで上って下りてくるだけなので、僕は大丈夫ですから座っててください」


「それじゃあ、遠慮なく座らせていただきます」


 翔太は、明日香の椅子の背もたれに片手をかけて、立っていることにした。


「それじゃあ、明日香、発進だ」と、圭一。


「了解。発進シークエンス開始!」


 明日香が慣れた手つきでキーボードとトラックボールを操作していく。これまで操作にマウスを使っていたが無重力状態では使いにくかったため、今はマウスの代わりに操縦卓に固定したトラックボールを使用している。



「各部異常なし。センサー類正常。

 スカイスフィア、主電源装置起動。電圧正常。内部電源に切り替え。

 外部電力切断。発進します」


 本当はマズいのだろうが、翔太が明日香の斜め後ろに立っているせいか誰もシートベルトはしていなかった。


「スカイスフィア離床。微速上昇」


 モニターに映し出される周囲がゆっくりと下の方に移動を始めた。船内では主推進器のキオエスタトロンの低い振動音がするだけである。


「飛んでる? 飛んでる!」


 阿木真理亜の声に残りの3人は微苦笑する。


「真理亜、本当に疑ってたのね」と、明日香が前を向いたまま笑って阿木真理亜に話しかけた。


「だって、信じられないような話だったんだもの」


「でも、これで信じたでしょ」


「まだ宇宙に出ていないけど、ロケットでもないしヘリコプターみたいなプロペラもない、未知の推進機関で動いてる以上信じるほかないわ」


「地上から150メートルまで上がったら、そこで一旦停止するから窓から景色を見ればいいわよ。今の船内加速度もほぼ1Gだし、モニターじゃCGかも知れないものね」


「明日香、もう信じてるから。それ以上言わないで」


 明日香の言うようにスカイスフィアは地上150メートルで一旦停止したあとゆっくり降下を始め、架台に着陸した。


「スカイスフィア、架台に着陸。誤差無し」


 外部電源プラグがスカイスフィアに接続され、内部発電機は停止した。


「明日香、ご苦労さん」


「どういたしまして」


 3人は阿木真理亜を伴ってスカイスフィアから下船した。翔太が工場の壁のボタンを操作して組立工場の屋根がゆっくりと閉じ始めた。



 一行は、組立工場から研究所の会議室に戻り、


「阿木さん、いかがでした?」と、圭一。


「ただただびっくりしました。あの宇宙船で本当に宇宙にいくことができるなら。わたしもぜひ乗せてください」


「真理亜、宇宙にいけるから。本当にいけるから」


「そ、そうだったわね」


「真理亜、わたしたちが計画している次の宇宙旅行はそこまで長期間ではないと思うけど、外惑星を目指すようになればかなり長期間になると思うの。今の仕事てんもんだいを辞めることになると思うけれどそれでもいいの?」


「こんなチャンスは二度とない以上、当然今の仕事は辞めます」


「それじゃあ、阿木さん、株式会社スカイスフィア研究所の正社員ということでいいですね。うちは社員の福利厚生はしっかりしているから、そこは心配無用ですよ。給料の方は明日香と同じでいいでしょう。なあ、明日香?」と圭一が明日香に話を振った。


「わたしこれくらい貰ってるの」


 そう言って、明日香は阿木真理亜に耳打ちした。


「そんなに貰ってるの!?」


「うん。それに、わたしの今住んでいるマンションも社宅だけど、社長けいいちにいさんに買ってもらったものなの」


「僕はこの研究所の裏に住んでるし」


「そんな感じで社宅完備ですから、お得ですよ」と圭一。


「わかりました。よろしくお願いします」



 阿木真理亜は今の仕事の区切りをつけて、1カ月後スカイスフィア研究所に転職することになった。


 その1カ月の間に、阿木真理亜が指定した天体観測用機器の購入、スカイスフィアへの取り付け工事などを翔太側では行っている。


 そのほか、スカイスフィア研究所自体でもある程度収益を生んでいこうという話となり、圭一が影響力を持つ数社の大型工場にX金属発電機を設置して売電することにした。スキーム的には金田光の光発電と同じである。3カ月後には全ての施設が稼働できる見込みである。これにより、スカイスフィア研究所は宇宙船関係の費用を除き月間3億程度の利益が上がる目処がたった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] という事は、デブリ対策は物理防御のみですかぁ、ヤバそうだなぁ、あとは、地球磁場外に出た場合の太陽風(放射線)への防御も、防御は鉛使用とかになるのかなぁ
[一言] 無限の彼方へさあ行くぞ 次回あたりかな
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